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エッセイの研究(4)『文・堺雅人』堺雅人
3冊目にして、はじめて
芸能人のエッセイを
取り上げます。
『文・堺雅人』は、
その名の通り、
俳優・堺雅人が書いた
エッセイ集です。
もとは『月刊TVnavi』で
連載されていたもので、
1巻目はちょうど、
朝ドラの『オードリー』(’00)や
大河ドラマ『新選組!』(’04)で、
著者の存在がお茶の間に
浸透しはじめた頃ですね。
今ではドラマ『半沢直樹』の
イメージが強いかもしれませんが、
インタビューなどを見ると、
落ち着いた雰囲気の方で、
その空気感は文章にも
現れています。
いろいろ本を読んでいると、
タレントの本というのは、
本人が書いていないものも
多い印象です。
一番、多いのは、
取材した時の本人の語りを
そのまま本に書き起こした
タイプの本ですね。
しかし、この本は、
その手の本とは違います。
まぎれもなく、堺雅人本人が
自分で文章を書いた
筆跡が感じられるのです。
いろんな本を読むと、
そういうことも
見分けられるようになるんですよね。
そもそも、堺雅人自身が、
かなりの読書家のようで、
エッセイの中にも本の話が
よく出てきます。
能役者・世阿弥の
『風姿花伝』あたりが
出てくるのは、
役者の仕事に通じる内容なので、
それほど驚くべきことではありませんが、
演じる役の時代を知るために、
『坂の上の雲』を読んでいたり、
郷里の歌人、若山牧水の話も
出てきたりするのが印象的でした。
そんな中でも
強く印象に残っているのは、
著者が幼稚園の頃に
はじめて演じた演芸会の話です。
この時に著者が配役されたのが
「カベムシ」という謎の虫で、
今にして思うと、
「誤植だったのではないか」
とのことでした。
結局、カベムシをやりたくなかった
子ども時代の著者は
駄々をこねて、
他に三人いた悪役のクモに
混じって
「クモに加担する謎の黒い虫」
ということに落ち着いたそうです。
(結果、観客には
四匹目のクモにしか見えなかった)
このエッセイ集では、
他にも昔の思い出話や
演技の仕事のことなど、
いろいろ書かれていますが、
整った文体も相まって、
読んでいて飽きません。
もちろん、他愛のない話でも
関心が持てるのは、
書いている人が有名人だから、
というのもあるでしょう。
少なくとも、私自身は、
この本を読む前から
堺雅人のファンでしたし。
でも、この本を読むことによって、
さらに俳優としての側面だけでなく、
本来の姿を見ることが
できたような気がして、
嬉しかったんですよね。
読んでいて、
そんな記憶も甦ってきました。
何よりも彼の柔らかい文体が
私は好きですね。
気取らずに、
素直に思っていることが
書かれているところにも
好感が持てます。
堺雅人のエッセイから得た
「エッセイのおもしろさ」は
「素直に書く」ことです。
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