地域から世界を変える。関係資本主義の社会実験、Cの辺り。
茅ヶ崎の海辺に作った、コワーキング&ライブラリーCの辺り
2021年9月1日、僕たち夫婦は茅ヶ崎の海辺にコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」をオープンしました。
波の音を聴きながら働く、砂浜で潮風に吹かれながら読書をする。
仕事の前にテントサウナ、夕暮れのビーチヨガ。
そんな自由で多様な過ごし方を通して人と人が出会い、一人ひとりが幸せな働き方・あり方を探求できるコワーキングと図書館を、湘南・茅ヶ崎の海辺につくりました。
ちょっと変わった名前の由来は、茅ヶ崎の海のシンボル的モニュメント「サザンC」の目の前にあるからです。
コワーキングでは、海を見ながらリモートワークをしたり、海沿いを歩きながら考えごとをしたり、焚き火をしながら打合せをしたり、そんな自由なワークスタイルで働けます。
ライブラリーは一箱本棚オーナー制図書館。
一箱ごと、ひとり一人が思い入れのある本を置き、だれでも自由に借りることができます。
Cの辺りの詳細はこちら
会社を辞めて、考えたこと。
Cの辺りをオープンする半年ほど前に、僕は会社を辞めました。
広告会社でプランナーの仕事を20年間やり続け、とても楽しく、やりがいもあり、すごく良い会社でした。プランナーの仕事は大好きで今も続けています。
ただ、会社で働きながら、ちょっとした疑問を持っていました。
「自分のやった仕事が、家族の幸せに本当につながっているのだろうか?」
僕は職場の仲間や環境にも恵まれて、何十億円もかけるような大型キャンペーンのプロジェクトや、大企業の社長に提案する仕事に携わることができました。それは、とてもやりがいのある仕事で、世の中を動かしたり、経済を回している感覚もありました。
でも、ふと立ち止まった時に、その仕事がいったい自分や家族の幸せにどう戻ってきているのか、あまり実感が持てなかったのです。
今日やった作業が、世界を回り回って誰かの役に立ったり、自分や家族の何かにつながっていると、頭では理解しようとしても、手触りがない。
そんな違和感を持ちながら、退職して妻と二人で新しい会社をつくりました。妻はライターで、主にソーシャルデザインに関する記事をWEBや書籍で執筆しています。地域における様々な活動や、保育園や学校など子どもが育つ環境づくりの取材していて、僕も常に刺激をもらっていました。
そんな妻と会社のコンセプトを考えている時に、これまでと全く逆にしようと決めました。
「家族の幸せが一番、地域の幸せが二番、日本と世界の幸せが三番。」
株式会社としてはありえない社是ですね笑。
※詳しくは株式会社beのホームページ
これまでの考え方はこうです。
世界の幸せが地域の幸せにつながり、地域の幸せが家族の幸せにつながる。
だから世の中に出来るだけインパクトのある大きな仕事をすることが意義のあることなんだと。僕もそうでしたが、このようなトップダウン型の考え方が一般的だと思います。
しかし、企業でバリバリ働く人が、実は地域に居場所がない。
社会課題の解決に奮闘しているNPOの人が、実は家庭が壊れかけている。
そんな事例を、僕はたくさん見聞きします。外側の世界に目を向けるあまり、内側が空洞化する。このことをgreenzの鈴木菜央さんは「幸せのドーナツ化減少」と表現されていましたが、まさにその通りだと思います。
だから僕らは、内側から広がっていく、身近な所から登っていく、全く逆のボトムアップ型の考え方の方が、実は幸せに直接的なんじゃないかと思ったのです。
この気付きは、会社員時代に育休を取って家族で日本一周の旅をしていた時に得たものです。
家族4人でキャンピングカーで日本中の様々な人の暮らしを巡りました。多様な生き方や暮らしに触れる度に、いかに自分が狭い価値観の中にいたのかを痛感しました。その旅の中で、自給自足で暮らすチャレンジをしている北海道の三栗祐己さん家族を訪ねた時のことです。
その家族は、家も自分で作り、電気を引いて、野菜を作って、家族4人で「リアル北の国から」のような暮らしを実践していました。
ちなみに、三栗さんは東京電力に務めていて、震災の原発事故があったことをきっかに退職し、180度逆の暮らしを始めたそうです。
彼らは本当に幸せそうに、楽しそうに暮らしていました。
そこの子どもが僕に目を輝かせながら、嬉しそうに言ったのです。
「ねぇねぇ、昨日ね、トイレに電気が付いたんだよ!!」
僕は衝撃を受けました。
今の日本で、トイレに電気が付いたことで、こんなにも喜べる子どもがいるだろうか?
