(6)パートナーセールスで実績を積む(アーリー期)
スタートアップ「アーリー期」の2つ目の記事です。
※アーリー期:一般的には「事業立ち上げから、プロダクトマーケットフィットまでの軌道に載るまでの段階」を意味します。
今回の記事は、課題(6)「パートナーセールスで実績を積む」です。
①パートナーセールスに取り組む
コンサルティング案件の受託をやめ、自社事業として企業向け教育プログラム提供に舵を切った株式会社エデュ・ファクトリー(アルーの創業時の社名)でしたが、大企業との直接取引は簡単には進みませんでした。
大手インターネット広告会社様が当社の企業研修サービスの最初のお客様になっていただきましたが、以降新しいお客様を獲得できていませんでした。
営業活動や企業研修サービスの商品開発活動等を行いながら、私たちはパートナーセールス戦略を選択し実績を積むという方向に取り組みました。
既に多くの顧客を持っている大手研修会社様や人事系サービスを提供する会社様に当社の研修プロダクト、サービスを売っていただく戦略でした。
②代理店契約と販売店契約
パートナーセールスとは、代理店契約による販売、または販売店契約による販売を意味します。これに対する概念は直接販売(直販)です。
代理店契約と販売店契約については、商流が異なり、最終顧客に対する責任も大きく違いが生じます。
代理店契約とは、売主(エデュ・ファクトリー)と代理店(パートナー)の間に結ばれた契約です。
代理店は、最終顧客を開拓しますが、最終顧客は売主と直接契約をします。売主は、紹介手数料を代理店に支払います。そのため売主は、最終顧客との直接取引となり商取引に関する全ての責任を一義的に負うことになります。
販売店契約とは、売主(エデュ・ファクトリー)と販売店(パートナー)の間に結ばれた契約であることは同じです。
販売店は最終顧客と直接取引をします。売主は販売店と直接取引を行い最終顧客との直接の契約関係は存在しません。最終顧客に対する責任は販売店が負います。売主は販売店に対して、直接的には責任を負うことになります。
代理店・販売店どちらの契約形態が望ましいかは、売主の事業・商材の特性や戦略によって変わります。
最終顧客が大手企業でありその直接取引を重視する場合は、パートナーセールスでも代理店契約をするケースが望ましいかと考えます。一方で、最終顧客が個人や中小法人など多数に渡る場合は、販売店契約を取るケースが望ましいのではと考えております。
当社は、この後2社の企業様とパートナー戦略を推進していきました。この時に契約形態はどちらも販売店契約という形となりました。
大手企業が最終顧客となるパートナーシップでしたが、パートナー企業様が最終顧客との直接取引を望まれたこと、そしてパートナー企業様が当社に直接顧客を紹介するメリットがなかったことです。この時点の当社とパートナー企業様との力関係が契約形態を決めました。
③採用支援サービス会社様とのパートナーシップ
私は学生時代からのご縁で、大手採用支援サービス会社A社様から開発案件の受託をさせていただいておりました。
企業が新卒採用活動を行う際は、一般的に就職希望者の学生を対象として会社説明会を行います。2000年代前半から会社説明会に参加型のグループワーク・ビジネスゲームを取り入れることが増えていました。
企業のビジネスモデルを疑似体験するビジネスゲーム形式のグループワークは一種の教育プログラムであり「質の高い教育プログラム開発を行う」ことをミッションとしていた私達にとっては、ぜひとも手掛けたい仕事でした。
学生時代にお世話になったA社Nさんの依頼による「就職活動生向けビジネスゲーム」制作の実績を作ることができた私たちは、このパートナーシップをもう一段深められないかと考えました。
当時、A社様の営業企画部門に所属されていたもう一人のNさんにアポイントメント取り、当社実績やビジネスゲーム提供の事業機会についてご説明をさせていただき、パートナーシップを提案いたしました。
営業企画のNさんへの提案はトントン拍子に進みました。Nさんは「A社は個社別会社説明会の企画提案において、競合企業に後れを取っている」とおっしゃっていました。ビジネスゲームを作れるのであれば、競合に勝つために積極的に営業現場は提案していくだろうと。
A社様内での検討をするために、Nさんから当社について資料提出を求められました。当社の会社概要とメンバー略歴、これまでの実績、納品実績のあるビジネスゲーム資料、財務諸表一式等。
また、パートナー契約を締結するためには、両者の間での取引条件を決める必要がありました。論点は大きく3つありました。
(1)販売店契約を前提としていたが、最終顧客に対して当社が営業活動を行っていいか?
