いきものずき
生物学・科学に関する雑記です。考えていることを、将来の自分や他の方々の腑に落ちる形で整理したい、と思っています。
はじめまして。僕は30代そこそこの生物学の研究者です。生物の世界をちょっとづつ明らかにすることと、大学生の研究をほんの少し手助けすることを仕事としています。博士の学位を取ることで研究者の卵から脱するのだとしたら、今は研究者のひよこ、と言ったところです。鶏になるか鷹となるか、鳥かと思っていたら恐竜になるか、それはわかりません。 noteでやってみたいことは、科学論文や書籍の内容を伝えるメディアとなることではありません(中田あつひこさんのyoutube大学など、尊敬すべき面白い
面白い環境で生きたい、というのは全ての人の願いではないでしょうか?少なくとも僕は、面白い環境で、面白いことがしたいと、ずっと思っています。これらは分かち難いものですが、このうち、おもろい場所って何かってことを考えてみたいと思います。 歴史が積もっていく環境って面白いという話この話は、一言で言うと、歴史が積もる場所って面白くないですか、という話です。図書館で図書カードに人の名前が蓄積していくみたいな、会社、学校の部室、研究室の本棚に過去先輩の仕事の結果が並んでいるみたいな、そ
今回は大学の中のことについて書きます! (私の所属する)大学では4回生から卒業研究をするため研究室に所属し、多くの場合さらに大学院の修士課程に二年間通うことが普通になっています。僕の研究室は生態学という学問を専門にやっているところですが、そんな一つの分野の研究室にも色んな学生がやってきます。研究者になりたい人、そうでない人、言われなくても生物や自然にしつこい興味を持っている人、そうでない人、就職活動や資格の取得に意欲的な人、そうでない人、真面目にコツコツ研究を積み上げる人、
ここしばらく環境問題について考えてきたので、少し休憩して、今回は学術的な話題について考えてみたいと思います。 学問が人生や社会に何の役に立つのか?この問いはとても大事なので、僕も自分の考えをnoteで書いてみたいと思うのですが、少し歯痒い気持ちもあります。なぜなら、この問いの背景には、学問(ここでは科学について考えます)がどこか面白くないという気持ちが入っているのではないかと思うからです。 最強のチームや人物がぶつかり合ったら、どちらが強いのか?なんでも穴を開けるドリルと
ここ数回のnoteで、水と空気がうまく流れるような環境が生物にとって必要で、人の文化は水とうまく付き合うように発達しているのではないか、と考えてきました。ところが、水とうまく付き合う知恵は、現代社会の中で失われるつつあるのかもしれません。前回はその例として、東京近郊の川の話をしましたが、もう一つ千葉のある公園で見たことをまとめたいと思います。 ある日休日に千葉県の公園でピクニックに出かけました。秋晴れで気持ちよく歩いていると、トレイルの左手側が段丘になっていて、その一部がタ
ここ数回のnoteで、水と空気がうまく流れるような環境が生物にとって必要で、人の文化は水とうまく付き合うように発達しているのではないか、と考えてきました。ところが、水とうまく付き合う知恵は、現代社会の中で失われるつつあるのかもしれません。その例として、東京近郊の川で僕が見たことをまとめておきたいと思います。 とある川の源流に向かって歩いていた時のこと、釣り堀と駐車場がありました。東京から来た車が上流域の川底にたくさん止まって、多くの人が人工的に区切られた川のイケスで釣りを楽
SDGsやら、生物多様性条約やら、社会は「良い環境」を求めて大きな変革をおこさんとしているようです。でも「良い環境」ってどんなものでしょうか? さまざまな条件が考えられると思いますが、ここではいろんな視点を総合して、「人を含む生物が生きていける環境と人の文化が維持されること」だとしたいと思います。すなわち生物多様性が保たれるような環境です。以前、生物多様性についての記事も書いたので、そちらも参照してください(*リンク)。 この目的を達成する上でキーワードになると思われるの
人は水なしでは生きられず、人間の文化は水とうまく付き合うことを軸として生まれてきたのではないか? なんてことを考えていたら、ふと疑問に思うことがあった。 そもそも、なぜ生物に水が必要なのでしょうか? 当たり前のようで、実はそんなに簡単な問いではありません。考えてみましょう! 1 なぜ生物は水を必要とするのか?人をはじめとする多くの生物の体重の50%以上が水である。なんでそんなにたくさん水を持っているのか?なぜそんなに無理をして重たい水をお腹に入れて持ち運んでいるのか?
