見出し画像

変わる「家族」#1 祝・昭和百年か、ケアの脱家族化か?

 ここしばらく、子ども・子育て支援金に関する投稿を続けてきた。

 ひと段落したところで、少子化に関連して、面白い動画を見つけた。

「変わる『家族』」(1) 落合恵美子・京都産業大学教授、京都大学名誉教授 2024.7.8)

「へぇー」と思うことが多かったので、紹介したくなった。

キーワード

 以下のリストに目を通して「?」と思うワードがあったら、ぜひ動画の視聴をオススメしたい。

  • 家族の世紀(=20世紀)

  • 近代家族

  • 少子化は二度起きた(1950年代・1970年代、二人っ子化)

  • 再生産平等主義

  • 社会的再生産の20世紀体制

  • 第1次人口転換・第2次人口転換

  • 日本の「家族の戦後体制」

  • ケア(生を支える活動)の家族化(=社会からの外部化・不可視化)

  • 女性の主婦化(ケアのコストを外部化する手段。シャドウワーク)

  • ケア罰

  • ポスト20世紀体制(1970年代以降)

  • 欧米の近代・日本の半圧縮近代・東アジアの圧縮近代

  • ケアの脱家族化(欧州型・米国型)

  • ライフスタイル中立性

  • 日本の家族主義的改革(1980年代)

  • 自己オリエンタリズム(日本型福祉社会。家庭自助&地域相互扶助)

  • ジェンダー・バックラッシュ(2000年代)

  • アジアの家族主義的個人化

  • 東アジアの極低出生率(日本はマシな方)

日本の家族主義的改革(1980年代)

 1970年代から後、各国・各地域は制度改革をしたりしたんですけれども、その時に道が分化したんだ、ということに注目しなければなりません。欧米社会ではケアが脱家族化された、と。欧州型と米国型はちょっと方向が違う、というのはさっき言いましたね。
 じゃ、日本で何が起きたかと言うと、これ、すごく重要なんですけれども、1980年代に「家族主義的改革」というのが起きました。何のことを言ってるかピンときます? 中曽根時代なんですよ。中曽根さんの時代というのは、日本が経済的に景気が非常に良かった時です。ナショナリスト的というか、国に自信を持ちましたね。持ちますよ、あの時期に。それでヨーロッパやアメリカに追従する必要はない、という風に考えたんです。そこで、高度成長期のシステムというのを補強するような、固定するような、そういう改革を行いました。
 例えば、この第3号被保険者制度。今また話題になっていますけれども、厚生年金とかに入っている人の配偶者は、追加の保険料を払わずに年金がもらえるという制度ですね。これは世界の中でも、最も主婦を優遇した制度と言われていますけれども、それができたのもこの時です。
 この時にやっぱり、性分業は日本の伝統、という誤解も働いたんですよ、日本の良き女らしさみたいな。それとこの経済的な成功というようなことが相俟って、「日本の戦後体制」、つまり世界的に言ったら「20世紀体制」を固定して維持する、というような政策を打ってしまったんですね、この時代。これが、その後の日本の失われた時代をもたらした、と考えられると思います。

 以前、年金について調べた際、第3号被保険者制度ができたのが1985年だったことを知って驚いた。もっと昔から続いている制度だと思っていたからだ。
 あれは、1980年代に日本で起きた「家族主義的改革」の一環だった。
 そういう見方があるのか、と新鮮に思った。

日本の「縮んだ戦後体制」

日本は戦後体制を変えるのでなくて、「縮んだ戦後体制」というのを作ってしまいました。安定した雇用と安定した家族を持つ人たちをベースにするのが戦後体制でしたけれども、それを持てる人たちが社会の「一部」になって、そこからはみ出しちゃうような不安定な雇用・不安定な家族の人が増えた時代なんですが、その時に、ヨーロッパだったら、みんなが柔軟な雇用・みんなが柔軟な家族になったということで、家族が時々分解したりしても、個人単位の制度を作れば誰にでも適用できるわけですよね。
 よく、個人主義の制度化と言うと、何かすごく冷たい制度のように思う人がいますけど、そうじゃなくて、家族が柔軟になった時代に、結婚しない人とか、それから離婚する人とか、色々な生き方をする人がいた時に、どういう生き方を選んでも平等にはたらく制度というのが個人主義的な制度なんです。個人単位の制度なんです。それがさっき言った「ライフスタイル中立性」です。
 20年前にも私が書いたこと。と言うか、世界的にはその時からもう流行語だったんですよ、それがね。その大切さを今もう一度言いたい。「ジェンダー・バックラッシュ」でそこは無視されてしまったんだけれども、世界的に21世紀の初めに世界の色々な国が向かって行った方向というのをもう一度見直してほしい。ここには日本へのヒントがある。
 しかし日本で何をしたかと言うと、この右側に描いたような「制度化された家族主義」、家族主義を制度化してますますそれを固定してしまったため、安定した雇用と安定した家族を持った人にしか適用されない制度を維持してしまった。そこからはみ出した人たちは割を食っている。最近は、そのはみ出した人たち、不安定な雇用の人も労働組合に入れるとか、それから保険に入れるとか、少しずつ周りの人をどうしようという話が出ていますけれども、一回この人たちを決定的にはみ出させてしまったのは、この80年代の「家族主義的改革」なんですね。

 図を見た時、これは今の日本そのものだ! と思った。
 社会学者の宮台真司なら「沈みかけた船での座席争い」と言うだろう。

 動画を視聴し終えて、現在の日本の諸制度はあまりに酷いのだ、と思うようになった(シンプルに現実に適合していない)。
 制度があまりに酷いので、制度を変えさえすれば、状況はかなり良くなるのではないか、と逆に希望が見えたような気がした。(企業の尻を叩いて賃上げを迫ることより、法律が決めている制度を変えることこそが政治の仕事だと思うのだが……)


関連する記事

いいなと思ったら応援しよう!

井川夕慈
いつもありがとうございます。賜りましたサポートは、活動継続のために大切に使わせていただきます。