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(19)営業マネジャーのフォローに集中する(ミドル期)

スタートアップ「ミドル期」の7番目の記事です。
ミドル期の記事はこれで最後となります。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。

今回は課題(19)「営業マネジャーのフォローに集中する」です。

課題19営業マネジャーのフォローに集中する


①営業マネジャーへの負荷の集中

2011年頃のアルー株式会社には停滞感がありました。

前年より取り組み始めた新規事業「グローバル人材育成」の出足は好調でしたが、立ち上がったばかりの事業であり営業部全体の売上から見ればまだまだ小さいものでした。

またグローバル人材育成サービスは手作りの開発段階のため、受注をした営業メンバーやその上司である営業マネジャー、そして商品開発・カスタマイズ部門にも納品工数の負荷がかかります。

その負荷を下げる業務効率化の取組みの重要性に気づきながらも、プロダクト開発担当責任者の私は、事業初期段階のためサービス付加価値を高めることを優先して取り組んでいました。


また、2007年の営業組織作りへの投資から4年程を経て、営業部は継続成果が出せるようになってきたとはいえ、離職・休職もそれなりに多くありました。メンバーの新規採用は定期的に行っております。戦力化(≒独り立ち)には新卒入社であれば2~3年、中途入社でも0.5年~1.5年という時間がかかります。常に戦力不足の状況でした。


そうした状況において、業績を支えていたのは営業マネジャーの方々でした。アーリー期の西新橋時代・渋谷時代初期にアルーに入社をされ、その多くは既にご退任された高橋浩一さん(創業メンバー・副社長・初代営業責任者)の薫陶を受けてきた方々です。社歴でいえば、この時点で5~6年を経られています。

戦力不足の営業部においては、営業マネジャーの方々もプレイングマネジャーとして、個人で担当顧客を持ち、新規開拓に取組み、かつ既存の大型顧客の大規模案件を遂行されていました。


2011年時点では、営業部には6~7のグループがありました。各グループは営業マネジャーの方を含み3~4名程度の小規模所帯です。一つのグループの人数を少なくしていたのは、営業マネジャーがプレイヤー業務と同時に、メンバーマネジメントや育成を行う必要があったためです。一人の営業マネジャーが見れる人数はこの時点ではこれが限界でした。

2011年度の年間売上目標は10億円を目指していましたが、結果は「9.9億円」とあと1%届きませんでした。しかし前年度(2010年度)がリーマンショックの影響で、売上8.1億円という状況でしたので、そこからは営業部のがんばりにより1.8億円も伸ばしています。売上10億円達成という高い目標に対して、特に営業マネジャーの方々は全力を尽くされていました。しかし、負荷が集中する状況において、あと一歩及ばない、力尽きてしまうという状態を経営サイドが改善できなかったことが申し訳なく考えております。


ミドル期、組織拡大期の営業部においては、当社の事例のように、営業マネジャーに負荷が集中しがちな構造になっています。

●新サービス・新事業による、業務内容の複雑化による負荷
●新規営業メンバーの増員に伴う育成負荷
●戦力不足によりプレイングマネジャーとして活動する必要性。管理業務との両立の負荷
●経営からの高い営業目標の要請に対するプレッシャー

こうした4点の負荷・プレッシャーの集中する点が、現場管理職である営業マネジャーになりがちです。
複数の方向からの負荷は、営業マネジャーに強いストレスと葛藤を生じさせます。この状態を放置すれば、営業マネジャーの方々のメンタル不調や、離職にも結びつきます。また、将来的に管理職になりたくないという方が増える組織になっていってしまうでしょう。


②マネジメントに集中する営業部長を作る

営業マネジャーに負荷が集中する要因を構造的に見ていくと・・・
・業績目標対比における営業部の戦力不足
・戦力が不足するためベテランはマネジメントよりもプレイヤー業務に集中
・マネジメントが不足するので、営業メンバーが育たない
・営業メンバーが育たないため、戦力不足の状態が継続する
という悪循環が回っていました。

そうした状況に加えて、
・業績成長のために新規事業・新商品投入がされる
・商品サービスの標準化が不足しているため、新商品を売ると営業メンバーだけでは解決できず、営業マネジャーのサポートが必要となる
・営業マネジャーが納品・顧客対応に時間が取られて、さらにマネジメント活動(人材・組織、戦略企画)に時間が取れなくなってくる