彼らは、暮らしを作ること、それ自体を家族みんなで行い、それ自体が仕事だったのです。
つまり、「暮らし」と「仕事」が完全に一致していたのです。
※日本一周の旅、育休キャラバンの詳細はこちら
そうか、そういうことだったのか!
昔は、暮らしを作ることが仕事そのものだったはずです。
自分たちの暮らしをよくすることが仕事で、それが家族の喜びにダイレクトにつながっていて、その集落の幸せにつながっていったのだと思います。
それがいつの間にか、仕事が細分化されて、全体の中の一部だけに特化したり、遠く離れた顔も知らない誰かのための商品をつくるようになった。
もちろん、そっちの方が多くのモノが作れるし、効率的だし、それで人類が発展したんだと思います。
ただ、その代わりに、仕事と暮らしが切り離された。
だから僕らの会社は、「遠く」の世界を変える仕事ではなく、「近く」から広がっていく仕事をしたい。
「家族の幸せが一番、地域の幸せが二番、日本と世界の幸せが三番。」
家族の幸せが一番で、その幸せが地域の幸せにつながって、日本や世界を変えて行けたとしたら。
こんなに素晴らしい働き方・生き方はないのではないか、と考えました。
そんなスタンスで、子どもも含めて家族みんなで作ったのが、「Cの辺り」なのです。
なぜ、Cの辺りをつくったのか?関係資本主義という考え方。
それでは、「Cの辺り」をつくった理由、そこに込めた思想。
少し長いですが、ご紹介させてください。
突然ですが、仮に、世界が2つあるとします。
成長が目的の世界、グロースワールド。
幸せが目的の世界、グッドワールド。
グロースワールドを回すエンジンは、「金融資本主義」です。
では、グッドワールドを回すエンジンは、なんでしょうか?
そのヒントは、ハーバード大学の研究にありました。
人の一生涯を記録し続けるという壮大な研究。
スラムの貧困家庭から、ハーバードの学生まで、合計700人以上、記録し続けること70年間。この研究は、幸せが何と関係しているのかについて、ひとつの答えを出しました。
その答えは、お金ではなく、権力でもなく、仕事の内容でもなく、、、
幸せと最も関係しているのは、「良き人間関係」だったのです。
※僕が感銘を受けたTEDでのプレゼンがあるので、詳しくはこちらを。
今、幸福に関する多くの研究が同じような結論を導いています。
なので、
グッドワールドを回すエンジンを、「関係資本主義」と名付けました。
「関係性」を「資本」と捉えた時に、お金だけに頼らない良きパワーを持つ、幸せな世界がイメージできるのではないか?
金融資本主義は、「急拡大するのに効率的」なのに対し、
関係資本主義は、「幸せに向かって直接的」です。
「金持ちが影響力を持つ」のに対して、
「信頼が影響力を持つ」世界。
「金銭的報酬が働く意義」なのに対して、
「精神的報酬が働く意義」。
「企業主導」の世界に対して、「共同体主導」の世界。
「競争原理」の力学に対して、「相互扶助」が力学。
行き着くところが「グローバル&ビッグ」に対して、
「ローカル&スモール」の多様性を育むことがゴール。
「暮らしがサービス化し外部化」していく世界に対して、
「暮らしが自立化し内部化」していく世界。
どちらの世界が正しい、という訳ではありません。
どちらの世界も良い面があり、問題も抱えています。
金融資本主義は、「成長と幸福が一致しない問題」を抱えています。
地球環境を破壊し、格差を助長し、コミュニティを分断することもある。
関係資本主義は、「現システム下で成立しない問題」を抱えています。
人間の欲望が本当に利他に向かうのか?
