『文字で愉しむ大東京写真帖一九三〇年』 東京の街は二度破壊されている。
井川夕慈のKindle電子書籍『文字で愉しむ大東京写真帖一九三〇年』より一部を抜粋して公開します。
まえがき
昔の東京はどんなだったのだろう?
そんなぼんやりとした関心をもって国立国会図書館デジタルコレクションを漁っていたところ、『大東京寫眞帖』なる写真集を見つけた。
出版者は不明、出版年月日は一九--年と登録されているが、インターネットを検索して得た情報を総合すると、出版者は忠誠堂、出版年月日は一九三〇年とみて間違いないようである。
昭和五年――立憲民政党の濱口雄幸内閣の時代だ。
二年前には張作霖爆殺事件があった。一一月には濱口が東京駅で銃撃され、翌年には満州事変が起こる年である。
目次に続いて一〇〇枚を少し超える数の写真が収録されている。
その末尾に「新東京見物」なるタイトルの文章が申し訳程度に添えられている。
地方から東京へ観光に出て来る人へ向けて、どの名所をどの順で回ればよいかを指南するものだが、これが同時に、収録された写真の補足説明にもなっているという内容だ。
読んでみると、これが意外に面白かったのである。
そういえば各写真の下には、キャプションとして短い文章が添えられていた。
写真のページに戻って、これらの一文字一文字に丁寧に目を通して行くと、「ん?」と引っかかるところが多々ある。
そして気になったアレコレをインターネットで調べてみると、「えッ」ということの連続で、納得の行くまで一通り調べ終わった後には、「自分は東京という街のことを何にも分かっていなかった」との思いにとらわれた。
東京とはどのような街か?
今ならこう断言したい。
東京とは、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた街である、と。
明治の時代に天皇が京都から移って来て以降、東京の街は二度破壊されている。
一度目は一九二三年の関東大震災によって。
二度目は一九四五年の空襲によって。
つまり東京という街は、江戸の城下町から近代都市に造り変えられ、それが地震とそれに伴う火災によって破壊され、その後七年をかけて復興され、それが再び太平洋戦争で米軍機の落とした爆弾によって破壊され、そして戦後に復興されて現在に至っているのである。(現在でも飽かずにスクラップ・アンド・ビルドを繰り返しているのはご承知のとおりだ。)
この写真集(当時は写真〝帖〟と呼んだのだな)の発行は一九三〇年(昭和五)だから、これら二つの破壊の中間に位置する。
つまりこの写真集に収められているのは、関東大震災からの復興を成し遂げた後の東京の姿である(「新東京見物」と頭に「新」が付くのはそのためだ)と同時に、一五年後には再び廃墟にかえる運命にある街の姿でもある。
そうしたことが、「新東京見物」なる文章や、各ページの写真に添えられたキャプションを丁寧に読むことで浮かび上がってきた。
何のことはない――同書は「写真帖」と銘打たれているが、これを令和の時代に読んだ自分にとっては、写真よりもむしろ文字情報から得るものの方が大きかったのである。
(続きはKindleでお楽しみください。)