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3人が語るニューアルバム『WHO?』のすべて <後編>

予定していた全国ツアーの全公演中止が余儀なくされた2020年、いきものがかりはアルバム制作に踏み切った。
タイトルは『WHO?』。
“今だからこそ届けたい”全9曲に込められた想いから制作の舞台裏まで。
メンバー3人がたっぷりと語り合ったスペシャルインタビューを前後編でお届けする。

<前編はこちら>


-5曲目の「わたしが蜉蝣」は山下さんが書いた曲ですが、一発で「山下さんの書いた曲だ!」と分かるような曲ですね。

山下:あはははは。アルバム曲は制約のない状態で書けるので、個性が出せるんですよね。この曲に関しては、ダークファンタジーみたいなイメージで、自分の好きなように、かなり自由な発想で書きました。ドロッとしたものを感じさせるような曲を書きたいと思ったんですけど……ちゃんと暗い曲になりましたね。


-ちゃんと暗い曲になりました(笑)。

吉岡:その表現初めて聞きました(笑)。

山下:(笑)。Aメロで「ルルル」を入れるのもこれまでやったことがなかったんじゃないかな?「ラララ」は最近水野さんがお好きですけど。

吉岡:ラララ大魔王(笑)。

水野:大文字大魔王でラララ大魔王(笑)。


-しかもAメロのあと「ルルル」に入って、またAメロに戻るのが面白いです。

山下:最後では「ルルル」とサビを重ねているんですよ。それも本当は重ねるはずじゃなかったんですけど、「ルルル」とサビのコード進行が同じだからちょうど合うし、Aメロからの伏線を回収できるなと思って。そういう新しい試みもしながら、楽しんで書けました。

吉岡:「ルルル」といえばあの曲ですよね。ルールールル~~♪

水野:ああ、「夜明けのスキャット」ね。

山下:それはちょっと意識しているかもしれない。

吉岡:そうなんだ!

水野:やっぱり「ルルル」といえばあの曲だからね。

吉岡:こういう寂しげでフォークを感じさせる世界はほっちの定番だけど、ストーリーを想像したくなりますよね。繊細なメロディや異国感のあるアレンジに引っ張られるような感じで唄えました。


-この曲はアレンジも面白いですよね。打ち込みから始まって、笛が入ってきて、サビではドラムがマーチングになるという。

山下:サビのドラムは僕らも驚いたんですけど、本間(昭光)さんのエッセンスが感じられるアレンジですよね。本間さんは「笛を聞かせたかった」とも仰っていました。


-余談ですが、全編打ち込みの曲やクラブミュージックをいきものがかりでやるのは違うなあと思いますか?

水野:うーん……バキバキなトラックにあなたの歌声はどんな感じで乗るんだろうね?

吉岡:ちょっと想像がつかないね。

山下:想像がつかないけど、「拒否してます」という感じではなくて。初期の頃だったら「違うかな」と思ったかもしれないけど、十数年経ってみると、そこは全然トライしてもいいんじゃないかという気持ちがあります。だからこそ「ブルーバード (Slushii Remix)」があったんだと思いますし。

-ということは、今後そういう曲が出てくる可能性も否定はしない?

山下:そうですね。もしもそういうものが合う曲ができたら、そっちにリーチする可能性はあります。断固拒否というテンションではないので、その場その場で判断をしていくと思いますね。


-そして6曲目の「チキンソング」は吉岡さんが書いた曲。

吉岡:はい。「明るい曲がほしい」と言われたものの、こんなに明るくなっちゃって(笑)。


-ツイストダンスしたくなるような楽しい曲ですよね。吉岡さんはいつもどういうふうに曲を作っているんですか?

