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恋人を造る魔法使い 2.恋人を造る魔法

女性向けR18BL小説です。章によってR18シーンがない時がありますが、読んでいくと出てきてしまうので、初めからR18にしています。

見た目も性格も日常も無彩色のハロルドだったが、胸の奥には極彩色の熱い望みがあった。

ハロルドは恋人が欲しかった。

ハロルドが恋人が欲しいと思い始めたのは、18歳の頃。2歳年下の弟はとっくの昔に恋人がおり、なんならその時点で恋人は3人目だった。

勉学や魔法の修業に没頭していたので思春期は遅かった。18歳にして初めて、恋愛に興味を持ったのだった。それも弟が12歳のときに読んでいた子ども向けの恋愛小説に影響されて。

ハロルドの望みは非常にシンプルで、自分のことを好きな人を好きになって恋人同士になりたい。または自分が好きな人に好きになってもらって恋人同士になりたい。
それだけだった。

いくら背が低くて平凡な顔立ちでも、ハロルドは学問の秀才で魔法の天才で公爵家の長男で大金持ちなわけだから、恋人の一人や二人すぐできたことだろう。もし、ハロルドが女性を求めていたとしたら。

平凡な見た目の平凡な性格だというのに、性指向としては平凡ではなく、ハロルドの恋愛対象は男性のみだった。

王国では同性同士の結婚が認められていて、恋愛ももちろん自由だが、子孫を残し家同士の関係を深めることが主たる目的の政略結婚では、同性結婚はほとんどない。

ハロルドには自力で恋人を作る能力はなく、せいぜい親同士が決めてくれた政略結婚の相手と、結婚を前提とした恋人になれるかどうかというくらいだった。
相手が女性ならば本人の魅力がなくても、公爵家の地位と権威と金の魅力がハロルドを後押してくれて、格差のある下位貴族や、困窮している家の令嬢が結婚相手として見つかるはずだった。

そしてその女性がハロルド本人を愛してはいなくても、地位や権力や金を愛していれば、二人は仲良く過ごせるはずだった。ハロルドはなんの魅力もないが、なんの害もない。
面白みはないが誠実で温和なハロルドの良さを長い時間をかけて知ってもらえれば、愛情らしきものも生まれるかもしれなかった。

ハロルドにとって非常に残念なことは、ハロルドの欲しい恋人は男性に限るということ。そして女性からだけではなく、男性から見てもハロルドは魅力的な存在ではないということだった。

ハロルドには恋人を作る能力はない。だから、恋人を造ることにした。

ハロルドはもともと非凡な魔法の才能を、王立大学の魔法学部でしっかりと磨き上げていた。公爵家の地位も財産も使って、高名な魔法使いを家庭教師として呼んだり、高価な魔法書を買ったり、他国にしかない魔道具を取り寄せたりもした。

ハロルドの両親、つまり公爵と公爵夫人も、家のためには弟が後継者になる方が良いと、ハロルドをある意味見限ってはいたが、子どもへの愛情がないわけではなかった。

だから、明晰な頭脳にもずば抜けた魔法の才能にも恵まれながらも、致命的なほど内気で不器用な長男が、なんとか自立して生きていくには、魔法使いになるしかない。それも人間関係が煩雑な王宮魔法省所属の魔法使いではなく、独立した魔法使いになるしかない。
と理解してからは、ハロルドが一流の魔法使いになるために、協力を惜しまなかった。

ハロルドは古今東西の魔法に精通し、もう忘れ去られたとされている秘術を復活させたり、一部の部族にしか伝わらない技術を身に着け、国では手に入らない貴重な材料を手に入れることができた。

ハロルドは自分の能力と財産のすべてをついやして、恋人を造ることにしたのだ。

まずは医学書を熟読し、人体にあるすべての骨を、骨に限りなく近く、魔法伝導率の良い物質で作成する。
身長は高いほうがいい。ハロルドの好みももちろん反映させた。
背は180センチくらいで、骨格はしっかり。脚は長め。頭がい骨は顔立ちにも影響するので、理想の顔から逆算して骨の形を決める。
軟骨と腱(に、限りなく近い物質で作ったもの)で骨をつなぎ、全体を骨格標本のように組み立てた。

