ファンフルエンサー4

インプレッションとリーチを金で買う従来型インフルエンサーマーケティングの限界と新しい潮流について

巷はインフルエンサーマーケティングで花盛り。

手法そのものは悪くありません。むしろその逆で、インフルエンサーマーケティングはこれからより一層、重要な役割を担うようになる。

でも、もうそろそろ、お金でインプレッションとリーチを買う従来型のインフルエンサーマーケティング(1.0)は終わりを迎えると思います。

理由はたくさんあります。

インフルエンサーはPaid Mediaじゃないはず

ファンフル1

[課題1]インプレッション/フォロワー数至上主義

いわずもがなのやつです。いままで、多くの企業や広告会社は、マスメディアやネットメディアのインプレッションなりリーチを買ってきましたが、それらのターゲットリーチ力が弱くなってきたため、その代替手段としてインフルエンサーを起用しました。

まずもって、インフルエンサーを「メディア」として捉えているところがイケてない。

もちろん、メディアとしての期待や機能はあるでしょうが、インフルエンサーは「ひとりの人間」であり、メディアの考査を通れば出したいときに出したい場所に出したいクリエイティブで出したいだけ出すことができる広告メディアではありません。

メディアとして捉えているため、リーチ力(=フォロワー数至上主義)になる。これでは、テレビの視聴率や雑誌の販売部数とやっていることは変わりません。雑誌の記事タイアップがインフルエンサータイアップに変わっただけ。

いまのインフルエンサーマーケティングのほとんどは、インフルエンサーインプレッションバイイングに成り下がってしまっている。

本質的じゃありません。

[課題2]フェイクアカウント

最近明るみに出てきているフォロワー水増し問題です。根っこは課題1と同じです。

クライアントや広告会社がフォロワー数至上主義だから、一定のフォロワー数がないとお呼びがかからないので、簡単だし、安いしで、インフルエンサーもどきさんがフォロワーを買って水増しする。

不毛地帯。

[課題3]ステルスマーケティング

投稿に[PR][AD][SPONSORED]が付いていない投稿がまだまだたくさんあります。

これはインフルエンサーだけの問題じゃなく、仕事を依頼している広告会社や仲介業者のリテラシーが低く、しっかり指導を徹底していないケースも少なくありません。

まあ、「仕事」「依頼」「指導の徹底」と言っている時点で、インフルエンサーを広告枠扱いしているわけで、本質的じゃないんですけども。

[課題4]専門会社のキャスティング会社化

これもね、何も悪いことじゃないんですよ。

多くの問題は発注元に問題があって、リーチを欲しがる広告主→楽してリーチを買いたい広告会社→専門のキャスティング会社に丸投げ→インフルエンサーリストをつくって、フォロワー数と想定インプ数を足し算して提出→実行みたいなケースが多すぎるんです。

企画も思想も倫理観も美意識もほとんどないから、某新聞社の無料試読キャンペーンとか、某有名女性雑誌と某政党のインフルエンサータイアップみたいに、みんながみんな、顔の前にクーポン持ってきてパシャリ、みたいなことになる。

ソウジャナイ感☆

[課題5]インフルエンサーのブランド意識の低さ

これもね、インフルエンサーだけの問題じゃないですよ。マイクロインフルエンサーという言葉があるけど、目鼻立ちが良く、数万フォロワーを持っている特定領域のユーザーを持て囃(はや)してメディア(組織)化し、じゅうぶんなルールやマナー、倫理、道徳を教えることなく雑に仕事を振っちゃってる発注元も共犯。というより主犯。

依頼メールをそのままインスタに投稿しちゃったり、フォロワーからのコメントに「え、お仕事だからわからない。事務所に聞いてみます」みたいなワケワカメなことになる。

ほんとたのむ。

[課題6]ROI検証

インフルエンサーマーケティングを含むすべてのマーケティング施策は、何かしらのマーケティング課題を解決するために実行されます。

マーケティングコミュニケーションは、ターゲット消費者の意識変容か態度変容を促すものだから、インフルエンサーマーケティング(という名のインプレッションバイイング)も、どんな効果があったのか、ちゃんと測定・検証できなければならない。

インフルエンサーマーケティングだけに限らず、ほとんどの広告効果測定は本気でやろうとすると極めて難しい樹海に足を踏み入れることになるものの、とはいえ、現状の効果検証は、インプ数、エンゲージメント数・率、サイト誘導数などだけで、肝心の(フォロワーの)意識がどう変わったのか、態度がどう変わったのかはわからない。

インフルエンサーマーケティング=メディアバイイングなら、上記KPIでいいけども、そうじゃないはず。

従来のメディアバイイングによる露出やタイアップでは、求める意識変容や態度変容が獲得できないから、インフルエンサーマーケティングという手法に期待をしたはずだ。

インフルエンサーはSharedとEarnedの中にいる

ファンフルエンサー

なぜインフルエンサーマーケティングに注目が集まるのか。その理由は、メディア環境やマーケティング環境の変化を理解していないとわかりません。ということで、おさらい。

左が2000年頃の状態。マーケティングコミュニケーションにおける影響力はPaidメディアが大きく、それを補完するようにEarned(≒パブリシティ「おい、これパブも打っとけよ!」)と、Owned(「続きはウェブで!」)が配置されていました。それで良かったし、それしかできなかったとも言えます。

