「先生、うちの子、自信が持てないんですけど、どうしたらいいでしょうか?」と母親に言われたらどうする?
数年前の教職総合演習という授業での一コマ。
Q 三者面談で「先生、うちの子、自信が持てないんですけど、どうしたらいいでしょうか?」と母親に言われたらどうする?
これについて90分議論を重ねた。
◆
学生達からの意見は
・ほめる
・成功体験を積ませる
・家でもやってもらう
・やらせる
・小さなことでもほめる
・他人と比べない
・小さなことから出来ることから積み重ねる
・その子が出来ることをやらせる
・先生、親だけでなく、仲間からも褒める
・得意なことをさせる
などの意見があった。
◆
確かにその通りである。
『殆どその通りなのだが、じゃあどうやって、ほめる? 成功体験を積ませる? 家でやってもらう? やらせる? のであろうか』
と問うと、ここで見事に詰まる。
何をどうやってほめるのか。その時の注意すべき点は何なのか? ここが分からないとアドヴァイスにも何にもならない。これらは教師が経験しながら身につけて行くもの。その子どもに応じて何をどうやってという部分は加減をしていく。だから新人の教師には非常に厳しい。
しかし、新人の教師は大学で最先端を学んで来ている。だから、
「私が大学時代に勉強したことで言いますと、〜」
という話は出来る必要はある。
◆
『小さなことって具体的になに?』
「.......」
詰まってしまう。
『君たちは、ほめることってのは、マイナスからプラスの方向に動いたもの。または、遥かプラスの上位にあるものを対象としていない?』
「?」
『プラスでもマイナスでもない状態にあるものを褒めるってことは考えられる?』
「?」
『つまり、当たり前のことが当たり前に出来ていることを褒められますか、ということだ。現状維持をする。当然と思われることをやり続けるってのも、結構大変なことだと分かっているでしょ? 偏差値を同じに保つって大変だったでしょ。そこには努力があるのですよ。これを褒められるかどうかが大事。そのためには、子どもを良く観察し、その努力を見ておかなければならない。記録しておかなければならないのだよ』
家本芳郎先生は、デフレの時代に現状維持しているだけでも素晴らしいことだと言われたが、そういうことだ。
◆
『他人と比べないって本当?』
と確認する。
この「他人と比べない」というのは良く言われる。しかし、本当だろうか? 私は比べるべきものもあると考えている。他人と比べないというのは、比べる子どもは他人と比べた上で、(だから自分はダメなんだ)と結論づけることに問題があると思う。
比較して、(あ、自分はここが優れている)というものを見つければ良い。比較優位である。しかし、そこが見つけられないのが自信のない子どもである。だから、そこは教師が観察した事実を元に「君はここが優れている。ここで行けるのではないか?」と支援して行くのだ。
また、比べる場合、過去の自分と比べるというのは大事。才能も環境も資質も違う人と比べた所で、ダメだと言うのであれば、過去の自分と比べれば良い。そこに成長を見いだせるように指導していく。
◆
自信がないというのは、そもそもどういうことなのか。
私はダメだ。私はやっても出来ない。つまり、自分で自分のことを信じられない状態にある。
『なんで、やっても出来ないと思うの?』
「出来なかったときの予めの言いわけ」
『なんで、出来なかったら困るの?』
「出来なかったら、怒られる」
『そう。じゃあ、怒らなかったらいいの?』
「あ、そうかもしれない」
『子どもが嘘をつくのは?』
「正直に言うと怒られるから」
『じゃあ、怒らなければ嘘をつかない?』
「たぶん」
「でも、それじゃ指導ができないのでは?」
『悲しめば? 一緒に。出来なかったかあ。残念だなあと』
「あ、そうか」
『叱る必要はあるのだろうか? 必ず怒る必要はあるのだろうか?』
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私が中学校にいた時にやっていた指導は、以下の通りである。
1)やらせる → できた
の段階を踏ませる。「ゴミを三つ拾え」のようなやれば必ずできるようなことをやらせる。そして、出来たと褒める。ここには小さなトリックがある。英語で言えば、
You do it→ You did it
になるところを、
You do it! → You could do it !
と言っているのだ。
やりなさいと言われて、やらされたことなのに、出来たね!と言うのである。
これを繰り返す。
そうすると、
2)(俺は、やれば、できるんじゃないか?)
と美しい誤解を抱くようになる。
つまり、
If I will do it → I can do it
となる。
そう、I can do it これが自信である。
そして、さらに出来ることを集中的にやらせて、やればできるの実感を確実なものにして行く。こうして指導して来た。
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その他、上記に学生が出した仮説や、他にも考えられる条件などを出しながら、90分の授業を進めた。
参考図書として『モティベーションを学ぶ12の理論』(金剛出版)を紹介しておしまいにしました。
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