旅は人生を作る!ー学問は、そんな旅を百万倍楽しくしてくれます。 幕末の志士に詳しくなれば、日本全国どこにいってもその足跡を感じることができて、楽しいです。自然科学はどうでしょうか?自然はどこにでもあります。人の変えた自然も、家の中の箱庭も、圧倒するような原生的な自然も、これら自然を語る言葉をもてば、世界中どこに行っても楽しくなります。 水について自然を知るには、まず「水」を知るのが第一歩ではないか。自然史、植物・動物・菌類の生態、土壌、地質地理、鉱物、気候、水文、林業、農
「生物多様性を守る」とは、ある生物種や生態系の数を増やす、もしくは数を取り戻すことではなく、全体(その場所、流域、地域全体など)の健全な機能を守り育てることではないか。目の前に見える生物種や群落を取り出して、その数が増えた減ったに反応する。そうではなくて、その生態系が成り立っている環境全体(人の文化を含む)を良くしなくてはならない。この視点は、実社会で忘れられることが多い。その例として、前回外来種問題について考えました。 「生物多様性」という言葉は、私たちが普段持っている考
2021年現在、SDGsとともに生物多様性という言葉は、いたるところで耳にするようになっていて、現代社会を語る上で欠かせないキーワードになりました。その一方で、どれだけの人が「生物多様性って何ですか?」と聞かれて、即座に返答できるでしょうか?わかるようでわからない、そんな言葉ではないでしょうか。「多様性」という言葉から察するに、生物種がたくさんいることでしょうか?生物多様性を守るとは、できるだけたくさんの生物種を保全することなのでしょうか? それでは何か説明が十分にされてい
自然科学について勉強をする上で、知識を蓄えることはもちろん大事です。「なんかわからんけどあれ」では先生から大目玉を喰うことでしょう。その一方で、スポーツで言えば筋肉や運動神経に相当するものを養うことも、勉強をする上で大事ではないか。身体で理解する、脳の神経回路を鍛える、知恵を育てる、等とも言えます。前回は英語や数学の例について考えてみました。今回は物理学と生物学(環境学)について。 物理学もスポーツ?英語、数学ときたら次は物理ではどうでしょうか?実は、物理学こそ身体を通した
海外で研究するようになって、英語を真剣に勉強をするようになり、驚いたことがある。自分が、なんと英語を話せない、聞けないことか!まあ、なんとかなるだろ、と思って飛び込んだ環境で、ひたすらあたふたするという経験をしました。この危機は「知識として知るだけでなく身体を通して学ぶことが大事」という当たり前のことを知るきっかけになりました。そしてそれは、英語だけではなくあらゆる勉強で大事なのではないかと思うようになりました。そんな話をします。 英語はスポーツ「英語はスポーツ」。これが僕
僕は、なぜかノートが好きだ。広げて真っ白なページに薄く横線が引いてあって、それにかりかりとなにやらを書き込むのがたまらない。さらに言うと、使い古されたノートも良い。ぼろぼろになり書き込まれてページがやわらかくなったノート。デスノートという漫画でみかみテルという人物が黒いデスノートにびっしりと人の名前を書き込んでいて、読んでいるとあのページのくにゃくにゃ感が伝わってきてとてもよかった。 僕が小学生のころ、仲間内で自由帳ゲームという遊びが流行った。 ノートに名前を書きこんで、そ
AI技術が進歩するにつれて、AIにできない能力が大事だと言われるようになりました。例えば「読解力」。ある文章や言葉から、意味とか意図を察する力だと言えると思いますが、読解力が高いためには何が必要なのでしょうか? 文脈から人の感情に共感する、ということも大事でしょう。言葉の意味を知っていて自在に扱えること(常識)も大事でしょう。ここでは、後者について少し考えたいと思います。 私たちが意思疎通できるのはとっても不思議なことです。例えば「痒い」というものがどういうものか、私たち
色々と勉強していると、今まで思っていたこと、昔勉強したことが突然覆ることがあります。それが勉強の醍醐味だと思うのです。今日はそんな話について。 歴史の中でも最も驚天動地な出来事の一つは、「地球を中心に天が回っていると思っていたら、実は地球が動いていた!」ということでしょう。当時はだれもが嘘だー、と言ったはずです。今では、天が地球を中心に回っていると言ったら、ぷぷっと笑われ屈辱的な扱いを受けるでしょう。度々「科学によって天動説は否定され、地動説が正しいことが証明された」という