000 医療教授システム学:「できる」医療者に発達する学び方/教え方/働き方(医療教授システム学への招待)200404版 インストラクションの目的
教授システム学の教科書とも言える「インストラクショナルデザインの原理」で勉強を始めて13年が過ぎました。その間、インストラクショナルデザインを使って医療における患者安全や医療者の成長を支援する考え方や方法論を学んできました。フォトの左側は2007年に購入し13年間使い続けてきた「インストラクショナルデザインの原理」です。
今年は医療分野に特化したインストラクショナルデザインの本を書こうと考えています。その本は医療教授システム学の入門書のような位置づけになると思われますが、執筆に当たっていま一度教授システム学を俯瞰するために新たに「インストラクショナルデザインの原理」を購入しました(フォトの右側)。2007年に買った本はアンダーラインや書き込みが至るところにあるため、新たに読む際のバイアスになるので。
この記事は、医療教授システム学を執筆するために考え方をまとめるため、あるいは書いては直し、また考えて新たに書き始める、そしてまた直すというプロセスそのものになります。
それでは「インストラクショナルデザインの原理」を改めて通読しつつ、医療教授システム学に取り入れる箇所をどのように加工すればいいのかと様々に考え書いてみるという作業にお付き合いください。
この記事は200404版、すなわち2020年4月4日バージョンになります。今後、様々なバージョンを追加していくと思います。
さて、始めましょう。
以下、インストラクショナルデザイン序論からの引用ですが、僕が一番好きな箇所になります。
(引用始め)インストラクションの目的は、人々の学習を助けることにある。学習はインストラクションなしで成立するのだろうか? もちろん成立する。私たちは、自分たちを取り巻く環境とそこで生起する事柄に常に出会い、そしてそれを解釈している。学習とはそのような自然のプロセスであり、学習することによって私たちは知っていること・できること・行動の方法などを変化させている。いっぽうで、教育システムの目的の一つに、意図的な学習を支援することがある。インストラクションなしでは達成するのにとても長い時間がかかってしまう多くの目的を達成するための支援である。学校では、コミュニティが必要であると認める知識やスキルを教える。たとえそれらが学習者にとってすぐに興味が持てないものであったり、学校以外の環境では自然に出会わないようなことであっても教えている。・・・本書の目的は、意図的学習のためのインストラクションを効果的にデザインする上で、学習の原理がどのように役に立つかを述べることにある。(引用終わり)
何度読んでも頭がクリアになるパラグラフです。
このパラグラフから私たちが受け取るべきメッセージを整理してみたいと思います。まずインストラクショナルデザイン(Instructional Design: ID)では、知っていること・できるようになること・行動の方法は別々の学習成果と考えていることがあります。IDでは知っていることは言語情報という学習成果に分類されます。できること、は言語情報+知的技能+運動技能+態度という複数の学習性以下で支えられています。行動の方法とはおそらく知的技能の最上位である問題解決と認知的方略のことを言っているのだと思います。
知るだけなら教科書の内容を暗記したり、Googleで検索すれば目的を達せできます。大事なことは知るだけではできない、ということ。なぜなら知ることとできることの学習成果が異なるから。知るだけなら言語情報を学べばいいわけです。しかし、できるようになるには言語情報の学習だけでなく、知的技能、運動技能と態度技能を総合的に学習しなければなりません。
伝統的な学校教育・医療教育では言語情報の教授が主流になってきましたが、医療教授システム学(医療ID)では「できる」ようになるための学習として、言語情報+知的技能+運動技能+態度技能を総合的に学ぶ/教えることを目指します。
医療教授システム学では言語情報+知的技能+運動技能+態度技能+認知的方略を総合的に学ぶ/教える学習システムを実現します。その原型は「急変させない患者観察テクニック」と患者安全TeamSimゲーム(「急変させない患者観察テクニック」からダウンロードできます)の中にあります。以下、その原理について簡単に説明します。
医療教授システム学では言語情報+知的技能+運動技能+態度技能+認知的方略を総合的に学ぶ/教える学習システムを実現します。そのデザインの仕方は、①言語情報は教科書を参照する、②言語情報を前提に、「できる」医療者の実践として知的技能+態度技能をモデル化する(その方法がゴールド・メソッド)、③言語情報+知的技能+態度技能をメンタル・シミュレーションで学習する、④メンタル・シミュレーション学習の経験を通して認知的方略を学習する、⑤最後に運動技能を組み合わせ総合的な実践能力を学ぶ、という学習の系列の設計になります。
話を元に戻してこのパラグラフを読むとわかりますが、IDのターゲットは教育や研修というフォーマルな学習になりますが、そのお話は次回に。