認知症になっても最期までひとりで暮らせるために必要な3つのこと
【シリーズ】
遠距離介護の在宅看取り知っておきたい100のこと
住み慣れたおうちで暮らし続けたい…これは遠距離介護しているアルツハイマー型の認知症がはじまった一人暮らしの母の夢です。
…とはいえ、お世話になっているケアマネージャーさんや訪問診療の先生に相談したら「…うーん…いずれ排泄コントロールができなくなるだろうし、徘徊してご近所にご迷惑をかけるようになったら一人暮らしは無理ですね…」と言われてしまいました。介護の先輩達からも「トイレの粗相ができなくなったら施設だわね」という話も聞いていました。…聞いた時は絶望で真っ暗になりました。
認知症が進行すると今の生活ができなくなると聞いて唖然とした方も多いのではないでしょうか?そんな方とともに道を探っていきたいと思い、シリーズ「遠距離介護の在宅看取り知っておきたい100のこと」の企画を立ち上げました。
『認知症になっても一人で暮らせる』
なんとかしたい一心で様々な本を読んでいたら巡り会えたのがこの一冊です。もともと上野千鶴子さんの『在宅ひとり死のススメ』で紹介されていて知りました。
『認知症になってもひとりで暮らせる』の本のことは
『在宅ひとり死のススメ』第6章「認知症になって良い社会へ」P127
で発見しました。どれほど救われた気持ちになったかしれません。ドキドキしてこの本の著者の大國康夫さんに取材をお願いして、どうしたら母がひとり暮らしを続けられるのかインタビューをさせていただきました。このシリーズの最初からお世話になっている主任ケアマの藤井円さんにもアドバイスをいただいています。
認知症になってもひとりで暮らし続けられる3つのポイント
(大國さん)
① 心許せる人が一人は必要
→介護職員、医師、知人(家族以外)
家族では気持ちのぶつかり合いがある。家族以外が好ましい。第三者が入ることで社会性を保つことができる。
② 自立した排泄のための工夫
→ご本人抜きで家族と業者で住宅改修を進めない。
→手すりの乱用は足の筋力が弱くなったり転倒時の骨折のリスクが高まる
→ベットからトイレの動線には普段使用している家具のレイアウトを工夫して手すりの代わりに使用するのがオススメ。仮に左が麻痺していたとしたら右手で手すりをつかむことになる。もし転倒したら、麻痺している左では支えきれずに転倒し骨折する危険性が高まる。家具に寄りかかりながらの移動の方が安全性が高い。
③ お金のあるなしに関わらず、工夫をして地域で生活できるようにコーディネートするプロの存在が必要(介護専門職など)
→認知症になっても地域で住み続けられるためには地域の理解もとても大切。外出の支援をしているのをご近所の方から誤解されて警察沙汰になったこともある。地域ぐるみで認知症が進行しても在宅介護が続けられると認識してもらうことで、ご本人が安心して住み慣れた家での暮らしを続けられる。
認知症になってもひとりで暮らせるための住まいの工夫
大國さんは社会福祉法人協同福祉会常務理事です。送っていただいた写真をもとに、家庭できる工夫を教えていただきました。
(大國さん)
写真はあすならホーム高畑です。奈良公園の横にあり静かで趣があります。
玄関
手すりの代わりに下駄箱を利用しています。転倒しても骨折しにくい工夫だそうです。仮に左に麻痺があると手すりを握るのは右手となり、転倒した時に支えきれず骨折の原因になってしまうこともあるとのこと。「手すりは手に力が入るだけで脚の筋肉が弱ってしまう」と大國さんはおっしゃいます。家具を利用して身体を支えることで手も足も全ての筋肉をフル稼働できるのですね。下が畳敷きなのもいざ転倒しても体へのショックを軽減してくれそうです。
食堂
