見たい景色を、みんなで見る。やってみて初めてわかった、イベントを開催する本当の意味。
見たい景色を、見たのかもしれない。
11月3日の夕暮れ、私はこんな感情を抱き、じんわりと喜びに浸っていました。
静けさの中で感じた、「幸せ」と「もどかしさ」。
茅ヶ崎・海辺のコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」を立ち上げて約2ヶ月。コロナ禍、緊急事態宣言下でのオープンということもあり、小さく、粛々と、それでも心寄せてくださる方々とともにあたたかな時間を共有しながら、営業を続けてきました。
ただただ、訪れてくださるメンバーさんたちとの日常を大切にしながら。
当初は、オープニングイベントを思い描いていました。4月末の物件引き渡しからオープンまで、DIYや運営アドバイスなど、関わってくださった100名以上の方々をご招待して、食事を楽しんだり、Liveで盛り上がったり。賑やかに、感謝の気持ちを伝えたかった。
でもそれは叶わず、静かなオープン。
振り返ってみると、それもとても幸せな時間でした。イベント開催に翻弄されるのではなく、日常をじっくりと味わい、目の前の人を大切にするスタート。大切にしたいものを、改めて噛みしめることもできました。
でも。
私の心には、いつもどこか、引っかかるものがありました。せっかく場を立ち上げたのだから、あれもしたい、これもしたい。「でも、今は…」と、躊躇してしまうもどかしさは、拭いきれずにいました。
「イベントに登壇してくれませんか?」
そんなもどかしさの中にいた9月下旬のある日、いつもお世話になっている宮治淳一さん・ひろみさんご夫妻から、「イベントに登壇してくれませんか?」とご相談をいただきました。しかもそのイベントを、「Cの辺りで開催したい」と。
宮治さんご夫妻は、私が取材させていただいたことをきっかけに出会い、「Cの辺り」のDIY中も何度も足を運んでくださり、プレオープン期間からライブラリーオーナーにも登録してくださった方。茅ヶ崎で音楽好きが集まるMusic Library & Cafe 「BRANDIN」を経営されていて、淳一さんは、著書『MY LITTLE HOMETOWN 茅ヶ崎音楽物語』や、映画『茅ヶ崎物語』を通してこのまちに根付く音楽文化を発信し続けていらっしゃいます。
そんなステキなおふたりからの突然のお声がけに、一瞬耳を疑ってしまった私。でも淳一さんは、「あのステキな空間でイベントをやりたい」と熱く語り、ひろみさんは、「みさこさんの場作りの話を聞きたい」と、丁寧に想いを伝えてくださいました。
場を立ち上げたばかりの私に、一体何が語れるのだろう…。ただただ恐縮の思いでご依頼を受け取ったあと、思い浮かんだのは、
宮治夫妻にこそ、お話を聞きたい!
ということ。せっかくイベント主催者としてCの辺りに足を運んでくださるのなら、逆に私たちから宮治夫妻にお話を聞く時間もつくりたい。同じ日に、ひとつのイベントとして開催してみるのはどうだろう…?そんなご提案をしたところ、快く受け取ってくださったおふたり。対話を重ねるうちに、2つのトークの終わりに、茅ヶ崎在住アーティストによるライブも開催しよう!ということに。
場づくりのこと、茅ヶ崎のまちに育まれた音楽文化のこと。その両者をくくる言葉である「海」「物語」をキーワードに、イベント『Talk & Live 海の辺りの物語』企画は始まりました。
ただ「駆け抜けた」イベント当日
トークの打ち合わせ、会場の下見、ライブのリハーサル、告知…慌ただしさの中でもすべてが楽しく、心ともにする人とイベントをつくる幸せを感じる中で迎えた当日。
開始前から続々と人が集まり、会場は満員御礼。開け放った窓からは海風が流れ込み、あたたかな太陽に照らされた海の輝きを感じ取りながら。「値段の決まっていないコーヒースタンド」のコーヒーの香りに包まれた空間で、2つのトークとスペシャルLiveが、約4時間に渡って繰り広げられました。
当日はとにかく、「駆け抜けた」という感じ。主催者であり、場のオーナーであり、どちらのトークにも登壇し…。初めての経験過ぎて、緊張するのも忘れてただただ駆け抜けた。
