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グリーンティアイス
その夜はなかなか寝付けなかった。
大学時代の友人と高校時代の友人に会った日の夜だった。ずいぶんと暖かい夜で、冬物のままだった布団を蹴りながらなぜか走馬灯のように記憶が巡っていくのを感じた。
何年も使っていなかった脳の回路に次々と電気が通るように、ケーキがオーブンで膨らんでいくように、今まで思い出すこともなかった思い出が次から次へもくもくと順不同に膨れ上がった。
しかもなぜか楽しい思い出ばかりだった。
基本的に過去は振り返らない。良い思い出よりも嫌な思い出、美化ではなく醜化してしまう傾向にある私にとってそれはとんでもなく楽しい経験だった。明日死んでしまうのではないかと思うほどに自分の人生を全肯定する映像だった。
関わってくれた友人たちや職場の仲間たちとの大切な思い出だった。私がいろんな感情とともに歩んだ軌跡だった。
いろんな感情を持ちながら、前に進む。
その感情を確かめながら進む。
壁にぶつかるということは、一歩踏み出している証拠だと聞いたことがある。
振り返ると元いた場所とは違っているけれど、向き合うべきは今と未来だ。
過去の自分に囚われていても仕方がない。
しかし後になってみないとその時には気がつけないことがある。
過去と今の自分が続いているのは幻想で、数週間で自分の細胞はほとんど入れ替わる。
周りの人と影響し合うことで初めて自分の存在が証明される。記憶はハードディスクのようにはなっていない。影響し合うことそのものに記憶される。
ここまですばらしい人生だった。
散らばって置き去りにされていた過去がゼンマイのようにキツく巻き直された。
ここから過去を全て肯定し、明るく前を向くために。
眠れなかったのは、寝る前に食べたグリーンティアイスのせいかもしれない。