「多世代が積極的に参加できるイベントにしたい」いきてゆくウィーク実行委員長・松永裕貴さん
「いきてゆくウィーク」は、大阪府豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、さまざまな方が参加したり、学んだりできるようなイベントになっています。
このnoteでは、運営メンバーの想いや背景を発信しています。今回インタビューしたのは、2021年「いきてゆくウィーク」実行委員長の松永裕貴(まつなが・ゆうき)さん。
普段は理学療法士として活躍されている松永さんに、運営に参加した経緯や「いきてゆくウィーク」に込めた想いを伺いました。
理学療法士として感じたジレンマから、運営に参加
── はじめに、松永さんの普段の仕事について教えていただけますか。
理学療法士として、栗本整形外科で働いています。外来でのリハビリの他に、介護が必要になった方へのリハビリもしています。また、障害のあるお子さんの発達支援や、大学の非常勤講師をしています。
介護分野では、利用者さんに施設まで通っていただいてリハビリをする「通所リハビリテーション」と、私たちが直接自宅まで伺ってリハビリをする「訪問リハビリテーション」を行っています。(※いずれも介護保険が適用されるサービス)
── リニューアル前から、松永さんは「いきいき長寿フェア」に関わられていますよね。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
「いきいき長寿フェア」のボランティア募集を知ったとき、これまで理学療法士として、地域で活動したことがないと感じたんですね。
リハビリに携わっていると、それほど病院の外に出る機会がないんです。でも、地域のことを知らないのにリハビリテーションを語るのはどうなんだろうという気持ちがありました。
僕のリハビリにジレンマを感じていたことも「いきいき長寿フェア」に関わるきっかけになりました。大学の授業の中で学生のみなさんには、リハビリテーションは「その人らしく生活するための取り組み全般」だと伝えています。
単に、病院での「リハビリ」だけを意味する言葉ではないんですね。本来のリハビリテーションはもっと広い意味で、自分らしく生活するために行われるすべての活動のことなんです。
でも、病院に勤める中で「身体機能の改善だけに注目したリハビリをしているのではないか」というジレンマを感じていました。
「どこまで身体を動かせるようになるか」が医療では重視されるので、現場では身体機能の改善が目指される傾向があります。
具体的に言うと、「どれくらい手を握れるようになるか」「どれだけ肩が上がるようになるか」といったことです。
でも、僕自身が提供したいなと思っているリハビリは、その人を包括的に見ることのできるものなんですね。その人の気持ちや社会背景、どんな人なのかということを考えてみると、身体機能の回復以外にも、その人のやりたいことを叶える方法はあるはずなんです。
別の方法でもその人らしく生活することは実現できるはずで、杖を使う、スロープを設置するといったことも一つの方法だと思います。
「いきいき長寿フェア」を通して地域に関わることで、その人らしく生活するためのきっかけが提供できるかもしれないと感じました。
若い世代にこそ、介護保険制度を知ってほしい
──「いきいき長寿フェア」の運営の中で、感じたことを教えてください。
2017年から運営に参加する中で、豊中市の介護事業者さんとのつながりができました。一歩踏み出すだけで、こんなにも横のつながりが広がるんだと感じました。
当時は、当日のボランティアを中心に運営に関わっていて、妻にもイベントに遊びに来てもらっていました。でも、初めて妻が2歳くらいの子どもを抱っこしてイベントに来てくれたとき、「私が来るイベントと違うんじゃない?」と妻から言われたんですね。
せっかく意義のあるイベントなのに、若い人たちが集まれるような雰囲気がまだまだ足りないのかなと感じました。実際に、妻と同じ世代の参加者は少なかったんです。
でも、「いきいき長寿フェア」の目的の一つは、介護保険制度を正しく知ってもらうことです。その目的を果たすために、若い世代にこそ、介護保険制度について知ってほしいと思っていました。
おじいちゃんおばあちゃんに介護が必要になったとき、制度をもとにアドバイスできるようになってほしいという想いがあったからです。
そんな背景があって、イベントがより良い形に変わっていったらいいなという想いは持っていたんですよね。そんな中、2019年の「いきいき長寿フェア」が終わったタイミングで、「実行委員長をやってみませんか」と前任者の方から声をかけていただいたんです。
最初は不安でしたが、運営のみなさんが優しい方ばかりだったので、僕が変えてみたいと感じているところに何かできたらという気持ちで、実行委員長を引き受けることになりました。
いろんな要因があってリニューアルが決まりましたが、運営に関わる中で新しい風が入ってきていることを実感しています。