とは言え、生きていくのにお金が必要ではないか?
さまざまな疑問が湧いてきます。
そして今、金融資本主義のより戻しが起きています。
ESG投資、SDGS経営など、パワーを持ちすぎた企業が良き世界に向けて
働きかけるムーブメントが出てきていることは素晴らしいことです。
一方で、関係資本主義的世界は、ともすれば慈善活動や小さなプロジェクトに留まって、メインストリームになるムーブメントにはなりづらい。
もっと、大きなうねりになるような仕組みが必要なのかもしれません。
なので、2つの世界の交点を目指す動きが、関係資本主義側の世界から出て来るべきではないかと考えました。
金融資本主義の仕組みは、山ほどあります。
人類の叡智とクリエイティビティが金融資本主義の仕組みに投下され続けて来たので、そちら側のシステムが肥大化しすぎているのが現状なのかもしれません。
もしかすると、
関係資本主義の仕組みが、まだ無いだけかもしれない。
こちら側の世界にもっと知恵やクリエイティビティが投下されると、全く違う力学で動く仕組みを作れるのではないか。
現システムの中でも成立するかもしれない、関係資本主義の仕組みを社会実験してみよう。
僕らはそんなテーマを持っています。
では、「関係」が「資本」になる仕組み。
それってどんな仕組みでしょうか?
その「関係」とは「人脈」と呼ばれるような利用し合う関係のことではありません。関係資本主義とは、お互いを支援し合い、活かし合う人間関係を育む仕組みです。
ちょっとイメージしやすいように事例を出します。
例えば、「グラミン銀行」
ノーベル平和賞を受賞したこの銀行は、貧困層への貸付によって多くの人の自立を支援してきました。この銀行がうまく機能したのは、グループ貸付という仕組みがあったからと言われています。
貧しい人から担保を取る代わりに、5人組のグループを作って誰か一人でも返済できなければ、他の4人は今後一切借りられなくなるという制度です。
この制度によってグループ内で起きたこと、それは助け合いでした。農業ノウハウの共有、資材の共有、困った時の扶助など、グループみんなで幸せになるための助け合いの力学が働き、返済率が飛躍的に向上したと言われています。
関係資本主義の「貸付」が「グラミン銀行」なのだとしたら、
関係資本主義の「お金」は「地域通貨」と言えるかもしれません。
相互扶助のやりとりを可視化することで、地域の関係資本を豊かにするための通貨です。
ではもし、
関係資本主義の「保険」があったとしたら。
例えば、5人組保険。
5人の中で誰かが困った状況になった時には助け合うという誓いを立てる。
そうすれば、お互いの近況を知らせ合うでしょうし、少しでも何かあったら助け合うようになるかもしれない。毎月高い保険料を払う必要もありません。
もし、関係資本主義の「住居」があったとしたら。
それは長屋のようなものかもしれません。
子どもから老人まで一緒に生活する共同体が、そこに住む子どもたちを我が子のように育てるようになるかもしれない。
この世界のあらゆるシステムを関係資本主義で捉え直すことが出来たら、幸せに向かうための新しい仕組みを作れるのではないか?
Cの辺りは、
この「関係資本主義の仕組み生み出すための社会実験をする」ことをひとつのテーマにしています。
その拠点として、まずは場づくりを行っています。
関係資本を育む働き方を探求するコワーキング。
関係資本を育む図書館としてオーナー制図書館。
では、具体的にどんな社会実験をしているのか?