木材で作った支えを使って、骨格を立たせてみると、理想どおりの位置に、頭蓋骨の眼窩があり、そのぽっかりとした暗い穴が、ハロルドを優しく見下ろしているような気がして、ハロルドの心は弾んだ。

骨格を造るだけで半年もかかったが、ハロルドは気にしなかった。

材料費のために、日々、開発した魔法の設計図を作り、魔道具を作り、魔法陣を描き、その合間の作業だったが、無趣味で友人もいないハロルドには、時間はたっぷりあった。

睡眠も食事も最低限で良い。

内臓は難しかった。実際には食べ物を消化するわけではない胃や腸。血液を循環させるわけではない心臓ではあるが、できるだけ本物に近く、精巧に造ることが、成功への鍵なのだ。

胃は胃に近い物質、心臓は心臓に近い物質、脳は脳に近い物質でできるだけ本物そっくりに造る。

そしてそれを体のあるべき場所に収め、その後は筋肉で体を形作っていく。

足の指は少し長めの方が良い。やや骨ばっていて、くるぶしの骨も少し尖らせる。
ふくらはぎの筋肉は引き締め、太ももの筋肉はがっちりめにした。
目標は筋肉質な騎士様だ。
足先から順に造っていったハロルドは、きゅっと持ち上がった形の良い臀部を造るとき、誰にも見られていないのに、恥ずかしくて赤面するのが抑えられなかった。

さらに男性器を造るときには、恥ずかしさで何度も中断し、身悶えながら、何日もかけて造った。

ハロルドには性的な経験が全くない。
医学書の次には閨の指南書や秘密の書籍を買い込んで、王立大学の最終試験の10倍は真剣に学んだ。
そして、理想の男性器を作り上げた。

男性器という難関を乗り越えたハロルドは、調子を上げて、首から下までを完成させた。
たくましい腕。長い指。発達した胸筋。引き締まった腰。

背筋の量、爪の形。鎖骨の浮き具合。
ひとつひとつにハロルドのこだわりと性癖が込められている。

そして最大の難関である。頭部。

髪は神秘的な黒髪にしよう。目は何色がいいのか。明るい青か、緑か、それとも深い黒か。

身近な人に似てしまうと、恋人同士になったあとすごく恥ずかしいかもしれない。少し異国人のような外見のほうが、むしろ良いかもしれない。

ハロルドは瞳も深い黒にして、彫りの深い男らしい顔立ちを完成させた。

滑らかなやや浅黒い皮膚を張り、髪を植え、爪を貼り、恋人の肉体が完成した。

理想の恋人が作業室に全裸で横たわっているのが、身の置きどころに困るくらい恥ずかしく、ハロルドは恋人にピッタリの服を用意して着せることにした。

ハロルドには1ミリも似合わないおしゃれな服が、とても良く似合って、ハロルドは恋人の前でもじもじしながら、恋人を見つめ続けた。

そっと、唇に口をつけてみる。

もちろん体温はないが、心から歓喜が湧き上がって止まらなくなった。

ハロルドより20センチ近く背の高い恋人を、傷つけ無いように気をつけながら抱えて、階段をおろし、ハロルドの私室に連れて行った。

ベッドに横たえて添い寝をしてみたかったが、それはまだ早いし、あまりに破廉恥な気がして、恋人用に買った真新しいソファに座らせる。
肘置きに腕をかけさせ、リラックスしているような体勢に整え、長い脚を組ませる。

ハロルドはソファの前のテーブルにコーヒーを用意したり、本を膝に乗せたり、時間を忘れて楽しんだ。
そして疲れて眠くなると、遠慮がちにそっと恋人の隣に座って、少しだけ体を寄せて眠りについたのだった。


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