というマイナスの強化ループがありました。

では、アルーにおいて、営業部門全体の上流マネジメントは誰が担っていたのでしょうか。実態としては、経営陣が営業部門の上流部分の企画、管理を担当していました。

しかし経営陣はそれぞれ複数の領域を担当していましたので、専任で営業マネジメントをしていたわけではなく、大きな取組みを企画し、詳細の企画の詰めや運用は営業マネジャーに担当をしていただく形でした。
こうした体制自体が現場の営業マネジャーに負荷を生じさせる原因でした。

営業マネジャーが負荷が減り、営業の現場マネジメント活動(メンバー育成・部署内戦略企画・一部のプレイヤー業務を含む)に集中していただくためには、営業全体の上流マネジメントの企画・遂行を専任・集中して実行する人材「営業部長」が必要となります。

一番売れる方を営業部長に昇格させるのではなく、営業部門全体のマネジメントを企画できる方をアサインすることが重要だと考えています。
(当然、高い営業力は必要ですが、それだけで選ぶべきではないと考えています)


③営業部長Iさん

時は遡り2009年後半、中途採用で御入社をされたIさんは、私と高橋浩一さんによるトップダウンでの採用でした。企業研修業界は小さな業界なので、中途採用においては経験者であるケースは少ないのですが、Iさんは前職が大手の研修・コーチングサービス会社でした。

業界経験があるだけでなく、視座の高さと企画構想力に強みをお持ちでした。入社当初は大手企業専任チームのメンバーとして加わっていただきました。

(大手企業専任チーム在籍時に、大型案件の受注支援とカスタマイズ開発企画を一緒に行いました。その際に開発した研修プログラムが「ネクストステップを描き、キャリアをデザインする100本ノック」というものです。以下の記事の「プチノック21本目」にでその経緯を紹介しています)

その後、2010年前半に営業グループを再編する中で、一つのグループを担当する営業マネジャーとなっていただきました。

Iさんの基本的な営業マネジメント方針は、新規顧客向け営業活動を重視し、既存顧客向け営業はなるべく効率化を行っていくというものでした。
企業研修サービス業界は、一度顧客から研修を受注すると平均して3-4年のリピートが見込まれます。しかしながらリピート案件は、顧客事情により常に消滅するリスクがあります。
一方で営業メンバーとしては、既存顧客は関係性もあるため、提案活動をしやすく、既存顧客に行きがちということが起こります。しかし既存顧客のみの対応をしていると、業績を継続成長させることが難しいのです。

新規顧客開拓はとても難易度が高い業務です。取り組んでもすぐには成果がでません。簡単に成果が出ないので常日頃から新規顧客開拓活動に取り組むというのが、Iさんの方針でした。

結果としてIさんの営業グループは、2010年から2011年にかけて、少しずつ新規顧客開拓を積み重ねていきました。


そうした状況の中、営業の上流マネジメントを遂行する人材として、Iさんに営業部長を担っていただくことになりました。

経営陣とIさんでの議論において、今後の継続的な業績向上に向けては、
営業メンバー一人当たりの生産性」の向上が鍵であるとなりました。

生産性向上のためには・・・
●営業マネジャーの負荷の軽減
●新規顧客開拓営業により多くの時間を掛けるための業務効率化
●営業目標の見直し
の3点が特に重要であろうという話をしたことを記憶しています。

上記のポイントは、これまでの営業部の活動の習性や、現場で大切にしてきたことに大きくメスを入れることでもありました。
Iさんには、大きな負担を担っていただくこととなってしまいました。


④生産性向上に向けた対話

Iさんに営業部長となっていただき、営業部門の改革がスタートしました。
新たな取組の趣旨について、営業マネジャー、次いで営業メンバー全員に伝えて行く必要があります。

営業マネジャーの方々と対話をする際に、大きな争点となったのは、新規顧客開拓営業と既存顧客営業に対するリソース配分方針についてでした。

新方針として、新規顧客開拓営業を重視するというものについて、異論反論がありました。アルーではそれまで、既存顧客の深掘りを中心に行ってきたところがありました。

短期的に業績を向上させるには、関係性のある既存顧客向けの営業に注力する方がよいのではない?という意見もあり、それはもっともな内容でもあります。

また、既に既存顧客営業で手一杯という状態があったことも事実です。その状態で「新規重視で行こう」と言われてもできない、ということもそのとおりです。

経営陣とIさんの意図としては、
①業務負荷が高い現状、すぐに新規顧客開拓にリソースを割り振るのは難しいのは理解
②業務負荷を減らした先に、どちらを優先するのかということをすり合わせたい
というものでした。