関係資本主義の仕組みを作るためには、経済合理性という枠の外からアプローチしなければならないと考えています。
Cの辺りで実験している、その仮説と経過をいくつかご紹介します。
① 価値の逆転
1つ目の仮説は、
「関わり方をデザインすると価値が逆転する」
「トムソーヤのペンキ塗り」という僕の好きなエピソードがあります。
<作業と楽しみの表裏一体性>
作業と楽しみは表裏一体です。走ることを作業と捉えるのか、ジョギングと捉えるのか。RPGのレベル上げを作業と捉えるのか、ゲームと捉えるのか。仕事を作業と捉えるのか、喜びと捉えるのか。僕らが普段やっている「作業」は、すべて仕立て方によって「楽しみ」に変換できるのかもしれません。
例えば、千葉のローカル線いすみ鉄道は、
年収700万円で運転手を募集したけれど全く集まらなかった。
そこで、「700万円払ったら運転手に育成します」
と募集したところ、全国の鉄道好きが殺到しました。
価値の逆転により、お金に頼らなくても積極的な関わりが生まれるのです。
この仮説に対するCの辺りの実験を紹介します。
まずは「お店番制度」
僕らは子どもが小さいため、Cの辺りは平日9:00-17:00という短い営業時間でやっています。でも、それを拡張するためにスタッフを雇うと赤字にあるかもしれない。
そこで、会員さんにお店番をできる権利を提供しました。土日や営業時間外も施設を利用できる、その代わりにお店番をしてくださいという制度で、それを「会員の特権」として提供したのです。
すると、何人かの会員さんがお店番をしてくれはじめました。
お店番って、お客さんに出会えたり、お話しできたり、本来楽しいものなのかもしれません。今では、土日の半分くらいを、お店番制度で営業してもらっています。
「DIYワークショップ」
Cの辺りはほぼ全てをDIYで作りましたが、65㎡の店内をすべて自分でDIYするのは大変です。でも、業者に頼むとかなりの費用がかかります。
そこで、「床張りワークショップ」「本棚づくりワークショップ」と銘打って、ワークショップ形式で施工しました。
すると、多くの方がワークショップに参加してくれて、とても素敵な空間を作り上げることが出来ました。
考えてみれば、床張りや本棚づくりなんて、みんなやったことが無いので、それに参加できること自体がひとつの楽しい体験になったのかもしれません。総勢50名以上が参加してくれ、とても助かりました。
「一箱本棚オーナー制図書館」
一箱本棚オーナー制図書館とは、箱ごとにオーナーの違う図書館です。自分の本を貸したい方が一箱借りて本棚のオーナーになれる仕組みです。本棚はオーナーから一箱2000円/月をいただいて、借りる方は無料で本を借りることができます。
普通に考えると自分の本を提供して、さらにお金まで払って本棚を借りるなんておかしな話しです。
でも、自分の本棚を持てる権利として、多くのお客さんに楽しんでもらっています。
現在50名以上が本棚を持ってくれています。
自分が感銘を受けた本を誰かに読んでもらいたい、本を通じて誰かとつながりたい、自分の考えを表現したい。それぞれの楽しみ方があるようです。
本って価値観が表れるもので、同じが本が好きなだけでその人にも共感しますよね。ライブラリーオーナーと借りた人が、本を通じてつながっていけばと願っております。
実は、これは焼津にある「みんなの図書館 さんかく」を立ち上げた土肥さんが考えた仕組みです。
ほんとに天才的なシステムだと思います。土肥さんありがとうございます。
② お金を介さない価値交換
2つ目の仮説は、
「お金を介さない価値交換は、関係性を育む」
お金はとても便利なものです。
お金を払うだけで欲しいモノを手にすることが出来ます。売り手と買い手の間にある価値のやりとりを、イーブンに精算するための手っ取り早い手段がお金です。
しかし、お金で支払うことは関係性まで精算してしまう側面があります。
もし、お金を介さない価値交換が出来たら、関係性が長く育まれるものになるのではないかと考えます。
この仮説に対するCの辺りの実験を紹介します。
Cの辺りのDIY設計を、プロの建築家にお願いしました。この建築家はCの辺りの思想に共感してくださり、設計料をお金で支払うのではなく、物々交換していただくことに賛同してくれました。コワーキングの永久会員権と交換することで、今でも時々この場に来店してくれています。
