複業人材ばかりの開発チームを救った、問題を可視化し改善するためのフレームワーク「スクラム」
終身雇用制度が崩れつつあるいま、会社に依存しないスキルを伸ばす環境や、自分ならではのバリューを発揮できる環境を求め、副業に留まらず、複業する人が増えています。
わたしもそうした複業で生計を立てている人間のひとりです。
わたしの働く株式会社 tsumug は、取締役以外全員業務委託で構成されている、複業があたりまえの会社で、会社に所属するメンバーは多様な働き方をしています。
わたし自身も複業をして生計を立てており、tsumug で働くのに加えて、メディア出演したり、他のベンチャー企業を手伝ったりと日々慌ただしく過ごしています。
また、tsumug は「居心地の良さ」に力点を置いた会社です。
会社のビジョンも「それぞれの心地よい居場所で世界を埋めつくす」で、LINEからレンタルできるコワーキングスペース「TiNK Desk」や、法人向け分散オフィス「TiNK Office」など、心地よく過ごせる空間にまつわるサービスを展開しています。
働くメンバーたちの居心地の良さについても、全体会議でよく議題にのぼります。そのため、いつどこで仕事をしていてもよく、年齢に差があっても同僚で、年齢や役職関係なく、フラットなチームになるようにするという共通認識があります
ここまで読んで、「そんな理想論みたいな……」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、こうした組織は働く側は気持ちよく働けるのですが………。
みんながいつどのくらい稼働できるか読みにくく、締切もぐたぐたになってしまうことが多い状態で、経営メンバーに負担がかかるような制度設計になってしまっていました。
スクラムを導入した
「このままじゃダメだ」となり、組織としてスクラムを導入することになりました。
スクラムとは、問題を可視化し改善するためのフレームワークで、迅速にソフトウェア開発を進めるためによく使われています。フレームワークなので、イベントや人の役割などが明確に定義されています。簡単にまとめると以下のような特徴があります。
・固定の期間に区切って、繰り返し開発を行います。この固定の期間のことを「スプリント」と言います。
・プロダクトに必要な要求・要望・修正は、優先順位づけし、「プロダクトバックログ」と呼ばれる一覧に保管します。
・各スプリントではバックログをもとに、開発チームがスプリント内で開発できる目標を設定します。
・プロダクトオーナーは、プロダクトに関して責任を負うとともに、最終決定権を持ちます。
詳しい説明は他の記事や本に譲るとして、この記事では、複業組織でスクラムをどう行っているかについて書いていこうと思います。tsumug は複業組織なので、各メンバーの作業時間もまちまち、休みも不定期です。
スクラムを導入した結果どうなったか
スクラム導入前までは、優先順位が見えにくい中で開発を進めていたため、新機能の開発もだらだらと時間がかかってしまっていました。
スクラムを導入したことで、今やるべきことが整理され、集中して開発が行えるようになりました。
また、いくつかのスクラムのテンプレートは、我々のような複業組織に合わないなとも感じました。
複業組織で機能させるために、スクラムにどんな調整を行ったか
1. デイリースクラムは Zoom 上に集まる
デイリースクラムは、スクラムに定義されているイベントのひとつ。1日1度、今日やること、昨日やったこと、ブロッカーとなっていることを話します。
毎日11:30から15分ほど Zoom 上で行っているのですが、tsumug はフルタイムではないメンバーも多いので、稼働する日はデイリースクラムにも参加するというスタイルをとっています。
このイベントがあることで、ある程度時間に縛られてしまうので、複業組織としては若干の反発の声もありました。しかし、現在抱えているブロッカーについてもきちんと話し合うことができて、業務効率がだいぶ改善しました。
また、予定を共有したり、近況報告などの雑談もこの時間に行っています。リモート&稼働時間もバラバラだと失われがちな一体感も芽生えたような……。
このスタイルに辿り着く前は、チームメンバーの働く時間がバラバラなので、デイリースクラムも、働く前に共有事項を書いてもらって、11:30にチャットで確認会をするというスタイルをとっていました。
しかし、その時間にメンバーが全員揃っているかの実態を把握するのが難しく、徐々にメンバーが集まらなくなってしまったので、オンライン会議を行う方式に切り替えました。
2. 予定の確認
複業組織では、チームメイトの予定をなんとなく把握しておくことが大切です。予定共有を意識していなかったときは、属人的な業務が発生したときに、いちいちスケジュールを確認・調整する必要がありました。
