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等身大の「人」を通じて、壱岐の魅力を伝えたい。IKI IKI Collective 2年目を迎えて〜編集長インタビュー〜

2023年に長崎県の離島・壱岐島でローンチされた「IKI IKI Collective(通称:イキコレ)」。島に主体的に関わりながら、未来に向けて自分らしく挑戦されている方々の取り組みを発信し、それらをつないでいくことで「豊かな暮らし」を目指すプロジェクトは、今年で2年目を迎えました。
 
そこで今回は、イキコレ編集部が読者の皆さんを代表して、IKI IKI Collectiveの現在地、そしてこの先の未来に思い描いていることを編集長にインタビュー。「まちづくりの主役は、あくまでそこに住む人たち」と語る編集長に、これまでの経歴も含めてあれこれと伺いました。

来島のきっかけづくりを目指して

イキコレ編集長:壱岐市SDGs未来課 中村係長

――今日はよろしくお願いします。はじめにお伺いしたいのは、編集長ご自身のことです。中村さんは市役所職員という「行政の立場」でありながら、民間との連携や島外とのつながり作りを積極的に行っています。そもそもなぜ市役所を目指されたのですか?

進路について真剣に考えるようになったのは高校生の時で、僕の母の夢が公務員だったことがきっかけでした。当時は公務員が具体的にどのような仕事をしているのかまではイメージできていませんでしたが、自分が暮らす地域のために働けるという点にとても惹かれまして。また、漠然とですが良いイメージもあったので、入庁を目指すことにしました。

といっても、一時期は『め組の大吾』にはまって消防士を志してみたり、薬剤師になりたいと考えたりと、昔から興味の幅は広い方だったと思います。その性格は今でも変わっておらず、プライベートでは壱岐市役所の野球部に所属したりバンドを組んだりと、色々な活動をしています。

――市役所に入庁されてからは、どのようなお仕事を?

僕が入庁したのは、郷ノ浦、勝本、石田、芦辺の4町が合併して壱岐「市」(市役所)になった後、はじめて採用が行われた2005年でした。税務課の窓口からスタートして、農林課で畜産担当を務め、その後人事交流派遣で長崎県の職員として1年勤務しました。「県」というより規模が大きな組織から市役所や島を見ることで、広い視点でそれぞれの魅力を再確認したり、公務員としての使命感のようなものも学びました。そこから財政課、政策企画課、観光課で地域活性化や地方創生に携わり、2022年に現職であるSDGs未来課に配属になりました。現在はテレワークやSDGsの推進のほか官民共創を担当していて、イキコレの編集長もその一環です。

――入庁されてから20年ほど経つのですね。それぞれ少しお話をお伺いしたいのですが、観光課ではどのような業務を?

様々なプロモーションに関わりましたが、特に壱岐市限定の漫画カルチャー誌「COZIKI」の制作は印象に残っています。日本最古の歴史書である「古事記」と、同書の国生み神話のなかで、5番目に生まれた島として登場する壱岐をテーマに2018年に創刊しました。

「日本が世界に誇るサブカルチャーである漫画やアートで日本神話を再編する。」というコンセプトで、共感いただいた漫画家、写真家、詩人、料理人、様々なクリエイターの皆さんと一緒に挑戦しました。

実際に島に来ていただいて、作品を書き下ろしていただいたんですが、景色の捉え方や歴史の解釈、そして食の楽しみ方などお一人おひとりの感覚が違っていて、常に新しい発見でした。皆さんが新しい作品を創造したくなる何かがこの島にはあるんだなということを肌に感じて、本当に壱岐島で生きていることに誇りを感じました。

創刊記念として東京で販売した際は一時売り切れになってしまうほど、高い注目を集めました。一風変わったガイドブック、また、壱岐の新たなお土産として楽しんでいただける雑誌になったかなと思います。

連動したイベントも企画し、業界の第一線で活躍する漫画家らの原画展やトークショー、人気俳優の写真展、音楽ライブなども開催。発刊を重ねるごとに徐々に壱岐島の認知度も高まりましたし、イベントをきっかけにアーティストのファンの方々がリピートして来島してくださることもあり、とても嬉しかったです。

COZIKI創刊号〜4号

――地域限定の漫画カルチャー誌というのは面白いですね。その後SDGs未来課に移られてからは、テレワーク推進なども担当されています。

テレワークの誘致で最大のハードルは、企業の担当者に島まで来ていただくことです。というのも、多くの方は「島」と聞くと、3時間も4時間も船に乗る必要があるというイメージを持っていて。ですがご存知のように、壱岐は福岡・博多から1時間しかかかりませんし、その上美しい海や歴史を感じる神社、おいしい食材など多様な魅力があります。

また、島内にはテレワークができる施設が各エリアにありますので、観光をしながら仕事をしたり、企業のワーケーションでもご利用いただけるというのも壱岐の魅力の一つです。例えば、壱岐市と富士ゼロックス(現:富士フィルムビジネスイノベーション)が共同で開設し、現在は一般社団法人 壱岐みらい創りサイトが運営するテレワークセンターの「Free Will studio(フリーウィルスタジオ)」は、開設7年目にして累計で年間4500人が利用する施設になり、ありがたいことに島外からの視察も多く訪れています。

