子ども・子育て支援金制度はこうして始まった。#03 施策の効果は、それぞれの施策の目標や指標で判断する
(子ども・子育て支援金制度創設に係る国会審議の論点を整理しています。)
加速化プランの目標は「少子化トレンドの反転」である。
その意味するところは「結果として出生率が向上すること」だと説明された。
しかし、何をもって「向上」とみなすかは明らかにされていないし、目標数値も示されていない。
加速化プランの効果は、どのように測定するのか。
井坂 国全体の出生率について、数値目標を持って、そこを目指して政策を取捨選択するということは、私は個人の出産の自由と相反する話ではないと考えております。むしろ、目標が不明確なために、政策が目標達成に対して利いたのか利かなかったのか、効果測定が曖昧になること、その結果、精度の低い、効果のない政策に巨額の税金と保険料が投じられ続けて、しかも少子化は改善しない、これが一番避けなければいけないことだと思います。
参考人に伺いますが、出生率の数値目標を持たずに政策の効果をどのように測定し、少子化の改善に結びつけるんでしょうか。
小宮 少子化対策でございますけれども、出生率を目標として掲げるということは控えているわけでございますけれども、見ないということでは決してございません。
その上で、少子化対策を進めるに当たりましては、その出生率だけでなく、数々の指標を適切に設定をして、政策の効果等を検証しながら進めていかなければならないことは当然であると思っております。これは、これまでも少子化社会対策大綱等においても、十分ではなかったかもしれませんけれども、指標を掲げつつ政策を推進してきたところでございます。
今後の子供、子育て政策に関するPDCAの推進に当たっては、既に、こども大綱におきまして、大綱の政策の全体に係るKPIとしての数値目標を含めた数々の指標を設定をしておりまして、その下で、加速化プランに盛り込まれた具体的施策を含め、PDCAを推進していくということとしております。
具体的には、大綱におきましては、例えば、子供、若者や子育て当事者の視点に立った数値目標として、結婚、妊娠、子供、子育てに温かい社会の実現に向かっていると思う人の割合ですとか、自分の将来について明るい希望があると思う子供、若者の割合ですとか、さらには、子供、若者、子育て当事者の置かれた状況等を把握するための指標として、若年層の平均賃金や、若い世代の正規雇用労働者等の割合、さらには、いずれ結婚するつもりと答えている未婚者の割合、将来の、理想の子供数を持たない理由として子供や教育にお金がかかり過ぎるからを挙げる夫婦の割合等々を設定をしてございます。
その上で、加速化プランに盛り込まれた施策を含め、具体的に取り組む施策の進捗状況をきっちり把握するための指標についても、本年六月をめどにまとめる予定でございますこどもまんなか実行計画で設定することとしております。
さらに、加えまして、政府全体として取り組んでおりますEBPMでございますけれども、経済財政諮問会議の下でまとめられました新経済・財政再生計画改革工程表二〇二三におきましても、少子化対策の推進に関する改革工程を新設をいたしまして、今後、KPIの設定の更なる拡充を図ることとしております。
こうした枠組みを重層的に活用しながら、政府全体として、施策の実施状況、効果等を検証しつつ、必要な見直しも不断に行いながら、政策を推進してまいりたいと考えてございます。
井坂 昨年十二月に策定されたこども大綱の最後、私も指標を全て見せていただきました。
これはどういう構造になっているかというと、まず上位にあるのが、数値目標として全部で十二個だったか、あったと思います。その下に、現状把握のための指標ということで、目標数値は掲げないけれども、チェックしますよ、ケアしますよという指標があって、上下二段階で分かれて、この指標の方は六十数種類リストアップされております。
上位の数値目標の中身を見ますと、今答弁でおっしゃったように、こどもまんなか社会の実現に向かっていると思う人の割合とか、生活に満足していると思う子供の割合とか、要は全て国民や子供の感じ方の指標になっているわけなんです。
私も、地方議員時代を含めて二十年ぐらい行政評価のことをずっとやって、いろいろな評価指標を見てきていますけれども、確かに、十、二十ある指標の中に一つ、二つはそういうアンケート指標、感じ方指標が入っていることはありますが、目標の全てが、思う、思う、思う、思う、思うというのは、私はちょっと、初めて見たんですね、これでいいのかなと。EBPMのEはエビデンスベーストですけれども、これではエモーションベーストじゃないかという。
確かに、アウトカム指標の出し方で、感じ方というのは、もちろんやり方はあるんですよ。ただ、やはり私は、数多く見てきましたけれども、全部、思う、思うという、これで政策評価をするというのはちょっと見たことがないんですね。多分、異常なことだというふうに思います。
一方で、目標ではなくて、現状把握のための指標というところには、実は下の方にこっそり出生率とか出生数が入っておりました、指標の中には。もちろんそれはチェックはするんだろうなというふうに思いましたけれども、ただ、これはあくまで、全部で六十三、四ある細々とした指標の中のワン・オブ・ゼムとして出生率が隅っこの方に入っているという状況であります。
これはちょっと参考人にまず伺って、その後で大臣に大まかに伺いたいと思いますが、私は、今回は、異次元というからには、出生率、これはやはり最終の目標として挙げる、しかも、ここまで上げるというものを持たないと、政府の巨大な政策群として成り立たないというふうに思っておりますが、どうしてもそれが嫌なんだったら、せめて指標の中でも最上位の指標として明確に位置づけて、出生率が上がらなければやはり政策が何か問題ありと判断して見直すという、まさに文字どおり、エビデンスベースの少子化対策をすべきだと思います。
