お元気ですか?ロマンティックあげるよおじさん

めちゃくちゃ久しぶりに私のバイブル的ドラマ、『大豆田とわ子と三人の元夫』を見ていたら懐かしい思い出がひょっこり顔を出しました。

第一話でとわ子が工事現場のぬかるみにハマってしまうシーンを覚えていますでしょうか。シーズン1もとい田中八作に助け出された後、お風呂に入っているとわ子が歌っていたあの歌。それこそがトリガーでした。

「おいでファンタジー 好きさミステリー
 君の若さ 隠さないで」

「不思議したくて 冒険したくて
 誰もみんなウズウズしてる」

待って、なんやったっけ。”不思議したくて”っていう、普段あまりすることのない言い回し、絶対聞いたことあるねんけど、なんやったっけ!?


「ロマンティックあげるよ ロマンティックあげるよ」



うわあああ!それや!!!!!
ほんでとわ子(というか松さん)めっちゃ歌上手いな。あんな上手い歌聞いても風呂場に飛び込んでいかず、「あっ、オープニングになった」って微笑むだけにとどめられる田中八作なんやねん。結婚してた時から風呂場で歌ってたんかな。

それはいいとして、今回ここに書き留めておきたいのはこの曲にまつわる思い出で。くだらん話ではありますが、忘れっぽい私がかなり鮮明に覚えている数少ない記憶なので紹介させてください。

大阪に千里中央という場所がありまして、モノレールも阪急電車も止まるような大きい駅で、その周辺には百貨店や商業施設が軒を連ねるような場所なんですけども。
その千里中央に、まだ小学生だった私は母とお正月の買い出しに行っていました。

大阪とはいえ、年の瀬にもなれば乾ききった冷たい風がそこらじゅうを駆け抜けます。寒さに震えながら、今は無きオトカリテという建物に続く幅の広い橋を渡っていたその時でした。

「…ンティックあげるよ ロマンティックあげるよ」

なんか聞こえる。めっちゃほにゃほにゃした声やけど誰か歌ってる。
キョロキョロ周りを見渡すと、瓶の酒(たぶんワンカップ大関)を片手に、空の瓶を傍に転がしたまま真っ赤な顔して欄干にもたれかるおじさんが口をもごもごさせていました。

もう絶対この人やん。

こんな人の多い年末に、千里中央なんていう都会のキラキラした街(当時の私はここが1番の都会だと思っていた)で、ようこんなベロベロになって座り込みはるなあと思っていたら、母がめちゃくちゃ神妙な面持ちで

「絶対この歌聞いたことあんねんけど、あんねんけど思い出されへん……」

なんて言い出したんです。

今でこそネットで歌詞を入力したら、たとえその歌詞がほんの一部分でも目当ての曲が検索できるものですが、当時はまだスマホが普及し始めたばかり。
スマホを使いこなせるわけもなく……

もうこうなれば母は必死に自分の記憶を辿るしかありません。

みなさん、自分のこととして考えてください。
絶対今までに出会ったことのあるものなのに、その名前を思い出せそうで思い出せない時、めっちゃ気持ち悪くないですか?思い出すまで悶々とするでしょう??

その後、百貨店のデパ地下に数の子を買いに行った記憶があるのですが、この時も母は思い出せへん…思い出せへん…とうなっていました。

そして、私がロマンティックあげるよおじさんのことをすっかり忘れる頃、母はついに思い出したのです。

その曲名が、ずっと手掛かりにしてきた歌詞そのものの『ロマンティックあげるよ』であることを。

実は、この『ロマンティックあげるよ』は、1985年にリリースされ、その当時放送されていた『ドラゴンボール』のエンディングテーマになっていました。
ドラゴンボールとともに育った1979年生まれの母、子どもの頃ドンピシャで聴いていたというわけです。

何はともあれ、ロマンティックあげるよおじさんが師も走る年の瀬に人混みの中で、あまりにも哀愁漂う姿でこの曲を歌うものだから、その物珍しさにというか、その風貌で「ロマンティックあげるよ」なんてかわいい歌を歌い上げるギャップに驚かされたというか、とにかく当時の私にはかなり新鮮かつ衝撃的な光景だったようで今でもはっきりと覚えています。

というか、この『ロマンティックあげるよ』という曲、結構いい歌詞してるんですよね。

「大人のフリしてあきらめちゃ 奇跡の謎など解けないよ
 もっとワイルドに もっとたくましく 生きてごらん」

「思ったとおりに叫ばなきゃ 願いは空まで届かない」

子どもの頃は曲の意味まで理解して聴いていなかったかもしれないけど、大人になって聴いてみると、まるで今の自分が応援されてるみたいな気持ちになるのかもしれないなあ、と勝手に想像してみたり。
もしくは、当時子どもが見ているアニメを聴き流していた親が、このエンディングテーマを聴いて何か勇気をもらえたことなんかもあるのかな、なんてまたまた勝手に想像してみたり。

ロマンティックあげるよおじさん、お元気ですか。
2024年の年末は暖かい部屋でワンカップ大関を飲めていますように。


(追記)

偶然かもしれませんが、『大豆田とわ子と三人の元夫』の第一話と第六話に使われている『Presence I (feat. KID FRESINO)』の歌詞にも「不思議したくて」というフレーズが使われています。

私自身『ロマンティックあげるよ』を初めて母と聴いた時にそのフレーズが耳に残ったので、なんだか嬉しくなりました。同じところを気にいる人がいるって嬉しいですよね。








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