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鯨構文は肯定形で考えなくてはならなかった!

1.最初に結論

鯨構文は「鯨が魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ」「鯨は、馬同様に魚ではない」と日本中で訳されていますが…
正しいのは「鯨が魚というのは、馬が魚というのと同じだ」、口語調なら「鯨が魚だなんて言ってたら、馬も魚だということになるぜ」が正しいです。
日本中が間違えています。
先に結論を書きました。
以下、証明していきますね。

2.鯨構文って何?

no more〜than…、not 〜any more than…という英語の構文。
A whale is no more a fish than a horse is.という鯨を使った例文が有名なので「鯨構文」と呼ばれています。
駿台予備学校の鈴木長十氏が「鯨の構文」と名付けたらしいです。
"A whale is no more a fish than a horse is."は長年「鯨が魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ」「馬が魚でないように、鯨も魚でない」と訳されています。

この構文に対して高2の池田少年は、
・moreなのになぜ「同じ」になるのか
・thanの後ろが肯定文なのに、なぜ「馬が魚でないように」のように否定文で訳すのか
これがわからず発狂寸前になりました。
池田少年以外にも理解できないまま丸暗記に走る受験生が非常に多い、受験生を長年苦しめてきた構文です。

a.何と何を比較しているか考えてみよう?

比較では何と何を比べているのか知ることが重要です。

英語では同種のものを比べます。

The population of China is much larger /than that of Japan.「中国の人口はるかに多い/日本のそれ(=人口)より」のようなものです。

「 中国の人口」と「日本のそれ(=人口)」を比べます。

口語では〜than Japan.も可能のようですが、規範文法で考えます。
thanの後ろを見れば、何と何を比べているのかすぐにわかります。
that of Japan(日本のそれ[人口])とあるのですから、中国の人口と比べているとわかります。

さて鯨構文です。
thanの後ろは肯定文です。

ですから「thanの後ろの肯定文」と「thanの前の肯定文」を比べています。(比べられる二者は必ず同種ですので)
"A whale is no more a fish than a horse is."では"A whale is a fish"「鯨は魚である」と"a horse is( a fish)"「馬が魚である」を比較しています。

b.no moreって何?

比較級の直前の数量は差を表します。
例えば He's three years older than I. でしたら three years(3年) は差を表します。
「3歳」年上と言う事ですね。

noは「ゼロ(人の、匹の、台の、個の、歳の…)」です。
He is no older than I.なら「 彼は、私よりも歳をとっている差がゼロ歳だ」→「 彼は私と同い年だ」となります。

Iが 18歳ならHeも18歳、Iが50歳ならHeも50歳、Iが90歳ならHeも90歳となります。
一部の参考書に、このような表現の場合olderをnoで否定しているから若いという意味なのだという記載を見たことがあります。
そんな事はないです。
年齢差がないとしか言っていません。

no moreはどうでしょうか。
moreはmuchの比較級。
「より多い」「より多く」ですね。
「多い」というのは優っているという意味も表し、no moreは「(何かと比べて)優っている差がない」→「(何かと比べて)どんぐりの背比べで同じようなもの、大したことがないという意味で同じ」となります。

c. thanって何?

thanは「〜と比べて」というニュアンスです。
He is taller /than I.「彼はより背が高い/私より」なら「彼はより背が高い/私と比べて」ともいえますね。

d. パーツの全ての意味は取れた。では全体の意味・訳は?

・A whale is a fish「鯨は魚だ」
no more「(何かと比べて)どんぐりの背比べだ」「(何かとくらべて大したことがないという意味で)差がない、同じだ
than「〜と比べて」
・a horse is a fish「馬が魚だ」

全部まとめると
「鯨が魚だ」というのは、「どんぐりの背比べだ」「馬が魚である」「と比べて」
→「鯨が魚だというのは馬が魚だというのとどんぐりの背比べだ」「鯨が魚だというのは馬が魚だというのと大したことがないという意味で同じだ」
→「鯨が魚だなんてのは、馬が魚だというのと同じことですよ」

3. 鯨構文を否定で訳すというのはどのようなことか

日本語でも、相手が言っていることが、とんでもないこととイコールだ、と言って肯定形で否定の意味を強めることがあります。

「金貸してくれ〜」と無心をしてくる金遣いが荒いギャンブル好きに、「君にお金を貸すのはドブに捨てるのと同じだ」などというのが好例です。
「ない」のような否定表現はありません。
でも「絶対にお前に金は貸さない」という強い否定の意味合いを感じます。
(まぁたまには「たまにドブに捨ててみるか」なんて貸してくれることもあるかもしれませんが。)

これを「君にお金を貸さないのは、ドブに捨てないのと同じだ」としたら…
意味は分かりますが、奇妙な、違和感のある日本語です。
それが鯨構文を否定で訳した時の違和感です。(=意味は分かるが奇妙な、違和感のある日本語)

鯨構文を否定で訳すというのは、「意味は分かるが、奇妙な違和感のある日本語で訳している」ということです。

4. 鯨構文はいつ日本で紹介された?