また、スケジュールが合わないと、ブロッカーとして残ってしまうこともしばしば。
そこで、スプリントプランニングや、デイリースクラムの時間を活用して、予定のシェアをするようにしました。
その結果、チームメイトがお休みのときは、そのチームメイトがブロッカーにならないような作業にあたるなど、割りきって仕事ができるようになりました。
3. スプリントを2週間から1週間へ
2週間スプリントだと、軌道修正するまでのスパンが長すぎたり、開発チームがタスクの見積もりを行うスプリントプランニングにかける時間が5時間〜6時間渡るため、集中力が続かなかったり、いくつか問題点がありました。
そこで、スプリントを1週間にして、スプリントプランニングの時間は2時間固定で行うようにしました。
また、各種イベントの時間が長いと開発の時間が削られるため、フルタイムではないメンバーにとってはかなり負担になっていました。
これについては、決められた時間内でイベントが終わるように心がけたり、参加必須のイベントを減らしたりすることで対応しました。このおかげでだいぶ負担が減りました。
4. スプリントプランニングは月曜日から水曜日へ移動
スプリントプランニングが月曜日にあると、土日に稼働するメンバーが行った開発に対して、平日稼働するメンバーがレビューやアプルーブを行う時間がなく、マスターブランチへの反映が遅くなってしまう問題がありました。
スプリントプランニングを水曜日に移動することで、土日に稼働したものに関しても、充分にレビューの時間をとれるようになりました。
5. プロダクトオーナーを据える
最初はプロダクトオーナーの役割がよくわからなかったので、設定していませんでした。
しかし実は、最終決定権がある人があやふやになることで、「今、何に集中して開発するべきか」の軸がブレブレになってしまう問題点を抱えていたのでした。
プロダクトオーナーは、誰がプロダクトを利用し、開発がどのような顧客の価値に繋がるかをよく理解するように努め、最終決定権を担う役割を持っています。
プロダクトオーナー、スタートアップみたいな迅速な開発が必要な組織ではマジで大事だった……。
6. 属人化をやめる工夫
タスクやコードレビューの属人化を防ぎ、複業組織でもブロッカーが生まれにくいようにするため、現在開発を担当しているアプリケーションについて、みんながフルスタックであることを目指して開発を進めていくことになりました。
うちのプロジェクトでいうと、バックエンドは Rails で、フロントエンドは Vue で書かれているプロジェクトが多く、それについては誰でもコードレビューができる状態 = フルスタックになることを目指しています。
複業組織こそ、スクラムがハマると強いのかも
tsumug では、6月頃から検討をはじめ、9月から本格的にスクラムを導入しました。
スクラムをしばらく回して、組織にあわせて微調整を行っていくと、やるべきことの優先順位が明確になり、迅速に新機能をリリースができるといった、スクラムならではのメリットを体感できるようになりました。
複業組織は、働く場所も時間もバラバラで連帯が生まれにくい組織とも言えますが、そうした組織にこそ、スクラムがうまくハマると強いかもしれません。
実際、tsumug では、スクラムの恩恵をかなり実感できたので、開発チームだけではなく、サービスチームなどの他のチームでもスクラム的なイベントが導入されつつあります。
そんなチームで開発したサービスがこちらです
スマートロックを活用したコワーキングスペースサービス
「TiNK Desk」
今の時代、働く場所は、自宅やオフィスだけではありません。家に働ける環境がない方や、家だと集中できない方、たまには自宅やオフィス以外の拠点で仕事をしたいと考えている方向けのコワーキングスペースサービスです。
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空き物件を企業の分散拠点オフィスに
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🎉イベントのお知らせです
この記事は日経COMEMOお題 #複業人材を生かす組織とは を元に執筆しました。
関連イベントで、「働き方innovation パワフル複業者が補うデジタル人材」というテーマで、日経新聞の企画「働き方イノベーション」と日経COMEMOによるイベントが開催されます。
11/10(火) 20:00開催です。私、池澤も参加します!ぜひみなさんご参加ください。
いただいたサポートは次の企みのための資金として大切に使わせていただきます。ありがとうございます。