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独断と偏見で選ぶ「後期」globeの(隠れた)名曲ベスト10#1 流行歌受容の臨界期仮説

流行歌受容の臨界期仮説

 言語習得の臨界期仮説なるものがある。
 言語習得は幼児期から思春期までの間に完全になされ、それ以後に学習を開始しても不十分にしか習得し得ない。――
 真偽は未確定のようだが、そんな気もする。

 言語の習得と同じように、流行歌の受容についても〝臨界期〟があるのではないか? と私は疑っている。
 つまり、ある年齢まではリアルタイムで流行している音楽に没入でき、夢中で追いかけもするけれど、ある年齢を過ぎた途端に急速に受けつけなくなる。どうでもよくなる。
 新しい楽曲は日々生産され続けているのに、いつの間にか懐メロに走ってしまうようになるのは、この〝臨界期〟を過ぎたためではないか。

 私見だが、その臨界期は20歳前後にあるような気がする。
 自分の場合(1980年生まれ)、同時代的に最も親しんだ流行歌といえばglobeの楽曲だった。
 ボーカルのKEIKO・ラップのMARC PANTHER・そして言わずと知れた小室哲哉の3人からなるあのglobeである。

 globeの楽曲には今でも、肌に密着してくるような〝どうしようもない愛着〟を感じる。
 米津玄師の「Lemon」(2018年)やYOASOBIの「群青」(2020年)も、いいなあ、とは思うのだ。
 けれど、globeの曲に感じるような〝どうしようもない愛着〟は湧いて来ない。
 今後湧くこともないだろう。
 臨界期を過ぎているから(おそらく)。

馴れ初めから疎遠まで

 私がglobeを初めて知ったのは1996年の大晦日であった。
 ピンポイントで特定できる。
 NHKの紅白歌合戦で「Can't Stop Fallin' in Love」を唄っていたのを覚えているからだ。

 当時の自分はいわゆる流行歌にまったく関心が無かった。
 妹に教えられたのだ。 
 女性の歌声と男性のラップ(語り?)の組合せ。
 へぇー、こんなフォーマットがあるのか、と思った。
 物珍しかった。
 それで興味を持った。

 そこから、このグループの過去を掘り返す作業を始めた。
 と言っても、当時アルバムはまだ『globe』の1枚しか出ていない。
 早速TSUTAYAでレンタルして、カセットテープに録音して聴いてみた。
 どの曲もよい。
 グローブは野球のグローブじゃない、地球のことをグローブとも言うのだ、グローバルという語はそこから派生しているのだ――ということに気づくのも、その頃である(当時の自分の英語力の無さ……)。
 新曲が出たら必ず聴くアーティストが初めてできた。
 1997年以降の自分はglobe漬けになった。

 ところが……
 2001年以降、自分は急速にglobeから離れた。
 離れたのはglobeからだけではない。
 プロ野球観戦・プロレス観戦・流行歌……みんな離れて行った。
 理由は単純で、就職したからである。
 それらをフォローする時間が物理的に無くなった。
 今でこそ若年労働者の低賃金が社会問題になっているが、当時はそんなことはなかった。
 それが当たり前だと思っていた。
 初めて給与明細を見たとき、愕然とした。
 これでは残業しなければやっていけないな、と思った。
 企業は若者の長時間労働を享受し、若者は残業代を享受する。
 そこにバーターが成立していた。
 残業代を加えてはじめて生活が成り立つ――その前提で、ギリギリのラインに初任給が設定されていたのだと思う(現在では少子化が進んで、もうそんな非道なことをしていられない状況に変わってきているようだが……)。

 時間が無い。
 おのずと、globeに関する情報にも疎くなる。
 2002年に何とKEIKOと小室が結婚する(相手はMARCじゃないのかッ)。
 2008年には小室が詐欺事件で騒動を起こす(あれだけ売れたのにカネに困っていたのかッ)。
 2011年にはKEIKOがくも膜下出血で倒れる(ええッ)。
 2018年には小室が不倫&引退騒動を起こす(引退するわけないだろッ)。
 そんなことが耳に入って来た程度である。
 調べてみると現在、小室とKEIKOの離婚は成立し、小室は音楽活動を再開しているらしい。
 また最近、テレビ東京の路線バスの番組にマークが出ているのを見て、ああ、マークはこういう番組に出るタレントになったのか、と妙な感慨を覚えたところである(「ローカル路線バス乗り継ぎ対決旅 鬼ごっこ第8弾!春休み首都圏決戦!」2023年4月5日放送)。

 昔と変わらず飄々としたマークを見て、久し振りにglobeを聴いてみたくなった。

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井川夕慈
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