近日参上!ルパン三世
(前略)
ところで、此処で大きく採り上げられている「風魔一族の陰謀」という作品は、ルパン史を考える上で極めて重要なターニングポイントになっていると同時に、個人的にかなり思い出深い作品でもありますので、今回はちょっと「おもちゃ箱2」の感想から外れて、「風魔」に関連する自分語りを垂れ流しておこうと思います。
OVA(※1)「風魔一族の陰謀」(※2)製作決定のニュースを最初に知った時はそりゃあもう滅茶苦茶に驚喜したものでした。何しろ「ルパン」の新作をまた見れるぞ!という極め付けのビッグニュースでしたかんね。
(※1)途中で話が変わり、ビデオのリリースに先行して単館公開されましたが。
(※2)当初は「五右衛門紫変化」なる仮題が掲げられておりましたが。
僕が「ルパン三世」という作品に出会ったのは確か小学校に上がって間も無い頃、新ル本放送直前の旧ル再放送が最初で、其処から「風魔」へと至るまで、ずーーっと断続的に「ルパン」と接して来ていた訳なんですが…それぞれの作品が終了した後の欠乏感・喪失感ってのはおよそ尋常ではなかったんです。
今になって振り返ってみると、新ル終了からPARTIII開始までの空白期間がたったの3年半、PARTIII終了から「風魔」のビデオレンタル開始までがたったの2年半で、しかも新ルとPARTIIIの間には「8世」の企画が浮かんで消えましたし、あるいはそれぞれの空白期間中にも旧ル・新ルの再放送などは殆どヘビーローテーションな状態でしたから、実は完全な空白ってのは殆ど無いに等しく、「ルパン」ってのは常に現在進行形だったと言ってしまっても差し支えないような感じではありました。
がしかし。
それもこれも今の感覚で捉えたらそうだというだけの話であって、幼少期は時間の経過が遅い(体感時間が長い)ですから、たった数年の空白期間が、およそ絶望的な長さに感じられたんですよね。更に言えば、そもそも『空白期間』という考え方自体が後付けのものであって、当時は「この先に果たして新作が作られる日が来るのか?」ってのは全く判らない状態な訳ですから、『空白』も何も、「もう終わってしまった」という認識が実際のところであって、だから其処へ持って来ての「新作決定!」のニュースってのは滅茶苦茶に嬉しいものでありました。
個人的には好きだったけれど、世間的には失敗作だったPARTIIIの終了から数年、復活に失敗した以上、この先の新作は少なくともしばらくちょっと望めそうにないだろうなぁ…といった気配が濃厚だったところに突然飛び込んで来た「近日参上!ルパン三世」の輝かしい文字。忘れもしない、高校のすぐ近くの、昔ながらの『町の小さな本屋さん』の店先で立ち読みした、友永和秀の傑作版権イラストが表紙を飾った、あの「アニメージュ」の87年7月号。
ルパン復活。しかもOVAでの復活。当時はOVAと言えば、何か新しい事の象徴のような、独特のワクワク感がありましたから、『ルパンの』『新作』『OVA』なんてのはもうホント、夢のような情報でしたね。しかもあの『大塚康生が』関わるってんだから、これで期待しない方がどうかしてるってなもんでしょう。以後、アニメ雑誌を毎号毎号立ち読みしては、熱心に新作情報を追い掛けたものです。
そうやってもうグングンに期待が高まったところへいきなり、「風魔」ではキャストを一新するという情報が飛び出してしまうのでありました。これがもう…目の前が真っ暗になる大ショックで。何しろルパン三世と言えば山田康雄の声で、次元大介の声は小林清志でってのが『言うまでもない当たり前の事』であって、それがまさか他の声優が代わって担当するなんて事態が起きようとは…想像を絶する大惨事ですよ。それでもう完全に臍を曲げてしまって、「こんなものはルパンじゃねェ」と突っ撥ねて、いよいよビデオがリリースされた後も見ませんでした。そうなんです。見なかったんですよ。作画は魅力的だし、「五右衛門が結婚して」云々というキャッチーな内容にも大いに興味を惹かれるところではあったんだけど…それでも見ませんでした。完全にもう怒っちゃってたんですよね。