吉岡:鼻歌で作ってます。リーダーから「曲作ってきて」と言われて、「曲、曲~」と思いながら寝ようとしたら、12時過ぎぐらいにメロディが浮かんできて。椅子に座って「これかな?これかな?」という感じで何曲か唄ってみたんですけど、4~5曲目に差し掛かった頃、「こんなに作っているけど、結局私は肝心なことが言えていないんじゃないかな」と思ったんですよ。そこから「肝心なことが言えない~♪」というフレーズが出てきて。そういう実体験からできた曲です。


-吉岡さんには「元気で明るい人」というパブリックイメージがあるので、「え?言えてなかったの?」と感じる人もいるかもしれません。

吉岡:そうなんですよ!インタビューでラジオのDJさんから「言えてるでしょ!」って言われて(笑)。だけど私は結構ふざけちゃうので、いっぱい喋るのに、実は重要なことを言えていないことが多いんですよね。リーダーはしっかり言えるし、ほっちもふわーっと上手いことやってくれているけど、私には回りくどいところもあるなあと思って。自分のそういう一面をイジりながら、最後は「伝えちゃおうよ!」というふうに提案しています。


-この曲はレコーディングも楽しかったんじゃないですか?

山下:確かにみんな楽しそうだったよね。

水野:(吉岡から)やたら現場でディレクションされるんですよ。「ここで入れてください」って。だけど僕が入れた声はカットされていたりして(笑)。

吉岡:リーダーがめっちゃふざけるから(笑)。

水野:でも「ふざけてください」っていう感じだったよね?

吉岡:あまりにもふざけるから、曲が負けちゃいそうだなと思って……(笑)。


-面白いなと思ったポイントが2つありまして。1つ目は、水野さんや山下さんの声も入れているのに、オクターブの開きがあるBメロは掛け合いにしないんだ、吉岡さん一人で唄っちゃうんだ、という(笑)。

吉岡:そこは私がちょっと出過ぎちゃったかも(笑)。

山下:元からそれで作ってきていたよね?

水野:まあ僕らは所詮ガヤなので(笑)。


-あはは。2つ目がラスサビの歌詞。〈言いたい〉〈言える気がしない〉から途中で〈言える気がする〉に変わるじゃないですか。唐突だから「なぜたろう?」と思うんですけど、最後の最後に理由が書かれている。だけどそれが〈灰になるなら〉だから、すっごい理由だな!と思っちゃうんですよね(笑)。

吉岡:しかもめちゃくちゃ明るく言い放ってますもんね(笑)。でもこれは最初の日の夜に出てきたんですよね~。


-へえ~。この歌詞すごくないですか?

水野:言われると確かにそうなんですけど、聖恵って結構急に変わるんですよ。車で移動しているときも、3人でバーッと喋っているのに突然寝たりするし(笑)。

山下:そうそう。だからそんなに。

水野:違和感なく受け入れちゃってますね。


-あははは、なるほど。7曲目の「ええじゃないか」は水野さんが書いた曲で、映画「妖怪大戦争 ガーディアンズ」の主題歌です。

水野:映画のスタッフの方々とリモートでお話しする中で、お子さんも観る映画だから、子どもたちがすぐ唄えて、みんなで踊り出すような曲がいいんじゃないかという話になって。ダンスといってもEDMではなく、「子どもも大人も身体が動いてしまうようなものをイメージしています」ということを伝えられたんですね。そこでふと阿波踊りのイメージが浮かんで。僕ら一度だけ阿波踊りを現地で見たことがあるんですけど、畏れを感じるぐらいの熱量なんですよ。まさに熱狂ですよね。

吉岡、山下:(頷く)

水野:それで「ええじゃないか」かなと思ったんですけど、スタッフのみなさんも「妖怪が出てくる映画だから、確かに外連味があってもいいかもしれないですね」と言ってくださって。コロナ以降、世の中がすごくダウナーになっているし、みんなびくびくしているじゃないですか。そういう空気を打ち破るようなことがこの曲でできないかなと思ったんですけど……これもまた書くのが結構難しかったですね。

吉岡:この曲では、珍しくリーダーと歌のことを話しました。

水野:最初の仮歌入れのとき、自分がスケジュール的にたまたま立ち会えなかったんですよ。聖恵があとから「仮歌唄っておいたよ」とデータを送ってくれたんですけど、重心を低めにおいて、カッコよく唄っていたんですね。だけどそれだと重く聴こえちゃうから、もう少し軽めに、サラッと唄った方がバランスいいかもしれない、という趣旨のことを伝えて。

吉岡:なので、基本的には暗くなりすぎないように唄っているんですけど、2番の頭がちょっとジャジーなアレンジになっているじゃないですか。こういうアレンジでは太く強く唄うというのが一つの方法としてあるんですけど、ここはあえてちょっと抜いて、大人っぽく唄いたいなあと思って。レコーディング中、スタッフさんから「ちょっと音量下がったよ?」と言われたんですけど、リーダーに「どう?」と聞いたら「それでいいと思う」と言ってくれて。

水野:あそこは、すごくよかった!

