欧州で出逢ったビールを血肉へ
ヨーロッパでのビール研修も残り1週間。
まとまった日数、特定の醸造所でおこなう研修は終わりました。
残りの滞在では、時間の許す限りさまざまなブルワリー(醸造所)、ブレンダリー(※)を訪れ、見て訊いて、飲んで、五感にその味わいを叩き込んで帰ろうと思います。
こんにちは。高知県日高村で地域おこし協力隊をしています、髙羽 開(たかば かい)と言います。
この「いきつけいなか」では、協力隊の3ヶ月にわたる欧州ビール研修の様子を週に1度のペースで綴っています。
今週の記事では、「おいしいビールをつくるために、ヨーロッパに来てからこんなこともやっていました」というお話を書いていこうと思います。
「最高」をつくるために「最高」を飲む
この業界に入って、いくつかの醸造所で働き、数多くの先輩とお話し、(ビールに限らずさまざまな)ものづくりの本を読み学んだ、当たり前のようでとっても大切な、ひとつの真理があります。
それは、「高い品質の『ものづくり』をするためには、高い品質の『モノ・サービス』を消費・享受しなければいけない」ということ。
高い品質のビールをつくるためには、高い品質だと認識されているビールをまず「味わう」こと、そして、その品質が高い所以を感覚的・論理的に、「理解する」ことが重要だと言われています。
そして当然ながら、ビールを「味わう」という同じ行為でも、「なんとなく味わう」のと「五感に集中して味わう」のとでは、同じ行為から得られる経験値が異なります。
そのビールを「味わう」という行為から得られる経験値を「最大化する」ために行うべきこととして、さまざまな媒体でおすすめされ、多くの造り手やビールファンの方々がおこなっていることがあります。
それは、「味わいを言葉にすること」です。
感覚に輪郭を与える
言語化の効果でよく語られることは、いま自分が感知している香りや味わいを言葉でパッケージングしてあげることで「記憶に残りやすくなる」「比較が可能になる(自分の中にものさしができる)」「自分がつくる際の再現性を生む」というもの。
つくることからは離れますが、「本来共有できない個人的な感覚を他の人と共有し、コミュニケーションがとれるようになる」というメリットもあります。
「言葉にすること」で感覚に輪郭が与えられ、「味わうこと」と「理解すること」を繋げることができる、というイメージです。
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そんな「味わいの言語化」には、さまざまな補助ツールがあります。
「テイスティングノート」はその代表。
ビールの銘柄や味わい、香りを詳細に記録するためのノートのことを指し、業界団体や世界中のプロフェッショナル、ビールファンの方々がさまざまなテンプレートを作成してくれています。
ビールから感じられる香りの特徴をまとめた「フレーバーホイール」という円状/層状の図も有名です。
また、味わいの記録や評価に特化した『Untapped』というSNSアプリは、世界中のビール好きが愛用しています。
(味わいの記録以外にも、ビール・ブルワリー・飲食店の検索、他ユーザーの評価の閲覧、交流など、多くの機能があります)
このようなツールを使ったり使わなかったりしながら、プロアマ問わず、ビール好きの人たちは日々味わいを言葉にし、その解像度を高めることを楽しんでいます。
(テイスティングノートやフレーバーホイールといったツールは、ビールに限らず、ワイン・ウイスキー・日本酒・チョコレート・コーヒーなどさまざまな嗜好品の表現・評価で同様のものが使われています)
よりよく味わうための自分用記録ツール
日本にいたとき、僕は紙のノートにビールの記録をつけていました。
一方ヨーロッパに来てからは、移動も多く、少しでも荷物を軽くしたいという思いからノートでの記録はやめて、Untappedを使うようになりました。
しかし、いざ使ってみると、Untappedにもいくつかの不満点が。
1つは、アプリ上で記録・選択できる「フレーバーの種類の包括性」についてです。
Untappedには、ビールの記録用ページに「Flavor Profile(フレーバーの特徴)」という項目があり、そこにアルファベット順に並べられた350以上の「フレーバー」から自身が感じたものを選択してビールにタグ付をする、という記録方法になっています。
