
『認知症のある人と向き合う』 やさしい気持ちの循環がはじまるヒント ⑨~⑪回
認知症のある母の気持ちを理解することができたら、今までよりもずっと優しい気持ちで寄り添うことができるようになりました。このシリーズは認知症のことをもっと理解したいと思っているあなたにお届けしします。
精神科医の大石 智(さとる)さんの『認知症のある人と向き合う』という本をもとにご家族の気持ちを理解して「やさしい気持ち」で向き合えるヒントを探っていきます。
今までTwitterやstand.fmのアプリでシェアしてきたインタビューをまとめました。「困ったな…どうしよう!?」というときのヒントにしていただければうれしいです。
ラジオ感覚でお楽しみいただけるように制作しています。BGMが気になる方のために「ひかえめVer.」も準備しました。お好みでお選びください🎵ゆるりと、ゆったりとお楽しみください♪
⑨ スムーズにおフロに入ってもらうコツ
お風呂であたたまるとリラックスできるのに…と思ってすすめてみても母は入浴をパスすることが増えてきました。
「お風呂に入ろう」と伝えるだけでなく「お風呂に入ってくれたら嬉しい♡」と気持ちをプラスして母に伝えたら「こんなことで嬉しいの?」とお風呂にスムーズに入ってくれるようになりました。
精神科医の大石さんに「声かけのコツ」やお風呂になかなか入ってもらえないときの「対応のしかたのポイント」を伺いました。
〈大石さん〉 よくよくご本人と話しをしてみたり、入浴を嫌がる状況について尋ねていると、入浴を嫌がっているのは決して認知症の症状ではないことがすごく多く見受けられます。
ヘルパーさんが定期的にお風呂掃除をしてくれるようになったら
「キレイな湯船は気持ちいいねぇ~♡」
とよくお風呂に入ってくれるようになりました。…ちゃんとガス代の料金が上がっていたのです!!
認知症があるからと決めつけて何も対応しないのは、とてももったいないことだと思いました。入浴後に母から「さっぱりして気持ちいい~ !!」と言ってもらえて…「幸せだなぁ…」と今は感じられるようになりました。
〈大石さんのアドバイス 対応のコツ〉 決して本人を問い詰めたり追い込んでしまうのではなくて、「お風呂に入ってもらえたらすごく嬉しいな、でもお風呂に入りたくない理由はどうして?」と気持ちを伝えつつ、お風呂に入りたくない理由に対してアプローチしていくことができるのが良いのかなと思います。
⑩ どう対応? 「なくしものが増えて困ったとき」
遠距離介護している母の本格的な介護がスタートしてすぐの頃のこと。母が巻尺の置き場所が分からなくなり「誰かが持って帰ったと」言って対応に困ったことがありました。
なくしものが増えたご家族と向き合う時のコツについて、精神科医の大石さんにアドバイスしていただきました。
〈大石さん〉 しまったものを見つけるのが難しくなる短期記憶障害、記憶力の低下がきっかけとしてあったとしても、不安になったり誰かのせいにしたくなったりすることは、自分の心を守ろうとするごくごく普通の心の機能だと思います。
あれがない…これがない…とモノを探しているときの母は不安でいっぱいな顔をしていました。そういえば…モノを探してばかりの頃の母の家は不要なものであふれていました。
〈大石さんのアドバイス 対応のコツ〉
◆ 物が見つけやすくなる、しまいやすくなる環境を作っていくことが大切
◆「大丈夫だよ、見つかるよ、一呼吸おいて探してみよう」と不安な気持ちを理解して、安心できるような声をかけをして関われると良いですね!!
不用品を手放してスッキリした生活になったら、母は探し物をすることがほとんどなくなりました。探し物をしても、スッキリ片付いたお部屋なのですぐに見つけることができます。断捨離効果…超パワフルです~~~!!
母にならって私もちゃんとしよう!! と反省して、定期的にプチ断捨離するようになりました…。
⑪ ストップ ! 専門用語 ~入浴拒否、もの盗られ妄想、帰宅願望、嫉妬妄想…について考えてみました~
入浴拒否、もの盗られ妄想、帰宅願望、嫉妬妄想…などの専門用語を使うより、「見たまま、感じたままの表現」に置き換える方が、「本人や家族の安心につながりやすくなる」と精神科医の大石さんはおっしゃいます。
どんな気持ちになっているの?
どんなことに困っているの?
…対応のコツを詳しく教えていただきました。
〈大石さん〉 専門用語を使うと、本人の不安や困っていることを考えていくことよりも、周囲が困っているという感覚を強めてしまいそうです。
また「認知症だから…」という決めつけが生まれて、それぞれの変化の理由にアプローチしていくことをさえぎってしまいかねません。
見たまま、感じたままの表現に置き換えて、一つ一つの理由に対してアプローチをしていく…それが結果的に本人や家族の安心につながっていくのではないのかなと思います。
母の困りごとを一つ一つ解決したら、母は安心して日々の暮らしをおくれるようになりました。「認知症だから…」の間違った決めつけには要注意ですね。
〈大石さんのアドバイス 対応のコツ〉
◆帰宅願望 言い換え→「住み慣れた場所に帰りたいんだ」
・認知症があっても果たせるできる行動や役割を増やす
・感謝の気持ちを伝える
・「ここにいていいんだよ、大丈夫だよ」という安心できる言葉を伝える
◆嫉妬妄想 言い換え→ 「浮気をしているんじゃないか」
・一緒に過ごせる時間を増やす
・ご本人が楽しく安心できるようなコミュニケーションをとる

認知症のある母の気持ちを理解して接することができるようになったら、母の心がぐんとおだやかになりました。うれしくて周りに話したら
「お母さん、認知症じゃないんじゃない?」
と言われることがたびたびありました。困りごとがあるのが認知症のある人なんだという反応だったのです。
精神科医の大石さんにお話をうかがっていくうちに、認知症のある人に対する間違った決めつけがあることで、認知症のある人も家族も苦しくなっていることがたくさんあると気がつきました。
間違った決めつけに気が付いて、母の気持ちによりそうことができたら…母も私もぐんと楽に向き合えるようになりました。

■ プロフィール 精神科医 大石 智 (おおいし さとる) さん
北里大学医学部精神科学講師 / 相模原市認知症疾患医療センター センター長
1999年 北里大学医学部卒業 北里大学東部病院精神神経科にて研修
2001年 駒木野病院精神科
2003年 北里大学医学部精神科学助教
2019年 北里大学医学部講師 相模原市認知症疾患医療センター長
日本精神神経学会専門医・指導医
日本老年精神医学会専門医・指導医
日本認知症学会専門医・指導医
著書 『認知症のある人と向き合う』 -診察室の対話から思いをひきだすヒント-

やさしい気持ちの循環がはじまるヒントの番組は
この大石さんの著書をもとに生まれました