この指標の取扱いについてまず参考人に伺って、後で価値判断について私がもう一度大臣にお伺いします。
小宮 まず初めに、こども大綱の指標について若干御説明申し上げますと、こども大綱は、少子化に関わる部分も当然ございますけれども、要は、こどもまんなか社会実現を目指すために、少子化という観点だけではなく、まさに、子供、若者が輝ける、大事にされる、みんなで支え合う、誰一人取り残さない、そういう社会を実現するために指標を設けているところでございます。
その意味で、少子化という観点だけに焦点を絞りますと、若干、こども大綱に取り上げられている他の指標が何か不思議に見えるのもあろうかと思いますが、少子化という観点でいいますと、先ほど申し上げましたとおり、目標として掲げてしまいますと、独り歩きをして、逆にネガティブに捉えられる場合もないわけではないことを考慮して、ちゃんと指標としてはチェックをしていく。
さらに、出生率という単独の数字だけではなく、その出生率をもたらしている様々な要因についてのそれぞれの指標についてもしっかりチェックをしていく。
それから、出生率という観点でいいますと、希望出生率というのは、これは計算式で出てくるものがございます。それと現実の出生率、これがまだ乖離があることも、これも事実でございます。その乖離ができる限り小さくなるような環境を整備していくということで政策を展開しておりますので、常に、その乖離の幅がどういう動きをしていくのかということはしっかり検証、チェックをしていくということだと理解をしてございます。
井坂 済みません、今の答弁の確認ですけれども、要は、希望出生率と現実の出生率の差が縮まるようにという、そこは明確に政策の成果指標として見ていくという御答弁だったんですか。
小宮 その差については、ちゃんと政策の効果が出ているかを測る上の一つの指標としてしっかり見ていきたいと考えてございます。
ただ、一つだけ補足を申し上げますと、希望出生率も現実の出生率も毎年ちょっとずつまさに変動するものでございますので、その意味で、固定的に何かを掲げて、それとの乖離を常に見ていくというのではなく、常に、両者、動くものの乖離も見ていくということだと理解をしてございます。
井坂 何かやはりいろいろまぶされていて、私は大変心配をしているんですが、大臣にもう少し大ざっぱに伺います。
出生率をアベノミクス新三本の矢のときのように大々的に掲げることがよろしくないというのは、大臣のお考えとして本日聞かせていただきました。
ただ、さはさりながら、異次元の少子化対策、しかもラストチャンス、しかも少子化の反転ということを本当にやっていくのであれば、数ある指標を全部見てぐらいの話じゃなくて、やはり最後は出生率が改善をしていかない限りこの一連の政策群はうまくいったとは言えないと思うんです。
目標に掲げないとしても、指標として、メインの指標としてこれはしっかり見ていく、しかも、それがよくならないのであればやはり政策に問題ありとして改善をしていく、これぐらいは当然すべきだと思うんですが、それすら拒否をされますか。
加藤 先ほど、希望出生率を大々的に目標と掲げることは誤りだったかというような御発言がございましたけれども、それをそもそも目標として掲げたのではなく、大事なのは、希望する妊娠、結婚、出産、子育て、これをやはりかなえていくということをしっかり目指していく、それが大事だと考えておりまして、特定の価値観を押しつけたりするということはあるべきではないと考えております。
その特定の価値観を数値として掲げて、これでみんなで、目標なんだといってそれで動いていくという、そのための目標として出生率を置くのではなくて、やはり、何が大事かといったときには、結婚、妊娠、出産、子育て、これら希望をしっかりとかなえていく、一つ一つの施策がどれだけそれぞれ個別に効果を発揮して、総体的に少子化を反転させていくという我が国の姿に持っていけるかという、そういうことだと考えてございます。
一つ一つの施策がきちんと前に進むということと、それから、個人の価値観、個人に対して国が価値観を押しつけるということをしないということとをしっかり両立をさせながら、この国で生まれてよかった、この国で子供、子育てをしていきたいと自らが思い、希望し、そしてそれを実現していける、そういう国をつくっていきたいと私は考えております。
井坂 施策が前に進むとおっしゃった、その大臣がおっしゃる場合の施策が前に進んだというのは、何をもって進んだと判断されるんですか。
加藤 先ほど官房長よりお話をさせていただきました、それぞれの施策の目標や指標でございます。
井坂 こちら側からいろいろと声がかかっているわけでありますけれども、特定の価値観の押しつけはよくないというふうに大臣がおっしゃるわけであります。
これは純粋にお聞きをしたいんですけれども、今の我が国において出生率の数字が増えるということがよいことだという価値観は、これは押しつけるべきではない特定の価値観だというふうにお考えですか。
小宮 出生率を目標として掲げてこれを達成するんだと政府が発信をすることが当事者にとってどのような受け止めをされるかということがございますので、目標の数値として掲げることについては適切ではないという考え方に立っておりますが、数値をしっかり見ながら、少なくとも、少子化トレンドの反転をするということは、マイナスの加速度を小さくする若しくは加速度をプラスに転換させるということでございますので、そもそもそのトレンドの数字、それからそれに関連する様々な事象の数字、これはしっかり検証をし、必要があれば既存の施策に生かしていくということだと理解をしております。
井坂 大分苦しい答弁ではないかなというふうに思います。
参考資料等
こども大綱/こどもまんなか実行計画
新経済・財政再生計画改革工程表二〇二三