このタグの中には、たとえば「Bread(パン)」や「Biscuity(ビスケットっぽい)」など、麦芽由来の香りを表すタグから、「Pineapple(パイナップル)」、「Peachy(桃っぽい)」といったホップや酵母由来の香りに使えるようなワード、「Astringent(渋い)」、「Burnt(焼けた)」のような口の中で感じる触覚に寄ったタグまでさまざまあります。
350もフレーバーを表現するワードがあれば、あらゆるビールの特徴を網羅できそうにも思えますが、「Hay(干し草)」、「Green Apple(青りんご)」、「Barnyard(納屋)」、「Lactic/Yogurt(乳酸/ヨーグルト)」など、ワイルドエールにしばしば生じ得るフレーバーで掲載されていないものも結構あります。
必要なタグ付けができない、ということは、見返したときに正確な情報が確認できないということでもあり、記録としては好ましくありません。
2つ目は、(アプリなので仕方ありませんが)記録の形式を自分なりにカスタマイズできないことです。
たとえばUntapped上で、僕が取り組む「ワイルドエール」というスタイルは、「Wild Ale - American(アメリカ由来のワイルドエール)」と「Wild Ale - Other(その他のワイルドエール)」という2種類に、自然発酵でつくられるベルギーの「ランビック」というスタイルは、7つに種類分けされています。
最初はこの9つの種類分けでも問題ないように思っていたのですが、使っていくうちにもう少し別のタグもつけてきたくなってきました。
ヨーロッパのワイルドエールの造り手には、ビールとシードル(りんごの醸造酒)をブレンドしてボトルにつめたり、日本酒の樽でランビックを熟成させたりする、実験的でおもしろい(しかもめちゃくちゃうまい)お酒づくりをする人たちがいます。
このようなビールは、Untapped上では「Wild Ale - Other」「Lambic - Other」に区分けされるわけですが、たとえばビアスタイル以外のタグとして「Fusion of Wild and Other (ワイルドと他のお酒の融合)」というタグがもしあれば、そんな、ビールと他のお酒の間(あわい)で揺れるような、実験的なビールだけをピックアップして見直すことができます。
そんな不満を解消しようと、1ヶ月ほど前に「notion」(クラウド型の多機能ドキュメントツール)で自分用のテイスティングノートをつくってみました。
英語表記で作成したので、わかりづらいかもしれませんが、「商品名」「醸造所名」「生産国」「ビアスタイル」「飲んだ場所」といった基本的な情報から、「色味」「透明度」「泡の保ち度合い」「アロマ」「ボディ(口の中での存在感)」「ドリンカビリティ(飲みやすさ)」「バランス」「個人的スコア」などなど、自分が記録したい項目、そしてその項目を構成するタグも自由に作成しました。
1ヶ月ほど使ってみての感想は、項目やタグを自由に追加したり削除したりできるので、使えば使うほど自分に合ったツールにアップデートできる、ということ。
また、notionというツールの特性上、「タグからフィルターをかけて自分のほしい情報だけを表示する」という点においては、Untappedよりもより簡単にできていいなと感じます。
notionのいいところは、自分が作成したツール(テンプレート)を他のnotionユーザーも使うことができるようにシェアできる点にもあります。
半年くらいこのテイスティングノートを自分で使ってブラッシュアップさせつつ、ある程度満足のいくテンプレートになったら日本語版もつくってオープンソース化してもいいかもしれません。
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世界最高峰のワイルドビールづくりに、日々触れ、学び、思う存分味わうことができる生活も、のこりあとわずかです。
より良く「つくる」ために、こっちで出逢ったビールを血肉とするために、引き続き、より良く「味わう」ことにも努めていきたいと思います。
最後に
今週もここまで読んでいただき、ありがとうございました。
髙羽個人のインスタグラムでも日々ヨーロッパの様子を投稿してますので、よかったらフォローよろしくお願いします。
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このヨーロッパ研修記では、海外で研修をおこなう地域おこし協力隊の取り組みや学び、現地の暮らしや文化、そしておいしいビールについて記しています。
また来週もぜひ、ご覧ください。
Cheers!(乾杯!)
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