1つ目のトークでは、私の場作りの話を。BORN FREE WORKS(由比ヶ浜)の小鳥美茂さん、BRANDIN の宮治ひろみさんという本当にステキな場づくりの先輩おふたりのお話を受けて、ド素人の私が語れる小さな小さな物語と今後の企みを、精一杯の思いを込めてお伝えさせていただきました。
2つ目トークは、茅ヶ崎の音楽文化を知り尽くす宮治淳一さんの軽快なトークに魅了されっぱなしの、あっという間の1.5時間。
文化は恣意的につくろうとしてもうまくいかない。このまちはみんな新人で受け継ぐものがないから、やりたい人がやったらいい。
宮治さん曰く「砂しか無かった」茅ヶ崎のまちで、人と人の関係性から幸せを育む文化を発信しようとしている私たちに、大いなるエールをいただいた時間でした。
そして、海が夕暮れ色に染まる頃に始まった、Special Live。倉井夏樹さんのハーモニカと倉井智佳子さんの歌声が心地よく空間に響き渡り、アンコールでは子どもたちの大合唱も!あまりの幸せに、こっそり涙をぬぐってしまったのは、内緒。お客さん、登壇者、スタッフ、そこにいるみんなのあたたかな心が共鳴しあった瞬間に立ち会い、ただただ、そのときを噛み締めました。
宮治夫妻に声をかけていただいたことで踏み出せた今回のイベント。終演後、私が言葉にできたのは、「ありがとうございます」という一言だけ。それ以上の言葉は、何ひとつ出てきませんでした。
私が見たかった景色が、確かにそこに。
翌日、イベントについて言葉にならない感情と付き合っていた私に、コワーキングメンバーさんが声をかけてくれ、前日のイベントについて、こんな感想を聞かせてくださいました。
なんか、子どもたちが安心して大人たちのそばにいて、トークのときも不思議と静かにしていられる。すごくいいな、って感動しました。
予想外の言葉に、ハッとさせられた私。
イベント開催中の私は、トークの内容や運営のことばかり頭にあり、場そのものの空気については、俯瞰視できていませんでした。企画段階でも、イベント全体として伝えたいメッセージみたいなものは、あまり明確にできていなかった。
でも、「Cの辺り」を立ち上げて、私が一番見たかったのは、たぶんそんな風景。
子どもたちが自然に大人のそばにいて、安心感の中で自分自身でいられて、子どもも大人も、お互いの存在を祝福しあえて。人と人との豊かな関係性こそが、人生を豊かに、幸せを増幅するものだと実感できる時間・空間。
このイベントでは、そんな私が「見たい景色」を、沢山の人たちと共有できた時間だったのだな、と気づかせていただきました。みんなで見た、忘れられない景色。
よろしければ、ご一緒に。
場を立ち上げて2ヶ月半。ここのところ私は、正直、「Cの辺り」におけるイベントの企画運営、情報発信に翻弄されています。一般の方向けのイベント以外にも、メンバーさん向けイベントや、お店番さんによるワンテーブルイベントのプロデュース、貸し切りの方のフォロー、そして毎週木曜夜のハッピーアワー。「Cの辺り」は、平日昼間のコワーキング営業以外にも、週に2回は何かが行われていて人が集っているような場に育ってきています。
忙しさのあまり、「私はイベント屋なのか!?これでいいのか!?」と思ってしまうことも。でも、イベントを繰り返す中で、度々出会う「見たい景色」に、集ってくれるみなさんの笑顔に、「やってよかった」と思わせていただいています。
小さなこの場で、できることは限られているかもしれません。でもこうやって小さくてもイベントを開催し続けることで、子どもと大人がともに居心地よく過ごせて、ともに育ち合うような時間・空間を体感する機会を少しでも多くの人に届けていけたら。それがまち全体の文化になっていく日を思い描いて、一歩ずつ、できることを。
さて。実は今の私、イベントで宮治淳一さんから受け取った「締切が文化をつくる」という言葉に、ドキドキしております…。そう、私にはライターとしてのお仕事もありまして!(笑)
「文化をつくる」って、楽じゃない。でもでも決して諦めず、「Cの辺り」を拠点にコツコツ育んで参りますよ。みなさまよろしければ、ご一緒に。
「Cの辺り」の扉は、いつも開いています。
貴重な時間を割いて読んでくださったこと、感謝申し上げます。みなさんの「スキ」や「サポート」、心からうれしく受け取っています。