それで半年か一年か位ずーーっと無視してたんですけども…岡山市街の中心部に出掛けた際…今でこそすっかりもう人の流れが郊外へと移っちゃってますけど、当時はまだ岡山市街中心部に出掛けるってのが『ハレ』の行動だった時代なんですが…市街に出掛けて、確かバスセンターの待合室だったかで「風魔」のビデオを流しているのに出くわしたんです。
僕が使うのは別系統のバスでしたから、其処を通ったのはたまたまで、だからその待合室に用は無いし、何しろ目の敵にしていた「風魔」でしたから、待合室には入らず、ちょっと遠巻きに、ガラス越しに何となく眺めたんです。新キャストに変わったルパン達の声を聞きたくなかったってのもありましたから、ガラスの壁を一枚隔てた向こう、音声が聞こえない状態での遭遇ってのは却って好都合でした。
しかしまぁ「見たくない」と言ってずっと避けていたんだから、無視してそのまま立ち去っても良さそうなもんですけど、そうは言ってもやっぱり、潜在的にずーーっと気にはなっていましたし、何より吸引力があったんでしょうね。思わず立ち止まって見ちゃったんですよ。その時に流れてたのは丁度、終盤も終盤、五右衛門が風魔のボスと対決する剣劇のシーンでした。
衝撃を受けました。これは見なくちゃいけない。臍を曲げている場合ではない。これはきちんと見なければならない。
余りの出来の良さに興奮したアタシは、つまみ食い視聴を即座に辞めて、慌ててビデオを借りて鑑賞したのでありました。最初はやっぱり新キャストに対する拒絶反応ってのが派手に出ちゃいましたけど、それも最初だけであって、観てる内(聴いてる内)に慣れてしまいましたね。当時の時代の気分を反映した「風魔」ならではのライトな作風・テイストには、古川ルパンを初めとする新キャストが上手く嵌っていましたし、それぞれが力量のある役者さん達ですから、慣れてしまえば何の文句も無くて。そりゃまぁ山田ルパンに対する思い入れってのは依然としてありましたけど…「これはこれ」と割り切る事は可能でした。
新キャストを起用しての「風魔」ルパンは、新しいルパン像としては申し分無い…と言うか…こうなってみるとむしろ、古川登志夫以下の面々が、山田ルパンの路線を継承する、同じキャラ解釈を踏まえた上での人選であろう事が、何だか踏ん切りが悪い感じで…いっその事もう、ガラッと大幅に解釈を変えて、全くテイストの違う声優・演技に変えるべきだったんじゃないか?とすら感じた位ですけど…当時の状況ではそれは余りに無謀だったでしょうから、仕方の無い話ではあります。そもそも古川ルパン自体が、ファン達の壮絶な拒否反応でもって否定されてしまった(※3)訳ですもんね。
(※3)これはもうホント取り返しのつかない大愚行だったと思います。僕自身が何しろ臍を曲げてしばらく見ようとしなかった位ですから、あんまり強く言う資格は無いんだけれど(苦笑)…それでも敢えて言うなら…こうした具合の『ファンならではの拒絶反応』ってのはどうしても仕方が無い面があるにせよ、徹頭徹尾それだけで物事を把握する・結論してしまうってのは碌でもないですよ。「違うから駄目だ」式の拒絶ってのは愚の骨頂ですね。閑話休題。
とにかく、ようやく鑑賞した「風魔」は最高でした。まぁ全く文句が無かったという訳でもなくて…強烈な作家性を帯びた演出家の不在や、70分という短い尺などが恐らくは要因となって、もうひとつ食い足りなさを感じる面はあるんだけれど…それでも中編OVAとしては屈指の出来だし、新しい「ルパン」の方向性として、諸手を上げて大賛成出来る佳作でしたね。「ルパン」の新時代到来。
がしかし。その直後にTVSPのシリーズが開始されて大いに落胆する訳です。以来20年以上、現在に至るまでずーーーーーーっと暗黒時代が続く事になる、なんてのは当時のアタシが知る由もありません。
(※初出 / mixi / 2012年11月19日)