リニューアル後は「多世代の方が積極的に参加できるイベントにしたい」というのが1番の想いです。高齢者の方はもちろんのこと、若い方にとっても参加しやすいイベントにしたいです。
多世代がひとつの画面上で交流する「いきてゆく体操」
── 松永さんは今どんなコンテンツを企画されているのでしょうか。
「いきてゆくウィーク」では、介護保険制度や福祉について知ることのできるコンテンツなど、いろんな企画を準備しています。
僕が中心となって企画しているのは、「いきてゆく体操」という動画配信です。各コンテンツの間に動画を流して、他の参加者のみなさんと体を動かしていただけたらなと思っています。
レベルが上がるにつれて負荷も高まっていくイメージで、初級・中級・上級の3段階の体操を用意しています。コロナ禍で身体を動かす機会が減ってしまっているので、動画を見ながら少しでも運動する機会をつくっていただけたら嬉しいです。
──「いきてゆく体操」には、どのような想いが込められているのでしょうか。
リハビリで関わっている高齢者の中に、すごく元気な方がいるんですよ。それがこのコンテンツを思いつくきっかけになりました。
平行棒の上でL字になっている92歳の男性を見て、すごいなと思ったんですね。反対に、しゃがんだときに後ろにひっくり返ってしまう小中学生にも出会ってきました。
元気な高齢者のみなさんの様子を見ることで、若い方に「もっと頑張らないといけない」と感じてもらったり、高齢者のみなさんにも「自分たちが頑張って教えないといけないな」と感じてもらえたりするといいなと思っています。同じ画面の中で、オンラインならではの多世代交流ができたらいいですね。
また、今年はオリンピックが開催された年でもあります。年齢を問わない形で、みなさんが一緒に取り組めるコンテンツを届けられたらいいなという想いも企画に込めました。
みんなと一緒に「いきてゆく」
── リハビリを通して介護分野に関わられている松永さんにとって、福祉・介護業界の魅力は何ですか。
ご本人だけでなくご家族の笑顔も見ることができることに、やりがいを感じています。通所リハビリや訪問リハビリで高齢者の方と関わる中で、娘さんや息子さん、お孫さんにも笑顔になっていただけるんですね。
こんなにも多くのみなさんの笑顔をつくれる仕事は、あまりないんじゃないかなと正直思っています。
それと、リハビリで介護分野に携わっていると、「その人の人生に関わっている」という感覚があるんですね。これは介護業界ならではの魅力だと思います。
「あのときリハビリをしてもらったおかげで、こんな人生を過ごすことができた」と最期に思い出してもらえるような仕事なんだなと感じています。
──「いきてゆくウィーク」開催が迫っていますが、松永さんにとって「いきてゆく」とは何ですか。
最後にすごく難しい質問ですね(笑)でも、なんて言うんでしょう。周りの方たちあっての自分なんだなということを、最近すごく思っていまして。周りの方たちと一緒に生きている感覚があるんですね。
仕事で関わる患者さんや利用者さん以外の方も含め、みなさんとお話しすることで、豊かさが生まれていることを強く感じています。
そういった意味では「いきてゆく」というのは、「みなさんと一緒に生きていくこと」なんだと思います。
── 松永さん、ありがとうございました。
介護保険制度
社会全体で介護が必要となった人を支える仕組み。介護が必要となったときも、住みなれた地域で安心して暮らしていけるよう支援する。40歳以上の方が納めている介護保険料と税金が財源になっているため、介護を必要としている方は、原則1割の自己負担でさまざまな介護サービスを受けられる。(※前年度の所得により、自己負担は2割または3割になる)
介護サービスにはさまざまな種類があり、自宅で利用できるサービス(訪問介護、デイサービスなど)や、施設に入所するサービス(介護老人福祉施設など)、生活環境を整えるサービス(住宅改修や福祉用具レンタル・購入)などがある。
市町村の地域包括支援センターで、介護保険制度に関する相談をしたり、情報提供を受けることができる。
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いきてゆくウィークって?
「いきてゆくウィーク」は、豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。
高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、
さまざまな方が参加したり、学んだりできたりするようなイベントになっています。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、オンライン(一部、展示会については現地開催)で行います。
これまでとは少し違った新企画がぞくぞく。
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