店舗写真を茅ヶ崎在住のプロカメラマンに撮ってもらいました。この方には、ライブラリーオーナー権と物々交換してもらいました。
今でも、本棚のメンテナンスがてら、よく遊びに来てくれています。
Cの辺りのロゴやパンフレットを同僚のアートディレクターにデザインしてもらいました。
コワーキング権をお渡しすることで、東京から時々仕事に来てれています。
この場所を気に入ってくれて、なんとトイレ掃除を申し出てくれたお客さまが現れました。毎週30分かけて歩いてきて、トイレ掃除をやってくれている精進料理の先生です。
この方にはライブラリーオーナーをご提供しました。料理にまつわる本を置いてくれています。
このように、お金を介さない価値交換は、関係性を育み、長い付き合いが生まれます。もしお金を払っていたら、切りよく関係性が精算されていたかもしれません。
③ 関わりしろのデザイン
3つ目の仮説は、
「関わりしろをつくることで、オーナーシップが育まれる」
一般的には、商品やサービスを完全なカタチにしてお客さまに提供することで、喜んでもらえるという考え方だと思います。
でも実は、それでは消費者と提供者の関係を超えることはできません。
ともすると、お客様はどんどんわがままになって、もっと良いモノをもっと安くという消費者的人格になっていきます。
オーナーシップというのは、もっと自分のモノのように感じてもらい、自分でそれを育てていきたい感覚です。
そのためには、関わるための余白がなければいけません。その参加の余白のことを「関わりしろ」と言いますが、この「関わりしろ」が適切にデザインされていると、みんなが参加したくなるモノになります。
参加のハードルが高すぎても低すぎてもダメで、適切にデザインされていることが重要だと思います。
いくつか事例を紹介します。
再生可能エネルギーのイルミネーションをみんなでつくる。ひかりの水族館
あるライブラリーオーナーの方から、再生可能エネルギーでイルミネーションを作りたいと言う相談を頂きました。はじめはどんなイルミネーションを作れば美しいか、という発想で話していました。
でもちょっと待てよ、と。
イルミネーションというのは、普通は誰かが作ったモノを観るだけです。作る人と観る人が完全に分かれています。観るだけの人は、どんどんもっとキレイなイルミネーションを観たいと思い、クオリティを求めてしまいます。
そうではなくて、みんなでイルミネーションを作ったとしたら、全く違う体験になるのではないか。
そこで生まれたのが、「ひかりの水族館」です。
みんなでワイヤークラフトで海の生き物を作り、太陽光電池のLEDを巻きつける。それを、サザンビーチに一緒に飾りました。
参加しやすいように、海の生き物の型をダンボールで作っておいたので、子どもでも非常に上手くワイヤークラフトができました。実際に出来た40個のイルミネーションの半分以上は、こどもが作ったモノでした。
参加費は2000円。自分でお金を払ってみんなで作ったイルミネーションは、ただ観賞するモノではなく、もはや自分のモノのように感じられたと思います。参加者というよりも「ひかりの水族館」のオーナーのような感覚です。作ったイルミネーションは持ち帰ってクリスマスまで自宅で大切に飾ってくれていました。
オーナー制テントサウナ 茅ヶ崎C-sauna
あるコワーキングメンバーの方から、ビーチサウナのサービスを始めたいと言う相談を頂きました。ビーチにテントサウナを張って、水風呂代わりに海に飛び込む。めちゃくちゃおもしろう!と思って、話が盛り上がりました。
はじめはどんなサービスにしようかと話していたのですが、
テントサウナを張るのにも労力がかかり、お客さんの受付など考えると趣味的にやるには非常に手間がかかると思いました。
そこで生まれたのが、「オーナー制テントサウナ」です。
テントサウナを持つ権利をシェアするシステム。
オーナーになった方は、月4回まで好きな時に自分でテントを貼り、仲間とビーチサウナを楽しむことができる。テントサウナや道具を一式揃えると、数十万円もかかるのですが、このシステムだと3万円でオーナーになれます。
オーナー制にすることで何が起きたでしょうか?