敷き詰められた畳にまずは感動です。注目していただきたいのは椅子の高さ。これは下のトイレの便器の高さと同じ38㎝。小柄な高齢者の方でも足が床にしっかり着く高さで食事と排泄をすることが大切なんだそうです。詳しくは大國さんの著書『人間力回復』Part2 床に足をつけて座る「足の裏の加重で覚醒することで、食事、排泄ができる」P.032
をご覧ください。
トイレ
便器の高さ38㎝、前には寄り掛かれるテーブルがあります。車椅子からの移動、排泄のいきみなどに使われます。市販のものは高価なので大工さんの手作りのものを利用される在宅介護の方も多いのだそうです。便器の向きは真正面のイメージでしたがこれは引き戸を開けたら横向きに配置。車椅子でも楽に移動できそうです。
(藤井さん)
手すりとベットの配置について
手すりの位置を慎重に考えてつけてください。将来歩くことが困難になった時にベットの位置をトイレの近くに移動することもあります。手すりが邪魔をしてベットを置けないということにならないように、安易に手すりをつけるのではなく家具で代用するなどの工夫をしたほうが無難です。寝起きでフラフラしている時にも身体を支える家具をベットのそばに置くことで転倒リスクの軽減につながります。
認知症になってもひとり暮らしを続けられるために大切なこと
(藤井さん)
介護家族が覚悟を決めて介護に向き合う気持ちを専門職に伝えることが大切です。ご近所に認知症の理解を求めるのをためらわなくても大丈夫です。考えている以上に協力が得られますよ。
(大國さん)
人生100年時代と言われています。おおらかに長寿をとらえる、80過ぎで失禁も当たり前、病気も当たり前、地域みんなで支え合っていこうという寛容な意識を持つことが必要です。
大國さん、藤井さんの思い描く理想の最期は?
(藤井さん)
ぴんぴんころりが良いけど
最期のギリギリまで美しく死にたいですね
(大國さん)
「あすなに苑」を自分の家の近くに作ってそこに住みたい
大國康夫さん
社会福祉法人協同福祉会常務理事/全国地域包括ケアシステム連絡会事務局長
著書『人間力回復』/『認知症になっても一人でくらせる』
社会福祉法人 協同福祉会 あすなら苑 (10の基本ケア)
https://asunaraen.or.jp/index.html
【プロフィール】
1954年5月9日島根県生まれ
1999年9月あすなら苑 苑長
2009年協同福祉会 常務理事
2018年全国地域包括ケアシステム連絡会事務局長
藤井円さん
ケアプランセンターいと 取締役統括 藤井円さん/HAPPY LEAF代表取締役経歴一般企業にて営業職勤務から老人保健施設へ転職。老人保健施設に7年、介護施設運営会社に8年。資格:介護支援専門員・介護福祉士
お祖母様の在宅介護の経験を生かして実費のケアマネとして活動のほか、赤字の福祉事業所を黒字転換するコンサルタントなど幅広く活動。
まとめ
住みなれたおうちで最期まで過ごしたい、例え認知症になったとしても…。庭に出て草取りし、お茶を飲んで一服し少し昼寝、孫が遊んでいるのを眺めながら…。目が覚めたら天国にいた!!なんていうのが私の理想です。あなたはいかがですか?
「遠距離介護で在宅看取りをめざすなら知っておきたい100のこと」
このシリーズの一環としてお届けした今回の「認知症になっても最期までひとりで暮らせるために必要な3つのこと」はいかがでしたか?
認知症になっても、一人暮らしでも、大好きなおうちで最期まで過ごせるように介護家族ができることは何かを多方面の専門家の方にお話をうかがいながら今後もお届けしていきます。
ままならないのが人生と介護。例え計画通りに行かなくても、ゴールを目指して進めた歩みは血となり肉となり、幸せなハッピーエンディングに繋がっていくと思っています。
…さぁ次のテーマは「訪問診療の大切さについて」です。お楽しみに✨
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