吉岡:「おっ、この部分は理解し合ってた!」とうれしくなりましたね。


-ジャジーな箇所もあるけど、出だしはファンクで、全体としてはディスコっぽくもあり、メロディは歌謡曲的という。様々なジャンルの要素が盛り込まれています。

水野:デモの第1稿は、コードを司る楽器を抜いた、リズムが前に立つアレンジだったんですよ。それはそれでカッコよかったんですけど、「コードを支えるものを増やせないですかね?」とやりとりしているうちに、どんどん重なりが増えていって。J-POPって良くも悪くもいろいろなジャンルの要素が混ざっていて、それが面白さに繫がるところもあるじゃないですか。一つのジャンルをストイックに攻めるよりも、こういうふうにごちゃっとさせている方が僕らに合っているのかもなあ、とは思いました。

吉岡:(ストイックにやっても)結局カッコよくはならないだろうしね。

水野:あと聖恵の声ってすごく強いから、歌を入れた時点で、特定のジャンルのカルチャーではなくなるんですよ。

吉岡:(うなだれる)

水野:(笑)いや、それはすごくいいことなの。あるジャンルのカラーに染めて「なんちゃって」みたいにするのはもったいないから、それならド真ん中に行った方がいいんじゃないかっていう。

吉岡:どこにも属してないっていうこと?

水野:そうそう。それはすごいことなんだよ。


-ところで、間奏の部分はなぜ「七」表記にしたんですか?

水野:僕の場合は「Na Na Na…」と書くことが多いんですけど、歌詞を打ちながら、なんかつまんねえなと思って(笑)。ひらがなだとおかしいし、和風の曲だから漢字にしたらどうだろう?とやってみたら「おもしろーい!」と思って(笑)。それで提出しちゃった……。

吉岡:こういうところがリーダーのすごいところですよね。


-てっきり7曲目だからかと思ってました……。

水野:そっか!次からそういうことにしましょう!


-いけません(笑)。そして8曲目の「もう一度その先へ」は山下さんが書いた曲。

山下:これもアルバムの曲を作ろうという話が上がってから作ってきた曲です。最初は「さよならのその先へ」だったんですけど、時世もあるし、「もう一度その先へ」に変えました。そこから歌詞の内容や言葉も書き換えていったんですけど、ツアーができなくなって、リスタートしようとしているうちらの状況とも重なる曲になったと思っていて。


-そうですね。

山下:今回のアルバムで僕が持っていったのがこの曲と「~蜉蝣」だったんですけど、最初、どっちを入れようかという話になったんですよ。そこで意見が結構分かれたんですけど……良樹は「もう一度その先へ」の方がいいって言っていたよね?

水野:そうそう。

吉岡:私はすっごい迷って「~蜉蝣」って答えた。

山下:スタッフ含めみんなの意見を元に「~蜉蝣」を収録することが決まって、この曲はいったん外れたんですけど、制作を進める中でディレクターから「もう1曲入るぞ」と言われて。曲数が増えれば僕らが最初に懸念していた「曲数が少なくて不安」という問題も多少解消されるんじゃないかということで、この曲も収録することに決まりました。アルバムでは僕が最後に壮大なバラードを書くことが多いので、アレンジ含め、そういうものをイメージして作ったんですけど、そのあと曲順を考えていく中で、「TSUZUKU」と「生きる」で挟むというアイデアが出てきて。なんというか……セミファイナルみたいな感じになっちゃいましたね(笑)。