鯨構文を初めて日本で紹介した斉藤秀三郎先生も鯨構文を「鯨は牛馬も同然魚ではない」(1915年初版「熟語本位英和中辞典」P848)と訳されています。(この時代は"a horse"が「牛馬」だったようです)

「牛馬」とどのように「同然」なのでしょうか。
「牛馬が魚でないのと同然に」「馬も魚ではない」です。(比較される二者は同種です)
「牛馬同然」というのは「ない」という言葉を隠しただけでthanの後ろを否定文にして訳されています。
ここから鯨構文の誤解が生じたと思われます。

ただ同じ辞書内の一つ前に”He can no more swim than I can fly.”という表現もありこの訳はお見事。
「彼が泳いだなら僕は飛んで見せる」
見事に肯定形で訳されていて、主張も捉えています。

ここで「彼が泳げないのは、僕が飛べないのと同じだ」は意味は伝えていますが、不自然な日本語です。
そもそもどんなシチュエーションでこんな日本語を使うのでしょうか。

こんな感じで「鯨が魚なら、馬も魚だぜ」くらいに訳してくれていれば納得が出来て、私のような後世の人間はずいぶん楽ができたのですが。

大学受験の時に大いに苦しんで結局丸暗記をした元受験生として、少々恨み言。

5. 鯨構文発展編

鯨構文では、thanの後ろの内容が「馬が魚だ」のような絶対にあり得ない事(=あり得る確率が0%の事)という訳ではありません。
以下、10%、100%の例を提示しておきます。

a. 10%程度あり得る場合:

Syrian refugees are no more dangerous than tourists.「シリア難民の危険度は観光客と同程度だ」「シリアの難民が危険だなんて言うなら、観光客だって危険だということになる」

オバマが大統領時代の言葉です。
シリア難民を合衆国に受け入れるときに、危険だと非難されての言葉です。
シリア難民は危険だというが(100%くらいのニュアンス)、観光客程度の危険度(※10%程度か?)だよ、と%の変更を要求しているニュアンスの文章です。

上の文を否定文で訳すと「シリアの難民が危険でないというのは、観光客が危険でないのと同じだ」となります。
「観光客」…全く危険でないのでしょうか?
六本木でイタリア人観光客に日本女性が殴られたとか、911のテロの実行犯19人のうち14人は観光ビザで入国しています。(https://spectator.org/64719_obama-says-syrian-refugees-no-more-dangerous-tourists-14-19-911-hijackers-had-tourist/
結構危険です(911を考えるとかなり?)。

「観光客が危険でない」なんて事は絶対にありません。
日本人も海外観光していたら、ハメを外して危険なことをしかねません。
否定で訳す癖がついていると間違った解釈する可能性が出てくるわけです。
肯定文で必ず訳しましょう。
肯定文で訳している限り意味を取り違える事はありません。
(※100人観光客がいて、10人程度は危険なことがあるかな…と思い10%としました。)

b.  thanの後が100%あり得る場合


This view is no more beautiful than you are.

お付き合いをしている女性が「この風景美しいわ(This view is beautiful.)」 と何度も何度も何度も何度も………言ってるとします。
すると、ボーイフレンドがだんだんイライラしてきます。
「この風景が美しい」というのは、「君が美しい」(=you are beautiful.)と比べて(=than)、優っている差がない(=no more)という気持ちが高まってきます。

そこで ボーイフレンドは次のように言います。
This view is no more beautiful than you are.「この風景は美しいが、君が美しいのと比べて優っている差がゼロだ」→「 この風景も美しいが、君も美しいよ」

鯨構文ではこのようにthanの後ろが「馬が魚だ」のような0%のことだけではありません。
0〜100%全てあり得ます。

しかし否定文で訳していては永遠に理解することは出来ません。
必ず肯定文で訳しましょう。

6. 鯨構文のポイント(まとめ):


・肯定文と肯定文を比較している
・その2つに差がない、と考える
・相手がず〜〜っと言っている肯定文が、何か(=肯定文)と同じだ、と言って相手に考えさせる構文
・thanの後ろが0%のことなら、相手の言っていることがあり得ない間違っているという嫌味
・thanの後ろが0%より大きく100%未満のことなら、相手の言っていることの%が違うと修正を求めている(オバマのシリア難民)
・thanの後ろが100%のことなら、相手の言っていること以外にも同様に100%のことがあると相手に思い出させている(この風景美しいわ)
・文脈に合わせて必ず肯定文で訳す
・否定文では絶対に訳してはならない(覚醒剤並に「ダメ!絶対!!」)

7. ChatGPTに鯨構文を聞いてみた

以下にChatGPTとのやりとりも載せておきます。
肯定で訳すことに同意してくれましたよ。(和訳は後で)

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