コロナ禍を経て、働き方も暮らし方も大きく変化しています。働く場所や時間を制限しない企業も増えてきていますし、インバウンド需要(訪日外国人旅行の需要)においても、デジタルノマド(IT関連の仕事で収入を得ながら長期で旅をするライフスタイル、国際的なリモートワーカー)ビザが発行されるなど、リモートワークの市場拡大が期待されています。リモートワークを積極的に推進している福岡市や、ワーケーション日本一を目指す長崎県とも連携しながら、壱岐の強みや魅力を活かせれば、交流人口拡大による地域活性化が目指せると実感しています。

その他にも様々な課を横断して多くのプロジェクトを担当してきましたが、いつも僕の根底にあるのは「壱岐の魅力をもっと多くの方に知っていただきたい」という想いです。そしてそのためには、市役所だけではなく、地域の皆さんや企業や他の自治体の方々とも関係を築き、お互いの資源や特徴を活かしながら前を向いていくことが重要だと感じています。

壱岐テレワークセンター Free Will Studio

壱岐の魅力は一言で言い表さなくてもいい

――2023年には新たなプロジェクトとしてIKI IKI Collectiveを立ち上げました。プロジェクトを始めたきっかけは?

これまでお話をさせていただいたように、僕は市役所に入ってから様々な企画や施策に関わらせていただき、地方創生やSDGsの取り組みを積極的に進めてきました。ただ、人口減少や高齢化といった問題にアプローチするのは一筋縄ではいかず、「今なんとかして行動を起こさなければ、手遅れになる」と、健全な危機感を抱くようになっていきました。

ではどうすれば、この島、そしてまちで生きる一人ひとりが自分らしく幸せに暮らし続けることができるのか。そんな壮大なテーマに向き合っていく中で、突き詰めていくと、まちをつくる主役はあくまでもそこに暮らす「人」ではないかと感じるようになりました。もちろん行政や市役所にしかできないこともたくさんあります。しかしこれから目指すべきなのは、一人ひとりが自分の人生で熱中できる活動や仕事に出会い、周囲がその想いや熱意に共感し、自然と新しいコラボレーションが生まれていく。そんな社会なのではないかと。

その第一歩として立ち上げたのが、この「IKI IKI Collective」です。壱岐で未来に向けて自分らしく挑戦されている方々やその取り組みを見つけ、つなぎ、共に壱岐での豊かな暮らしを創っていきたい。僕たちはそんな想いをもって活動しています。そして僕自身は行政という立場から、まちの皆さんの「能動的なサポーター」として挑戦を支えていきたいと考えています。

――イキコレを始めて1年が経ちました。この1年を振り返っていかがですか?

現在イキコレでは主体的に島に関わりながら、まさに「いきいき」とされている方にインタビューを行い、その内容をインスタグラムで発信しています。

この1年では約60人の皆さんに直接お会いしてお話を伺ってきました。壱岐で生まれ育った人、移住してきた人、壱岐が好きな人、想いを持ったリーダー、スキルを持ったクリエイターなど、壱岐との関わり方は様々なものの、みなさんそれぞれが壱岐の未来をつくるメンバーだと、心強く感じています。

また、インスタグラムやウェブサイトでは「壱岐で楽しいこと、新しいことを始めたい」「壱岐の⼈に⾃分の地域や会社のプロジェクトを⼿伝って欲しい」といったご相談やお悩みを募集しています。今後はコラボレーションのお誘いやお問い合わせも気軽にいただけると嬉しいです。あとは何より、イキコレ、めっちゃ楽しいですね(照)。

――えっ!ちょっと意外です(笑)

いや、本当です(笑)。実は僕、人前に出て話をしたり、直接質問をしたりというのが苦手な方なんです。ただお話を伺うのはとっても好きで。心の中では「もっと聞きたい」「それはどうして?」とあれもこれも気になっているのですが、いざ質問しようと思うとつい身構えてしまうんです。なのでイキコレでは編集部が質問してくれて大変助かっています。「この人はこういうことを考えていたのか」とか「その考え方って素敵だな」とか、お話を聞きながらニヤニヤしたり、なるほどと頷いたりしています。

 ――それは良かったです! では最後に、これからのイキコレが目指すことについて意気込みをお願いします。

「メディア」としてイキコレを充実させていくことはもちろんですが、オフラインでもリアルなイベントを企画していきたいです。壱岐の未来に主体的に関わる⼈の輪をどんどん広げていこうと考えています。

僕はイキコレ以外にも市役所で色々なプロジェクトを担当しているのですが、壱岐の魅力を簡潔にまとめてPRしなくてはいけない場面が少なくなく、そういう時はわかりやすく壱岐を「1つの 色」としてまとめることが求められます。ただ、僕はイキコレを始めてから、ポジティブに「そうじゃなくてもいいんだ」と思えるようになりました。壱岐で暮らしている方々は本当に多様で、みんなそれぞれが自分らしく生きていて、だからこそキラキラしている。イキコレではそんな等身大の一人ひとりを取り上げていくことで、自然と「一つの絵」が見えてくる。僕はそれこそが、本当の壱岐の魅力だと思うんです。

今後もそんな人の多様性にスポットを当てて発信し続けていくことで、読者のみなさんに「これが壱岐なんだ」「これが壱岐らしさなんだ」と感じていただくことができれば、こんなに嬉しいことはないと思っています。

IKI IKI Collective

■プロフィール
中村勇貴
壱岐市役所SDGs未来課係長
1987年長崎県壱岐市生まれ。2005年壱岐市役所入庁。政策企画課で離島振興全般に従事。観光課では壱岐イルカバーク&リゾートの再生などに携わり、22年からSDGs未来課でテレワークやSDGs推進を担当する。

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