(13)KPIモニタリングの仕組みを早期に整える(ミドル期)
スタートアップ「ミドル期」の最初の記事です。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。
今回の記事は、課題(13)「KPIモニタリングの仕組みを早期に整える」です。
①営業状況の管理不足が招いた大幅未達成
アルー株式会社は2007年に、ベンチャーキャピタルから資金調達をしたキャッシュを投下し、直販営業体制を大幅に強化しました。
しかし2007年度の年間営業目標の達成率は40%強であり、人件費の大幅増加もあり、創業初の赤字となりました。しかも赤字額は約1億円と非常に大きなものでした。
別の記事にて営業戦力メンバーの戦力化に時間がかかったということを記載しましたが、未達の要因はそれだけではなかったと現在では考えています。
想定通りに営業組織が立ち上がらず、大きなマイナスに終わった1年でしたが、途中で軌道修正できるタイミングはあったはずでした。
しかし、当時私は3つある営業部の一つのマネジャーとして、営業活動に必死であり、会社の状況が全く見えていませんでした。
また経営としても、他にも商品開発活動やソリューション部門の採用や、新規事業の検討等、様々な活動を同時進行的に取り組んでおり、営業部門の不振脱却への取組みに集中していたとは言えませんでした。それは営業部門の状況が見えていなかったためです。
2007年当時の営業状況が極めて悪いということを正確に把握することができないまま、戦略や運営の軌道修正ができずに時間が過ぎてしまったことが、2007年の約1億円の大幅赤字の真の原因でした。
②エクセル管理
当時の営業状況の管理は、エクセルを使って行っていました。
顧客案件を集計し、営業ステータス(ゆるい段階、受注確度が高い段階、受注済み、納品済み等)を記載し、提案金額、受注確度などを営業メンバーに毎週エクセルで入力してもらいました。そのエクセルをマネジャーに共有され、営業部としての全体数字を集計しました。
現在のように、Google Driveのようなオンライン共有ドキュメントがあまり発達していなかった時代です。営業メンバーのよっては入力が遅れたり、記載事項にミスがあったりするファイルをマネジャーが手集計・手管理をしていました。
各案件を担当する営業メンバーも、ヨミ数値を定期的に入れるという習慣がありませんでした。負荷と捉えていた方も多く、タイムリーに数字が上がってくることがありません。
更に私を含む営業マネジャーも、受注活動とメンバー育成に追われており、3つある部署のエクセルの統合も上手く行われていませんでした。
部署の営業数値のマスターエクセルは各営業マネジャーのPCの中です。
当時毎週、経営陣(ディレクター)とマネジャーの会議「DM会議」を行っていましたが、よくある光景としては・・・・
「今週の営業数字はどうですかね?」
「あ、今週は、営業2部の池田さんが急な案件で欠席です。あ、エクセルも送られてきていないですね・・・・」
「うーん、仕方ないですね。営業2部は追って確認しておきましょうか」
というやり取りが頻発しました。
DM会議に営業マネジャーが欠席をすると、その部の数値状況が分からなくなります。事前にメール送信で共有をするルールでしたが、その運用もしばしば漏れがありました。こうした状況の積み重ねが、営業状況を見えなくし経営の意思決定を遅らせていたのです。
当社は自社の状況を掴む「モニター」がないまま、全力で事業活動に取り組んでいました。
例え話ですが、飛行機が各種計器がないままフライトをすれば、間違いなく大事故につながります。それと同じ状況でした。
③KPIモニタリングの大改革
上記の通り、当時の私は営業管理の必要性を理解できていませんでした。
多くのスタートアップベンチャーも管理にコストを掛けるよりも、採用やプロダクト開発やマーケティング・営業活動に1円でも多くお金を掛けようとするかもしれません。
そこでコストのかかるシステムの導入(SaaS含む)ではなく、エクセルやスプレッドシート等で管理をしているケースが多く見受けられます。
しかし組織化が進むタイミングでは、管理に投資をすることが必要です。
大きな事故やロスを防ぎ、会社が適切なゴールに向けて進めるよう軌道修正ができるようになるためです。
2008年初になり、当社は本格的に営業管理体制の構築に着手をしました。
創業時より監査役として当社を外部から支えてきた、稲村さん(取締役 コーポ―レート管掌。CFO的存在)が、2006年に社内に入り管理部門の立ち上げをされていました。
財務経理や人事総務・法務を一手に引き受けゼロから立ち上げてきた稲村さんが、営業管理について引き取り支援をすることとなりました。
営業マネジャーからデータ提出のルール化を進め、営業ステータスの整備等に取り組みました。受注状況と売上見込みが見えるようにダッシュボードを整備し、データ集計とアウトプットを管理部門で行うように変更しました。
営業マネジャーは数字の集計管理業務全体から手を離し、正しい数字をメンバーに入力してもらうことにフォーカスすることになりました。正しいデータを集めることにフォーカスをすると、営業活動・育成活動と両立しやすくなりました。
管理のプロがデータを整備することで、前年度のヨミ状況のデータに基づき、当該年度の着地が見通せるようになってきました。現時点がヨミが不足している状況なのか、目標に対して十分な状況なのかが把握できるようになりました。
こうして全社の営業状況が正しく共有できてくると、活動面のKPIの設定にもう一段踏み込めるようになります。
●過去の受注率の把握
●必要とするヨミ数値を作るために必要となる、商談数の明確化
●必要商談数を作るための新規アポイント獲得活動数の明確化・・・等
こうした営業プロセスについて営業マネジャーが把握し、適切な管理と介入をすることができるようになりました。
特に営業マネジャーが、業績不振や苦労をしている営業メンバーへの介入に時間を使えるようになりました。
また経営としての投資判断も適切にできるようになってきました。
業績の着地精度が高まるので、新規投資をしやすくなります。
