見出し画像

ルパン腹案

 (前略)

まさか此処まで時間がかかるとは自分でも思ってなかった訳で…当初の予定としては、年に一本ずつルパン漫画を描くつもりでした。今から考えると夢物語以外の何物でもないですね(苦笑) まぁだから作品のアイデアはいくつか持っているんですが、最早こうなってはそれらを形にする事も無いだろう(また何年越しで付き合う訳にはいかない)と思うので、この日記に書き留めておきます。いつか何か別の形で使う事もあるかも知れませんが、誰か気が向いた人がいれば持って行って使って下さっても結構でござーます。

腹案A 仮題 / 地図にない国
もう一人のルパン三世が登場。もう一人のルパンがルパン帝国完全支配のためにルパンの抹殺を目論んで挑戦してくるという話。何とはなしにルパン『三世』って一人しかいないような気がしていると言うか、そもそもアルセーヌ・ルパンの孫が他にもいる可能性ってのを考えた事が無かったんだけれど、冷静に考えれば複数いるんじゃないか?と思えてくる訳で…我らがルパン三世に、他のルパン三世が挑戦して来る話なんてのはどうだろう?というのが作品の根幹です。 

画像1

帝国支配に興味が無く、帝国を捨てて飛び出した存在(という解釈は「ルパン三世企画書」などからの拝借)である我らがルパン三世に対して、二人目のルパンは帝国を背景に世界征服を謀る存在として配置。帝国の実権を殆ど握っている『帝国ルパン』が、その組織力を武器にして目障りなルパンを潰しにかかる、と。勿論『帝国ルパン』も組織力だけが売りではなくて、まず本人が壮絶な切れ者であると設定。組織体個人、天才対天才の構図。ルパンは帝国ルパンを倒す事で結果的に世界を救う事になる訳ですが、ルパンにしてみれば降り掛かった火の粉を払っただけだし、そもそも「世界は俺の物だから」といったような話。

 (中略)

腹案B 仮題 / 仮面の男
銭形がルパン達を『完全な牢獄』に閉じ込めて処刑するという話。これはきちんと纏まっていない話で、複数のアイデアが雑然と散らかっている状態です。悪友・岩谷君と二人でルパン漫画のアイデアを練って遊んでいた時に思い付いたアイデアーーお互いにそうとは知らず、ルパンが銭形に変装し、銭形がルパンに変装した為に、変装した二人が変装したまま入れ替わるという展開をまず縦糸にして、西村京太郎の「名探偵が多すぎる」から拝借したアイデアを横糸に、更には国際死刑執行官を絡めて…とか色々あるんですが、どうも上手く纏まりません。
画風は原作(新冒険)の線で行くつもりでした。

画像2

腹案C
これは腹案Aの発展系と言うか別バージョンなんですが、とにかく完璧な挑戦者が登場する話をやりたいなぁというのがあって…考えてみればルパンの挑戦者って全て『負ける事が織り込み済み』な訳ですよね。強敵なんだけどルパンの方が更に上手、だから負ける。あるいは…強敵なんだけど何処か人間的に欠陥・欠点があって『愛されるキャラクター』ではなかったり。ルパンが主役なんだから敵役がそう設定されるのは当然と言えば当然なんですが、そこを敢えて突破してみたらどうだろう?と思うんですよね。完全無欠の名探偵との対決か、あるいはルパンと同等の能力を持った完全無欠の義賊との対決…といった具合に、ルパンと較べても遜色無いどころか、むしろルパンを上回るような巨大な存在を対置させてみたいなぁ、と。 

だから場合によってはルパンを敗北させてしまってもいいとすら思ってます。本当に完全完璧な存在が立ちはだかった時に、どうしてもルパンが勝利する展開を構築出来ないんであれば、それはもう敗北させてしまっても仕方無いだろう、と。そうやってルパン三世というキャラクターを掘り下げてみたいんです。

画像3

よくルパンファンが口にしがちな言葉に「ルパンは悪党だ」ってのがある訳ですが、これがどうにも僕には頂けない言葉で…ルパンって結局は変化球の『ヒーロー』なんだと思うんですね。アンチヒーローってのは、あくまでもヒーローの一種ですから。「ルパンは悪党だ」ってのを必要以上に強調してしまうのは猛烈に危険で、冷静に考えれば実際これまでに描かれてきたルパン像とはかけ離れてしまいますし、彼等が主張するような悪党ルパンって魅力的でも何でも無いだろうと思うんですよ。 

例えば「ルパンは少女を救ったりはしない。女と見れば犯すのだ」とか何とか、そんな具合に悪党的側面を強調したがる向きがある訳ですが…じゃあ「ルパン三世」ってのはレイプ魔の話なんですか?貴方はそんな作品が望みなんですか?と言いたくなってしまう訳で。

ルパンはルールやモラルを逸脱してしまっている存在で、だからこそ『アンチ』ヒーローなんですが、だからと言って欲望全開一切無制限な訳じゃあなく、彼の行動規範ってのは、『彼なりの』『ある一定の』ルールやモラルの範囲内であって、それは同時に読者・視聴者にとっても納得し易い範囲内なんですよね。 

ルパンというキャラクターは、手当たり次第に罪も無い人を殺したり女性を犯したりするような存在ではなく、だからルパンの被害を受ける側には何らかの形で因果応報的な要素が含まれている場合が殆どな訳で…そうやってルパンというキャラクターからは悪の要素が注意深く一定の基準で排除してあるのにも関わらず、何故「悪党悪党」とそこばかりを強調しようとするのか、と。恐らくはカリ城ルパン等に対する反動として、なんでしょうが…カリ城ルパンはきっちりとアンチヒーローとして成立していますから、それを否定しようとするとこれはどうしたって歪んでしまう訳で、その無惨な結果が「ルパンは悪党だ」式言い回しの空虚さによく顕れていると思います。

画像4

そうした「ルパンは悪党」言説に対するアンチテーゼとして、敢えてルパンの悪党的側面を抉る展開を用意したい、アンチヒーローであるが故の限界を容赦無くルパンに突き付けてみたい、というのが腹案Cの根幹です。アンチヒーロー対悪という構図ではなく、アンチヒーロー対ヒーローという構図を持ち込む事で、アンチヒーローの『ヒーロー』の部分を揺さぶってみたい、と。悪の要素こそが足を引っ張り、アイデンティティなりレゾンデートルなりの危機を迎えてしまうという話。 

それとは逆に、ルパンの悪党的部分だけを拡大した残酷非道極悪無比な凶悪犯を登場させ対決させる事で、アンチヒーロー対極悪人という構図にしてしまうという方法もあって、これなんかはその極悪人に「ルパンは悪党」言説を不必要に強調するならこうなってしまうだろうという皮肉を込められますから、それはそれで面白くはあるんですが…何よりそうしたキャラクターを描くのが楽しくないのが難点ではあります。

ーーとまぁ、そういった感じで腹案をいくつか抱えていて、「地図にない国」には新ル第3話「ヒトラーの遺産」の北小路警部補を再登場させたいとか、帝国ルパンに二人の部下を付けてルパン一家と対置させよう(といったような図式はTVSP等で下手に多用された為に印象が良くないですが・苦笑)、彼等の能力はこんな感じでとか、「仮面の男」に登場させる国際死刑執行官の名前は冥府の神から名前を取ってハデスがいいなとか、そういった細々したアイデアもあったりするんですが…とにかくもう「ルパン」の漫画を描くような暇はこの先にはもう無いでしょう。さらば愛しきルパンよ。

(※初出 / mixi / 2008年3月31日)