2019年現在は右側。

マーケティングコミュニケーションにおけるPaid(広告)の相対的影響力が下がり(認知や理解だけでは買ってもらえなくなった、マスメディアの相対的影響力が低下した)、Ownedやコンテンツマーケティングの影響力が増加、そして、一番大きな変化は、Earned(PR)におけるインテンション(Intention:意向)の創造力と、Shared(≒Social Media)における情報伝播力やクチコミの信頼力が爆上がりしました。

Earned(PR)とShared(Social Media)は、相性がすこぶる良いことで有名です。

大量のテレビCMを流しても(よっぽどインパクトがあるCMを除けば)Tweet数はほとんど伸びない。

一方、Twitter民は、ニュースに敏感に反応する。

日本におけるTwitterのアクティブユーザーは約4,500万アカウント。一日あたり、約8,000万の日本語Tweetが生まれています。

その多くが、メディアから発信されたEarnedコンテンツ(刺激)に対する反応です。

EarnedがSharedを呼び(Twitterトレンドの多くはメディアから発信されたコンテンツ)、拡散したSharedがEarnedを呼ぶ(いまネットで話題の!とテレビで取り上げられる)

PR業界には「メディアを一番観ている人間は、メディアの人間である」という格言(?)があるそうだけど、ほんそれなんです。いまやテレビ局のディレクターや制作会社が一番Twitterやインスタを見ている。

話がそれたけど、現代においてマーケティングコミュニケーションに関する大きな影響力を持っているのは、左のPaid+Ownedから、右のEarnedとSharedに移行したわけです。

一番重要なこと。

それは、右側は、Uncontrollableであることです。

企業の宣伝担当者、マーケティング担当者、事業部の人たちが一番嫌うのがコントロールできないこと(だから広告会社の営業さんも右側が嫌い)。

広告主と広告会社は、広告ないし広告的メッセージが出る場所、時期、期間、出方(語られる形容詞、文脈、ビジュアル)を、できる限り(というより100%)統制・管理したい。

その希望にガッチリハマるのが広告でした。

メディアも、露出時期も、期間も、量も、タレントも、コメントも、すべて自社商品を中心に、100%ポジティブでコントロールできる。Ownedも同様です。

しかし、消費者は気づいてしまった。広告は企業都合でつくられているから100%ポジティブメッセージで塗り固められていて信じられない。

信用できるのは、仲の良い友人や家族からの推奨と、(自分と同じ消費者であり、かつ利害関係のない)ネットユーザーのクチコミ(の平均値)であると。

企業がコントロールできないからこそ、消費者は「クチコミ」を信用するわけです。

それが、いまEarned✕Sharedで多くの人が「行きたい」「食べたい」「飲みたい」「観たい」と意識変容や態度変容をする理由です。

※最近話題の映画「ジョーカー」なんて、Twitterやってる人なら一日何回もタイムラインに(フォロイーの)「観た!」「やばい!」「すごい!」「2回観た!」とか流れてきて、観たくなりますよね?(意識変容)観に行っちゃいますよね?(態度変容)Twitter広告で「全米が泣いた話題作!」ってバナーが出ててもクリックしないですよね?経済的な契約関係のある芸能人が「みんな観るべき!」って言ってたって「あっそ」ってなりますよね?そういうことです。

インフルエンサーは、本来、企業がコントロールできない消費者代表として、歯に衣着せず、本心を、自分の言葉で語るから、Earned(PR)としてのCredibility(信頼性)と、Sharedとしての共有・拡散性が強く、影響力が大きいはずなんです。はずだったんです。

インフルエンサーは、EarnedとSharedの中から出ちゃいけないし、広告主や広告会社は、安易にPaidに誘い入れちゃ駄目なんです。短期的に稼げても、中長期的にはフォロワーの信頼を失い、影響力は消失してしまう。

広告主も、広告会社も、キャスティング会社も、インフルエンサーを「売り物」として扱い、儲かればいい、言うことを聞かなければ切ればいい、売れなくなったら別の「モノ」を仕入れればいい、という短期的、短絡的、近視眼的、自己中心的な考えは、そろそろ改める時期に来ていると思います。

おっと怒りがほとばしってしまった。

さておき。

インプレッションバイイングからインフルエンサーリレーションズへ

カタカナ長いですけど、こういうことです。

ファンフル2

PR業界には、メディアリレーションズという言葉があります。

メディアリレーションズとは、広報担当者やPR会社が、メディア(記者や編集やライター)の方々に対して、仮に短期的には自社に直接的なメリット(記事の掲載)がなかったとしても、来たるべき時期(新商品発表など)がきたときに、自社のニュースを取り上げてもらいやすくするために、業界の最新情報や消費者トレンドなどを提供し、次号の特集記事などを教えてもらうなどの信頼関係をつくっていく活動です。