(2)当社のパッケージプログラムをA社様に販売する際の卸値
(3)A社様案件を通じて制作した教材・コンテンツの著作権の所在
先方の初期案としては・・・
(1)販売店契約であり、A社様経由の企業への営業は禁ずる
(2)取引ボリュームに応じて、卸値を安くしていく
(3)著作権はA社様に帰属する
というものでした。
この条件交渉は今後の当社の事業活動の自由度に大きな影響があるものでした。そのため私はかなり粘り強い交渉をいたしました。結果として以下の条件(概略)で合意をすることができました。
(1)販売店契約であり、A社様を通じて知り合った企業の人事部採用担当に当社から営業はしない。ただしその企業の教育研修部門はOK
(2)A社様案通りでOK
(3)著作権は、ケースによって帰属先を分類する
・もともと当社が持っていたパッケージプログラムは、当社に帰属する
・顧客向けに新規で開発したものはA社様と当社の共同で著作権を保有する
私達が交渉時に大切にしたことは、取引の料率よりも「顧客への営業権利」と「プロダクトの著作権」の2つでした。将来当社が成長をしていく中でA社様とご一緒させていただいた企業様とも直接取引をしていきたいと考えていましたし、プロダクトの権利は手放してしまえばそれを再販することはできません。
成長を前提としたスタートアップにおいては、将来の可能性を制約する契約にしないことはとても大切だと考えております。
この時、当社の考えをご理解いただき、なるべく要望を通すよう社内で調整をしてくださいました営業企画のNさんには、今でも深く感謝いたしております。
④実績を積み重ねて、現場営業パーソンに食い込む
A社様との販売店契約が無事締結され、最初に行ったことはA社様の東京本社の営業部に当社の紹介資料を置かせていただいたことでした。またNさんより営業部門の方々に対して社内で説明会を行っていただきました。
しかし2週間程経っても何もありません。私は営業企画Nさんへの連絡を密に行いました。
「うーん、一応、本社の全営業担当を集めて説明したし、認知はしているはずだよ。すぐに商談化はしないかもしれないけど・・・。私の方でも個別に営業担当に声を掛けてみますよ」とおっしゃっていただきました。
翌週、Oさんという若手の営業担当の方からのご連絡がありました。Oさんは当時入社4年目で私と社会人同期でした。Oさんは、担当顧客の某金融機関の内定者を対象とした研修の企画で、当社に手伝ってもらえないかという内容でした。
Oさんからご相談をいただいた内定者研修案件は、当社が開発した「コンビニ経営ゲーム」という研修プロダクトが採用されました。早期内定承諾をした方々を対象に「コンビニ経営ゲーム」を実施し大成功に終わりました。(この件は、その後長くA社様経由の案件としてリピートします)
※コンビニ経営ゲームについてはこちらの記事で解説しています。
このOさん案件の成功をきっかけに、その後、A社様における多くの営業の方とお付き合いをするきっかけとなりました。
Oさんとは、その後も複数の企業様に、当社のプロダクトの販売や個社向けの開発案件をご一緒させていただきました。特に大手システムインテグレーター様向けのビジネスゲーム開発ではコンペティションからご一緒させていただき、二人で夜遅くまで企画を練って勝ち取った思い出があります。
こうした実績が出来たことで、大手建設会社様、メガバンク様、大手メーカー様などを担当する、A社様の多くの営業の方からお声がけをいただき、お仕事をさせていただくことができました。
最も大きな実績は、A社様の地方支社長だったSさんよりお声がけをいただき、大手自動車メーカー様の「会社説明会のグループワーク」を開発したことでした。案件の規模もこれまでの仕事をはるかに上回る、文字通り桁違いの仕事であり、その分大きな責任と高いクオリティを求められました。
私の名刺ケースには、100名以上のA社様の方の名刺が入っておりました。その全てとお仕事をしたわけではありませんでしたが、実績を積み重ねることで多くの方とのご縁をいただけたことは本当にありがたいことでした。
⑤大手研修会社様とのパートナーシップ
A社様とのパートナーシップの取り組みをしている時期より、少し後になります。2005年頃から、「無敗営業」高橋浩一さんを中心に、大手研修会社C社様とのパートナーシップを結び、企業向けの研修を販売する取り組みも行いました。これがもう一つの当社にとっての主要なパートナーセールス案件でした。
A社様は、企業の人事採用部門を顧客としておりましたが、C社様は人事人材育成部門が中心。現在のアルーの顧客と重なるところです。
当時当社が持っていた「ロジカルシンキング100本ノック」「プレゼンテーション100本ノック」「問題解決思考100本ノック」という3つの100本ノック研修のコンテンツをご評価いただき、提携がスタートしました。A社様と同じく販売店契約です。
初回案件は、C社様の営業担当の方が、大手メガバンクの若手行員向けにロジカルシンキング研修を探していることがきっかけとなりました。当社代表の落合さん、高橋さんが講師を担当することを含めて、ロジカルシンキング100本ノックを受注しました。
この案件の成功をきっかけに、C社様の役員とも面識を深めることとなり、その後、リーダーシップ研修開発で大変お世話になるK常務(当時)とのご縁もできました。
A社様の件で、パートナー契約を結んだだけでは仕事が増えないことを認識していましたので、高橋浩一さんや、中村俊介さん(現アルーエグゼクティブコンサルタント)がC社様の東京本社にデスクをもらい常駐させていただきました。二人がC社様に中で様々な営業担当の方とお話をしたことで多くの取引をご一緒させていただくことになりました。
C社様とのパートナーシップは、その後、大きな案件に発展していきます。また実質的に「同業(研修会社)」同士であったことで様々な難しさがありました。この件についてはまた別の記事でご紹介をさせていただきます。
本記事のまとめ
◆エンドユーザーへの直接営業が難しかったため、パートナーセールス戦略をとった
◆パートナーセールス契約の形には、代理店契約、販売店契約があり、事業内容・両者の状況により適切な選択肢は異なる
◆「顧客への営業権」と「コンテンツ著作権」に制限が掛からない契約にするべき
◆パートナーの本社と契約しただけでは実際の仕事は生まれない。実績を積み重ねて、現場の営業担当者に食い込んでいく
◆パートナー内に「常駐」するのは有効な打ち手
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本記事を含む「アーリー期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
アーリー期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。
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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。
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