-(笑)。アルバムの終盤を担う山下さんのバラードというのは「タユムコトナキナガレノナカデ」から、ある種の型として存在しているもので。

山下:はい。


-これまでの曲は「荒波の中でなんとか踏ん張っている人の歌」というイメージだったけど、「もう一度その先へ」を聴いて、温かみが増して等身大になったなあと思ったんですよね。

山下:そう言われると、確かにライトになったかもしれないと思いますね。「タユムコト~」を書いたのはデビュー前で、音楽の世界を目指して、苦しんではいないけど歯を食いしばっていた時期だったんですよ。自分たちのマインドも、あの頃のような「なんとしても食いついていくぞ」という感じから変わってきたので、温和な言葉を選ぶようになったのかもしれません。


-ボーカルはどうですか?「タユムコト~」の頃は、あれだけ壮大な曲をどう扱えばいいのか分からないという気持ちも正直あったんじゃないかなと思っていて。

吉岡:本当にその通りです。だけど今回は、感動しながら唄っている自分がいました。いつもながら、歌ができた経緯や内容のことはほっちから聞いていないんですよ。だけど自分たちを勝手に重ね合わせていた部分もあって。「出会いも別れもたくさんあったけど、いろいろな人に助けられて、今の自分たちがいるんだなあ」と感じながら、「いっぱい息を吸って大きい声を出す」という感じで健康的に唄えましたね。何者かになろうとしなくても、すごく生き生きと唄えたというか。それこそ等身大なのかもしれないです。


-そしてラストの9曲目が「生きる」です。「もう一度その先へ」はラストを飾る曲のつもりで作っていた、というエピソードも踏まえて改めて訊きたいのですが、そもそも、バラードでアルバムを締めるということにこだわりがあるんですか?

水野:あ~……。確かにバラードで締めてるね。

山下:締めてますね。

水野:そこは3人で話し合ったことはなかったです。もう当たり前すぎて。

吉岡:今訊かれて「あ~!」って思いました(笑)。そもそも最初の頃にあった曲がバラードばかりなんですよ。「からくり」とか「地球」とか「赤いかさ」とか。バラードから始まったグループだから、路上のときもバラードで人を集めていたから、というのはあるかもしれないです。

山下:あと、ライブのことを考えると、やっぱりバラードで終わりたいかなと。


-アップテンポの曲で走りきって終わるライブもナシではないのでは?

山下:あ~。でもうちらは、インディーズの頃から(ライブも)バラードで終わっていたんですよね。

吉岡:アップテンポの曲で終わること、あんまりないよね。

山下:だから、「ええじゃないか」では終われないみたいな感覚があって。

水野:確かに絶対終われない(笑)。多分、読後感みたいなものがあるんだろうね。バラードで終わる方がしっくりくるというか。

吉岡:バラードが多いから、ライブのセットリストを組むとき、「バラード渋滞」が起きるんですよ。例えば、いつも「ふたり」が唄えないとか。


-好きな曲なのでそろそろ聴きたいです。

吉岡:「プラネタリウム」も入る隙がない、とか(汗)。


-え~、それも大好きなのに!

吉岡:(笑)。そういうふうに「喉まで出かかっているんだけど……」みたいな曲がたくさんあって、バラード渋滞は常に起こしていますね。


-そういう曲が次いつ聴けるのか?ということにも期待したいところですが、やはり今は『WHO?』の曲を早くライブで聴きたいです。

水野:「ええじゃないか」や「チキンソング」のような曲は今までになかったから、どんなパフォーマンスになるのかは聖恵次第なところがあるのですが……(笑)。

吉岡:ですね!「ええじゃないか」はタオルの振り付けがもう浮かんできちゃってるよ!

水野:「TSUZUKU」のようにメッセージ性のある曲、強さのある曲は、ライブでやっていく中で僕らも「こういう曲だったんだ」という感触をつかむ瞬間がくると思うので。そういうふうにツアーで育てていきたいですね。


取材日  : 202103月
取材/文 : 蜂須賀ちなみ (@_8suka)
編集   : 龍輪剛
企画   : MOAI inc.