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『ざっくり理解する皇室 「宮家とは何か?」を起点に皇位継承問題を考える』

井川夕慈のKindle電子書籍『ざっくり理解する皇室 「宮家とは何か?」を起点に皇位継承問題を考える』より一部を抜粋して公開します。


ホテルと宮家の素敵な関係

 猪瀬直樹の『ミカドの肖像』(1986)を読んでいた。 

 社長応接室で猪瀬が質問する。

ホテル過剰時代といわれている折柄、プリンスホテルをつぎつぎに都心につくっていく。それでどうして採算がとれるのか、不思議に思います。

 これに対する西武鉄道グループ総帥・堤義明の回答は、こうだ。

ホテルというものは、新しく土地を買って始めるというものではないんです。すでにある土地をどう利用するのか、と考えてホテルをつくったわけです。

 猪瀬にはもう一つの疑問があった。
 赤坂プリンスホテルには「旧館」がある。高輪プリンスホテルにも古い「洋館」がある。新高輪プリンスホテルにも「洋館」が残されている。

こうした、ひとつの符牒のような高層ホテルと二階建ての洋館の組み合わせ、これはなにを意味するのか。

 結論は、こうだ。

謎の洋館は旧宮家の住居であり、高層ホテルはその宏大な敷地に建てられたのであった。

 つまりプリンスホテルとは、西武グループ創業者の堤康二郎が旧宮家から買い漁った土地に建てられたホテルなのである。
 そこになぜわざわざ古い建物を残しているのかというと、土地売買の交渉をするにあたり、旧邸宅を残すという条件を付けることによって、契約当事者の間にWin-Winの関係が成立したからだという。すなわち、①元オーナーにあっては皇族としての自尊心が満たされ、②そこに雇われていた幹部職員にあっては(オーナーに対する)忠誠心を示すことができ、③西武グループにあっては皇族のブランドイメージをホテル経営に活用できるという――。
 参考までに、現在ではグランドプリンスホテル高輪になっている土地を手離した竹田家の当主・竹田恒徳(つねよし)と猪瀬の生々しい会話を引いておこう。

邸宅を西武に売ったのは、どういう考えからですか。
「持ちきれなかったということですよ。それに、西武は西洋館を潰さないで大切に使ってくれるといっておりましたから。跡形もなく消えちゃえば淋しいけれど、実際、いまだに西洋館は残っていますからね。嬉しいことです。外国から知人が来たときにはこの西洋館でパーティをすることにしているんですが、そんな折にね、ここは私がかつて住んでいた家なんです、というとみんな喜んでくれてねえ」

 西洋館は現在「高輪 貴賓館(グランドプリンスホテル高輪)」と呼ばれる結婚式場になっている。

 建物が古いわりに料金が高いというイメージがあって、私はプリンスホテルのお世話になったことはほとんど無いのだが、全国展開しているにしては、どこかコンセプトが一貫しないホテルチェーンだなという印象を抱いていた。それが、もともと宿泊業がやりたくて始めたホテルではないということを知って、「ああ、道理で」と思った。
 そう納得する傍ら、文章中に当たり前のように出てくる「宮家」あるいは「旧宮家」なる言葉――これがよく分からなかった。
 天皇あるいは皇室に関係のある一族のことだろうと漠然と了解して読み進めているものの、頭の片隅で気になって仕方がない。
 そこで、「宮家」とは何かについて、一度時間をとって調べておくのも悪くない、と思ったのである。


(続きはKindleにてお楽しみください。)

目次
ホテルと宮家の素敵な関係
日本は天皇の国
今も生きているタブーと忖度
『皇室事典令和版』と有識者会議
皇族の呼び方のナゾ
ポジション名と固有名
宮号とは何か
死去後に贈られる追号
皇族とは誰のことか
皇族の範囲は〝決め〟の問題
宮家は皇統断絶の危機に備える保険
皇族と特別な家柄
現在の宮家は廃絶寸前
「悠仁親王殿下の他には皇族がいらっしゃらなくなることも…」
提案された2つの方策
提案すらされない禁じ手
天皇のパートナーは複数いる
女官は天皇の御寝に侍る
側室から産まれた天皇
宮家方式と側室方式
皇室問題の議論の経緯
2006年『報告書』を読み解く
男系継承はもはや〝無理ゲー〟
旧宮家復活論論駁
長子優先の継承は分かりやすい
重みを増す皇室会議の役割
いつやるの? と天皇ガチャ

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井川夕慈
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