議論を経て、経営として追加リソースを投資し、業務効率化を実現し、定常的に新規顧客開拓に取り組んでいく方針ですり合うことができました。


営業マネジャーとのコミュニケーションの次には、営業メンバーに新しい取り組みを伝えて行く必要がありました。
2011年4月の新入社員研修シーズンが終わり、翌年に向けた営業活動をスタートさせるタイミングにて「生産性向上に向けた対話会」を開催しました。


営業メンバーの方は、新卒入社や中途でも社歴が浅い方が多く、新方針についてより丁寧に説明することを留意しました。

その場において、新方針について納得された方もいれば、反発をされる方もいらっしゃいました。

実際にあった反発の声としては以下のようなものでした。
●業務がいっぱいいっぱいであり、新しい事に取り組むのは難しく感じる
●業務効率化の投資の成果がいつ出るか見えない
●既存のお客様と向き合ってよりよい関係づくり、提案をすることを大切にしてきたのに、既存を重視するなというのは、モチベーションが下がる
●生産性向上のために仕事をするというと内向き。お客様を大切にしていない・・・等


一つ一つの声はもっともなものもあれば、認識違いに基づくものもあったかと思います。
認識違いの一例としては、上述の4つ目のコメントについては、生産性向上と顧客価値が相反すると捉えた発言のように見えます。現実的には顧客価値を高めることが、結果として生産性向上につながります。
(顧客価値を高める=アウトプットを高める=受注金額が高くなる)

Iさん、および営業マネジャーの方々は、こうしたメンバーの声と向き合って、対話を行われていました。

この過程において、残念ながら数名の営業メンバーの方がアルーを離れられました。必ずしも方針の違いだけではなかったかと思いますが、改革の意思決定の結果として、離職をされる方がいらっしゃられたことは、会社の包容力の無さであったと考えています。経営メンバーの一人として大変申し訳なく考えております。


⑤ミドル期の終わり

新方針に基づき、2011年、2012年の営業活動が行われていきました。
Iさんは方針を強く徹底し、生産性向上に向けた取組みを行っていきました。

営業マネジャーのフォローを行い、業務負荷を下げる、という点については、この期間では簡単に実現しませんでした。

しかし営業部門だけでなく、労務管理の強化や営業管理システムへの投資など管理部門が取り組んだことや、ソリューション部門が商品サービスの汎用化が進めたことで受注後の案件管理負荷が減ったことなどが寄与してきました。
2008~2009年頃までは、深夜まで残業が続いていたのですが、2012年の末頃には、一部の繁忙タイミングを除き、19時過ぎには多くの社員が退社しオフィスは閑散とするようになっていました。

少しずつではありましたが、働きやすい環境が整っていったことで、組織問題は収まっていきました

また新規営業活動への取組みについて、営業メンバーには業務負荷が多い中、注力していただきました。2012年には、年間50社以上の新規顧客を開拓することができ、その中には大型の取引もあり、その後の業績成長に繋がっています。

2012年末には、初の年間売上10億円を超える結果を実現できました
アルーは約6年間に渡って苦闘をしてきたミドル期を抜けつつありました。

アルーミドル期後半の営業部長Iさんはその後、レーター期の半ば2014年末にアルーをご退職され、その後、大手外食チェーンの企業再生のために社長としてご活躍されました。


本記事のまとめ

◆ミドル期、組織拡大期の営業部では、営業マネジャーに負荷が集中しがち
・新サービス・新事業による、業務内容の複雑化による負荷
・新規営業メンバーの増員に伴う育成負荷
・戦力不足によりプレイングマネジャーとして活動する必要性。管理業務との両立の負荷
・経営からの高い営業目標の要請に対するプレッシャー
◆放置すれば営業マネジャーの方々のメンタル不調や離職にも結びつく
◆営業の上流マネジメント改革に集中する人材のアサイン(投資)は重要
◆改革には、営業マネジャー/メンバーと真摯に向き合う対話が必要。改革実行場面においては徹底して遂行する


次回の記事は・・・・
「レーター期全体像」
(2021年11月11日(木)公開予定)

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本記事を含む「ミドル期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
ミドル期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。

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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

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