Influencer Relationsという言葉には、その思想が入っています。

インフルエンサーマーケティングは、広告のように、お金で枠を買うのではなく、広報(PR)のように、自社ではコントロールできないけれど、だからこそ、取り上げてもらったときには第三者としての信頼性(Credibility)が高い手法なのであり、相手を「ひとりの人間(=信頼関係を構築するパートナー)」として理解するべきです。

インフルエンサーマーケティングで大事なのは、「短期的な、お金の関係」ではなく、「中長期的な、信頼と愛の関係」であるべきということです。

ファンフルエンサーの時代がやってくる

僕は、これから、インフルエンサーマーケティング改め、ファンフルエンサーマーケティング(インフルエンサー2.0)の時代がやってくると思っています。

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ファンフルエンサー(Fan-fluencer)とは、FanとInfluencerを足した造語です(え?わかるって?)

読んで字の如し、商品やサービスやブランドのファン(Brand Advocates)で、友人や知人や家族や同僚やソーシャルグラフ(ソーシャルメディア上での人間関係)やインタレストグラフ(興味関心で形成された関係)への影響力(意識変容・態度変容促進力)がある人のこと。

企業は、この人たちと、中長期的な信頼関係を構築していくべきです。ポイントは下記の3つ。

1. フォロワー数や見かけのエンゲージメント率はあまり関係がない

取り組んでみればわかりますが、ファンで、かつ、他社にポジティブな影響(意識変容や態度変容)を与えているファンフルエンサーは、いわゆるインフルエンサー(≒多くのフォロワー数を持つ人)ではないことがわかるはずです。

フォロワー数は1万人未満(パブリックグラフではなくプライベートグラフに近い)、フォロリツ(フォロー&リツイート)キャンペーンには参加しない(≒見かけのエンゲージメント率とは関係がない)、ファン同士でのリプライ(双方向の会話)が多いなど、いくつかの特徴があります。

ツールだけで見つけることは難しく、ある程度(というかかなり)目視で探し、発見する必要がありますが、それだけの価値ある人たちが必ずいます。

2. 中長期的な信頼関係づくりが大切

もう散々口スッパで言いましたが、短期的・刹那的関係、「買う相手」「使う相手」ではなく、中長期的に、「対等に付き合う相手」としてとらえてください。

キーワードは、「逆の立場だったらどう思うか?」です。常に頭の中でこの質問をリフレインしながら、ファンフルエンサーリレーションズに臨んでください。

「人にやられて嫌なことは人にもしない」むかし習いましたね?

3. 広告会社やキャスティング会社を挟まない

極めつけがこれ。

ファンフルエンサーとは、絶対に!ゼッタイに!ZETTAIに!直でつながってください。広告会社やキャスティング会社経由でつながってはいけません。

あなたは恋人や人生の伴侶と、毎回、事務所やエージェンシーを介して会いますか?そんなわけないですよね。

同じです。

ファンフルエンサーは、ブランドマーケティングを実行していく際のパートナーです。直でつながるという選択肢以外はありません。

「えー。直でつながるのはいいけど、きめ細かくフォローアップしたりする時間をとる自信がないよ」という声も多いでしょう。そこは(外注的位置づけではない)パートナー企業にやってもらっても構いません。

大事なのは、ファンフルエンサーと直でつながり、その人たちとの信頼関係づくりや、共創した歴史が、すべて自社のブランド資産になることです。

広告会社やキャスティング会社を経由して紹介・取引をすると、それらはすべて彼らの資産や実績になり、自社には還ってきません。

これは、投じている時間やお金が「費用」として使い捨てされていることと同義です。ファンフルエンサーリレーションズは、費用ではなく投資です。P/L(損益計算書)ではなく、B/S(貸借対照表)です。

ファンフルエンサーは、大切な大切な資産(Brand Asset)なんです。流れていくものではなく、蓄積されていくもの。短期ではなく長期。フローではなくストック。そこ、お間違えなきよう。

潮目は確実に変わってきている

最後に、最近、様々なメディアで取り上げられている「こっち系」の記事をアーカイブとして貼っておきます。

自己の見聞を深めたい人、上司を説得したい人、同僚と議論したい人は、気になる記事を拾い読みしてみてください。

とまあ、いろいろと個人的見解を述べましたが、現実的には、インフルエンサー1.0(インフルエンサーのリーチ力をお金で買う短期的な宣伝的取り組み)と、インフルエンサー2.0(Fanfluencer Relations)の組み合わせになると思っています。

インフルエンサー1.0も、宣伝的取り組みとして割り切れば(特にターゲットが広い食品、飲料、菓子、アイスなどで)高い短期的効果が得られます。大事なのは、組み合わせ、です。

てことで、みなさん、良いFan-fluencer Relationsを!

(続き)

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