自分のモノだから、とても大切に道具を扱うようになった。
サウナ好きのオーナー同士がつながって、サウナコミュニティが出来上がった。
オーナーの友達がサウナに来ることによって、サウナ仲間が広がった。
これは、消費者的関わりとオーナーシップの違いなのだと思います。
オーナーは現在15名で、とても活発なコミュニティになっています。
拾ったゴミでモザイクアート 「プラスチックC」
ある会員さんからマイクロプラスチック問題に関する映画をCの辺りで上映したいと相談を頂きました。その映画を観ると深刻な内容だったので、観るだけでは少し暗い気持ちになると思いました。そこで、何かアクションまでつながるような企画にならないかと考えて生まれたのが、「プラスチックC」です。
茅ヶ崎のシンボル的モニュメントのサザンCを、みんなで拾ったマイクロプラスチックでモザイクアートするという企画です。
でも、アートってなんだかハードルが高いですよね。
なので、モニュメントに刻まれた「SOUTHERN BEACH CHIGASAKI」という文字を型どっておいて、そこにグルーガンでプラスチックを貼り付けてもらうことにしました。
プラスチックを貼り付けるだけなら誰でも出来るんですよね。実際、8割くらいは子どもが作ってくれて、むしろ子どもの方が意外な色の組み合わせやおもしろいモノを作ってくれました。
総勢100人くらいが参加してくれて、とても素晴らしいモニュメントに生まれ変わりました。参加した子どもは、「あの文字わたしが作ったんだよ!」と、誇らしげに言ってくれました。
このように、関わりしろをデザインすることでオーナーシップが生まれます。オーナーシップというのは、サービスの提供者とお客様の壁を良い意味で壊すための重要なキーワードだと思います。
そして、「こども選挙」へ
このような考え方や実験を総動員して出来たのが、「ちがさきこども選挙」でした。
はじまりは、
子どもの主体性について友人夫婦と会話していた時のこと。
「もし、こどもが投票したら、どんな政治家が選ばれるのだろう?」
という素朴な疑問から生まれた主権者教育のプロジェクトです。
2022年10月30日の茅ヶ崎市長選挙と同時開催で、子どもたちが実際の候補者に投票するこども選挙。
コンセプトは、「こどもが聞いて、こどもが選んで、こどもが届ける。」
15名の「こども選挙委員」を募集し、計4回にわたるワークショップを実施し候補者への質問をまとめ、回答動画をWEBサイトにアップしました。選挙当日は11ヶ所に投票所を設けて、ネット投票も実施しました。
合計566人の子どもたちが投票してくれて、359人が候補者へのメッセージを真剣に書いてくれました。
詳しくは、こども選挙マガジンをご覧ください。
メディアもこのプロジェクトに社会的意義を感じてくれて、1ヶ月にわたる密着取材をして頂きました。
NHKでのドキュメンタリー、読売新聞、朝日新聞をはじめとした大手メディアで、全国に報道されました。
このプロジェクトは、すべてボランティアによって成り立っていました。
有志10人の実行委員を結成し、ワークショップの企画・運営、WEBサイトやネット投票システムの制作、市内11ヶ所の投票所を開拓など、4ヶ月にわたる準備をしてくれました。
こども選挙委員の保護者の方を中心に5000枚のチラシやポスターを、街中の至る所に配ってくれました。
そして当日は、合計58人のボランティアが投票所を運営してくれました。
実際にかかったと想定される費用は、少なく見積もっても制作類で500万円、総人件費を含めると700万円を超えると試算しています。
予算ゼロなのに、なぜこのような活動が出来たのでしょうか?
