知識は一瞬、マインドは一生。
続き。
内定者研修は『一年間、チームでスマホアプリをつくり、一番稼げたチームが優勝。』
内定者がチームに分けられ、社員がメンターについた。週に一回進捗報告会議。文系半分、理系(情報)系半分といった内定者の割合でチームも作られた。文系で開発およびIT技術もまったくわからない私は、会議でメンバーやメンターから発せられる聞いたことのない言葉を聞き取れた音だけで全部メモして後でググった。
私たちのチームはチームで一つのアプリを作るのではなく、各々つくりたいアプリをつくることになった。話し合いでまとまらなかったし、それぞれ大学もバイトも掛けられる時間もそもそもの知識も全然違ったので各々で、ということになった。お互い調べたことは共有し、わからないところは助けてもらった。
一年間という制約。勝つにはたくさんの人にダウンロードしてもらって、アンインストールされないよう継続して使ってもらえるようなアプリをできるだけ早くリリースして、広告収入(有料版アプリはリリースできても課金されなければ0なので)を得ること。もちろん研修なので色んな技術を勉強したい…というのは情報系の人の意見。私は基礎の部分でパンク状態だったので、とにかく自分でできそうなレベルに絞り込んだ。
一つ目のアイディアは、『はげまし亀助』。
亀のキャラクター(亀助)が励ましてくれるアプリ。
ボタンをタップするといろんな姿と言葉が出てくる。これは、内定者研修が始まったころはまだまだ就活中で内定が出ず、悩み落ち込むある友達を励ましたかったからだ。就活サイトをスマホで見る合間に励ましてくれる存在も常にそこに居たら。着想はそれだけ。亀は、なんとなく。水、緑、ゆっくり、ってだけで癒しじゃない?
そして問題の技術部分は…ボタンをタップ、画像を切り替える…だけ!(一応スタートと終わりの画面もつくったけど、これもやっぱり背景画像を切り替えるだけ!)ググったらコードが出てきた。できる!
二つ目は、『Unblock ベビーカー』。
道を塞ぐ形の違うブロックを動かして王様を外に出すゲームのベビーカー版。満員電車の中、ベビーカーを押した人たちは電車に乗ることもできず目の前でドアが閉まり仕方なく見送っていた。満員でなくても、電車内での肩身が狭く降りるにも「すみません、降ります、すみません」。同乗している人たちに悪気はないが、イヤホンをしてスマホに集中して気が付かないことも多々ある。(私もその一人。通常じゃありえない距離に人がいるのでそうでもしないとやってられない。)でも、何の気無しにゲームをしていてその状況に気がつくには?暇つぶしにするパズルが、満員電車からベビーカーをスムーズに動かしていくゲームだったら?ふと顔を上げて少し周りを見回すかもしれない。
…チームでつくるならアリだったかもしれないけど、裏側のつくり(実装)が見当がつかなかったのでなし。流石にゲームのコードがごろっとネットに転がってるなんてことは無かった。
三つ目!『ポイ捨てバッティング』。
これは日頃脳内でやっていたことをそのままゲームにした。どんなアプリかというと、掃除をしていると目の前の人が空き缶やらタバコの吸い殻をポイ捨てしていく。そうはさせじと持っている箒で地面に落ちる前に打ち返すゲーム。要するに飛んでくるものをタイミングよくタップするバッティングゲームなのだけど、それ以上に気持ちが入るゲームだ。実装はこれも初心者向けのコードでネットに転がっていた。いくつか組み合わせたら、いける。
そんなわけで一つ目と三つ目のアプリを実際に作ってリリースした。実装部分はネットに転がっているものを組み合わせたらいけそうと思ったがかなりメンバーとメンターに助けてもらった。プロトタイプをつくって素材をつくっていく。素材とは実際に表示する画像やBGM、効果音などだ。商用利用可能なフリー素材もあったが、はげまし亀助は紙粘土でキャラクターや背景をつくり、文字は手書きした。それらを全てスマホで撮影し、編集して画像をつくった。ペンタブなんか持っていなかったし、キャラクター絵なんて描けるはずもなく、ましてや複数ポーズを考えて描くのは無理だと思い考えた。フィギュアのように立体なら絵を描くより得意で、動かして写真を撮るだけで複数のポーズができた。BGMもMacのソフトでイメージに近いものをつくった。(用意されているパターンを組み合わせただけ。)
ポイ捨てバッティングは、バッティングするキャラを描いた。と言ってもやはりそのままは描けないので、お手本のような少年野球のバッティングフォームの動画をトレースして描いた。おかげで経験者もきっと大満足のめちゃくちゃ綺麗なフォームで箒を振るやつができた。ちなみに私はスポーツにも美しい全身が連動するフォームにも目がない。
今思えばこの時の私が一番クリエイティブだったかもしれない。
アイディアには日頃自分の気になっていたこと、もしかしたらダウンロードしてくれた人に伝わるかもしれない怨ね…メッセージみたいなものを込めに込めた。それゆえに動力の実装部分はありきたりでネットで拾えるようなものだったが、オリジナリティのあるものになったと思う。
画像を表示させるだけの励まし亀助は最速でリリースし、動作も問題なく、飽きさせないだけの素材を用意していたので、結局全チームがリリースしたアプリのなかで一番稼いだ。(といっても額は知れているが)
ポイ捨てバッティングはゴミを持ち主に打ち返すというリアルだったらやばいけど一度はやってみたかった爽快さと野球経験者から見てもキレイなフォームで打つ気持ち良さがアプリを使ってくれた人に伝わったのが嬉しかった。
どんなに小さくても誰かの課題を解決する、というのが私の着想の基本だった。それが私のなかでおもしろい、の基準なのかもしれない。
この研修では、チームで働くこと、0からものを作りリリースして売上をつくるビジネスの全体を学んだ。開発の流れや概要程度であるが実装のロジックを学び、自分の持てる全てのクリエイティブを動員してアプリが出来上がった。
でもその当時は、自分がその時できる全てを出して、できない部分や不得意な部分は他の人に助けてもらったので、新しく何かこれができるようになった!ということがなかったので不安だった。
今思えばそんなことどうだっていい!と思えるかもしれない。持てるものを総動員して小さいながらも結果を出したのだから。そしてその時はわからなかったが、あとになってそういうこともあのとき学んだんだなと気がついたことがある。
企画から開発だけに留まらず、プロモーションやマーケティングまで自分たちで考え取り組んだ。開発会社は残念ながら納品をしたら終わりということが多い。実際どのくらいどのように使う人に届いたか、そのプロダクトが使い手と企業にどんな利益をもたらしたかを知ることはほとんどない。
それでも、開発の時点で使う人のことを考えられるかどうか。ニーズに応えていなければアプリは検索されないしダウンロードされない。仕事をしていくなかで、使う人のことを常に考えられているかはとても重要。たとえ下りてきた仕事であったとしても、言われるままに作るのではなく、自らチェックを入れていく。それがあとになって効いてくる。お客さんに本当に貢献していなければ、その後仕事はもうないし、そのプロジェクト内でもやっぱりこうしてくださいみたいな手戻りも少なくなる。
その時身についたことが、あとになって他の経験を積んでからでないと全く気が付かないなんてこともある。
だからきっと。内定者研修が終わり仕事に逃げ続けて何も身に付かなかったと思った3年間にも何かある。少なくとも、真っ直ぐに取り組んでいたのだから。
続く。