商品開発・カスタマイズ部門の人員投資や、メンバーの移動、強みを生かす人員配置等も、一段確信を深めて進めることができるようになります。
一つの例としては、納品プロセス管理業務の専門化です。
2006年に御入社された三松さん(現プロセスマネジメントグループマネジャー)が納品プロセス管理業務を担当していただくことになりました。三松さんが専門的に取組み仕組化を進める中で、外部パートナーへのアウトソーシングに投資も同時に行いました。
この取組により、営業部およびカスタマイズ納品を担当するソリューション部(旧デリバリー部)のメンバーの業務効率化が実現し、大幅に業務プロセスの効率化とコスト削減ができました。
「営業成果が出ず大赤字に終わった2007年」の翌年である2008年に業績を伸ばせたのは、モニタリングの強化と、事業運営を適切に軌道修正をしてきたことの成果でした。
④「システムに業務を合わせていく」という考え方
ヨミ状況の管理強化を進める中、当社はERPシステムの導入に取り組みました。とは言え、当社も前年大きな赤字を出したため、大きなシステム投資をする余力はなく、無料パッケージ+カスタマイズという形での開発となりました。
この開発を推進したのが、青木ヒデアツさん(IT専門家)と田中英範さん(後の執行役員。2019年退任)。大手ITコンサルティング会社ご出身のお二人が営業管理システムと請求管理を繋ぐ、カスタマイズERPを作り上げていただきました。
現在から見ると、元々のパッケージが無料ということもあり、使い勝手には「多少」苦労したところがありました。
もう少し業務にマッチしたシステムにならないか、と私は意見を申し上げたことがありましたが、その際にお二人に教えていただいたのは「システムに業務を合わせることで効率化をする」という思想が大切ということでした。
当社のようなソリューション型の営業ビジネスを行う会社は、お客様のご要望に合わせて、柔軟にカスタマイズをした提案受注活動・納品活動を行っています。お客様の要望に応じて商品を増やしていくイメージです。そのため業務にシステムを合わせていくと、システムをカスタマイズすることが無限に膨れ上がってしまいます。
個別対応業務については、よく発生する業務もあれば、一度しか発生しない業務も存在します。よく発生する業務はカスタマイズでシステム化したとしても、そうではない業務はシステム化をすることは極めて非効率です。
顧客に合わせることは受注のためには効果的ですし、顧客にとっても喜ばれます。一方でそちらに寄り過ぎてしまうと、非効率性が高くなりすぎてしまいます。
まずシステムで標準業務を作り、そこになるべく合わせていく営業活動を考えることは大切です。
その後、当社は営業管理システムやCRMへの投資を継続して行っています。
レイター期である2013年以降、セールスフォースを導入しています。
営業管理システムの作り込みと運用、データ蓄積と分析が、その会社の営業マネジメントの独自性であり強みとなります。このことは別の記事でまた解説をしていきます。
⑤営業メンバーがヨミ入力をしやすくする
さて、このようにヨミ状況を見えるように仕組化(情報システム化を含む)を進めていくことが大切ですが、営業メンバーが元々のインプットデータを入力することが必要です。
しかし、営業メンバーにとっては「受注活動」が最優先になり、データ入力等の管理業務については優先度が下がりがちです。入力の優先順位を上げる仕組みと組織風土を作ることが必要です。
リマインドの強化・管理者によるしつこい依頼なども必要ですが、営業メンバーが負荷と感じない仕組みにしていくことが望ましいと考えています。
私達が取り組んだものとして効果的だったことの一例をあげます。
例1:営業会議の時間の一部を、入力の時間にあてる
毎週定例で営業部門の会議を行っていました。会議時間は1時間でしたが、各人の営業活動の業務報告や会社からの方針、新商品の共有などが中心でした。この会議を45分に短縮し減らした15分間をヨミ入力の時間にしました。
1時間確保されていることは変わりませんので、営業メンバーにとって負荷は増えません。会議に全員が参加していますので、その場でヨミ数値入力の際の疑問などを相談・解消しながら進めていくことができました。
例2:ヨミ数値を入力しないと受注処理できないようにシステム制御する
本記事の数年後になりますが、営業情報管理システムへの投資を続け、当社業務に合わせた使いやすさと機能の拡充を続けてきました。
その中でヨミの数値入力をしないと、受注処理に進めないようなシステム制御を掛けました。こうすることでヨミ数値入力が、サブの管理業務ではなく、本業務のプロセスの一つに組み込まれました。営業メンバーの立場からすれば、受注が一つのゴールですので、そこに向けてヨミは必然的に入力する必要がでてきたとなります。システム化により管理者がしつこく依頼をする負荷を減らすことができました。
一方でこのシステム制御だけでは、受注処理ギリギリまで入力しないという抜け道も残っていますので、引き続き他の入力を促進する手法と組み合わせて運用をしています。
本記事のまとめ
◆組織化が進むタイミングでは、営業状況管理に投資をすることが必要
◆全社の営業状況が正しく共有できてくると、活動面のKPIの設定に踏み込めるようになる
◆営業状況管理の情報システム投資の優先度は高い。「システムに業務を合わせることで効率化をする」思想が重要である
◆営業管理システムの作り込みと運用が、営業マネジメントの独自性・強みとなる
◆営業メンバーがヨミ情報の入力の優先順位を上げる仕組みと組織風土を作ることが必要
次回の記事は・・・・
「(14)営業部隊の成果が出るまでの期間を「なんとか乗り越える」」
(2021年10月18日(月)公開予定)
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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。
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