でも、もし逆に700万円の予算さえあったら出来たのかと言うと、答えはNOだと思います。金融資本主義的に考えると、お金で人を雇って投票所運営してもらったり、サイトやシステムを作ることは、実務上は出来るかもしれません。
でもお金で雇ったとしても、たぶん出来なかったと思っています。
デザインしてくれたメンバーが、クライアントワークそっちのけで短期間で高品質のWEBサイトや投票システムを作ることは出来なかったでしょう。
初めてやる投票所運営を、誰かの指示を待つことなく現場で工夫しながら自分でやりきることは出来なかったでしょう。
チラシやポスターを、断られても挫けずに、あんなに多くの数を配ることは出来なかったでしょう。
お金があったとしても、トップダウンの権力があったとしても、出来なかったと思います。
なぜなら、
僕らが用意したものに、彼らが参加していたのではないからです。
彼らは、単なる参加者ではなく、こども選挙を成功させる仲間として関わってくれていたのです。
その仲間の輪がどんどん広がって行って、関わってくれたすべての人が自分のことのように思ってくれたから、出来たのだと思います。
一人の親としての会話からはじまり、
10人の有志で実行委員が結成され、
15名のこども選挙委員が仲間になり、
その親たちが想いを共有する同士になり、
58名のボランティアに広がり、
566人の投票参加につながった。
やらされるのか、やりたいのか。
他人ごとか、自分ごとか。
雇われたからやるのか、オーナーシップを持ってやるのか。
TAKEのためか、GIVEのためか。
この違いは、一見すると外から見えにくいですが、決定的に違うと思います。
そしてこの主体的な関わりは、街に新しい関係性をもたらしたと思います。
子どもが学び、親も学び、関わった人も学び、僕ら自身も学びました。
一人の子どもが最後に言ってくれた言葉が、今でも忘れられません。
この「こども選挙」は、全国に広がっていくことを願って取り組んで来ました。なので、ここで得たアセットやノウハウは出来る限り公開して行こうと思っています。
こども選挙のロゴは各自治体ごとに活用しやすいデザインにしてもらっており、ネット投票のシステムも大きな資産です。ワークショップの内容や実施のノウハウを記事化・書籍化することも予定しています。もし、自分の地域でも開催したいという方がいれば、こども選挙のホームページからお問い合わせ頂ければと思います。
※追記2023年9月
「こども選挙」は、第17回キッズデザイン賞で、最優秀賞・内閣総理大臣賞を受賞しました。詳しくはこちら
地域の小さな実験が、何かを変える。
「家族の幸せが地域の幸せに、地域の幸せが世界の幸せに。」
ここでご紹介した全ての活動は、家族みんなで取り組んでいます。
妻はもちろん、子どもも一緒に。
Cの辺りの図書館では娘も本棚オーナーになっていて、ひかりの水族館も一緒に作り、こども選挙ではスタッフになって、家族みんなで楽しみながら営んでいます。
そのことで、地域の子どもから大人まで多様な関わりが生まれています。
そして、そこには確かな手触りを感じています。
関係資本を育むことは、自分にとっても相手にとっても幸せにつながり、大きなパワーにもなる。
そんなことが自然に起きる仕組みを作っていけたらと思っています。
関係資本を育むコワーキング
関係資本を育む図書館
関係資本を育むイルミネーション
関係資本を育むサウナ
関係資本を育む選挙
ここで起きていることは、
ローカルの小さな出来事かもしれません。
でも、その仕組みが再現性を持つものであれば、
もしかしたら大きく広がっていく可能性もあります。
地域から世界を変える。
そんな大それたことを、、、と思うかもしれません。
でも僕は直感的に、次の社会システムは地域の小さな実験から生まれるのではないかと感じています。
・・・とは言え、
「関係資本主義の社会実験」は、まだまだ始まったばかりで、まだまだ課題だらけです。
本当に持続可能な仕組みになっているのか?
本当に再現性を持っているのか?
ボランタリズムに依存しているだけではないのか?
まだまだ考えることはあるし、出来ていないことだらけです。
だから、これからも少しづつ、
家族 → 地域 → 世界の順番で
いろいろやってみたいと思っています。
もし、「Cの辺り」に少しでも興味を持ってもらえたら、ぜひ遊びに来ていただければと思います。
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