見出し画像

ラグビーW杯フランス大会#2 22メートルドロップアウトとゴールラインドロップアウトになる場合の見分け方

※マニアックな内容のため、関心のある方だけお読みください。

ラグビーワールドカップのフランス大会が進行中である。
前回の日本大会と比べて、ラグビーのルールに関して気になる〝違い〟がある。
「50:22」と「ゴールラインドロップアウト」だ。
これらの違いの影響は小さくないと思われる。(ちなみに、いずれの規則も13人制のラグビーリーグを参考に導入したのではないかと推察されるが、未確認である。もしご興味があれば、次の電子書籍を参照ください。)

この記事では「ゴールラインドロップアウト」だけを取り上げる。

◇◇◇

ドロップアウトは試合を再開するキックのひとつである。
ドロップアウトには2種類ある。

・22メートル地点でのドロップアウト(→従来のドロップアウト)
・ゴールライン地点でのドロップアウト(→ゴールラインドロップアウト)

私は、これら2種類のドロップアウトの効果を、次のように整理している。
ドロップアウトをする側にとっては、22メートルドロップアウトの方が有利である。ゴールラインドロップアウトの方が不利である。なぜなら22メートルドロップアウトの方が、より敵陣に近い位置で蹴ることができるからである(当たり前だ)。またゴールラインドロップアウトには、下手をすると、直後に相手にドロップゴールを決められるおそれもある。

ゴールラインドロップアウト

この記事の目的は、観戦者の立場から、プレーが切れたときに、次の再開方法が「通常のドロップアウト」になるか「ゴールラインドロップアウト」になるか、を見分ける方法を紹介することである。

競技規則によれば、ゴールラインドロップアウトになる場合は3つある。これは競技規則の「12 キックオフと試合再開のキック」の12項に整理されている。

その他の試合再開のキック(ドロップアウト)
12. 以下の場合、ゴールライン地点でのドロップアウトによってプレーが再開される:

以下、aからcまで3つあるが、ワールドラグビーのウェブサイトの日本語版には誤訳があるのではないかと思われるため、英語版から引用する。

a. The ball is played or taken into in-goal by an attacking player and is then held up, grounded or otherwise made legally dead by an opponent.

攻撃側プレーヤーによってインゴールに持ち込まれたボールが、相手によって①ヘルドアップされる、②グラウンディングされる、③デッドにされる。これらの場合、ゴールラインドロップアウトにより再開する。
これは大きな変更だ。
上のような場合、かつては攻撃側ボールの5メートルスクラムで再開したはずだ。攻撃側にとってはトライ獲得のチャンスが続く。ところがゴールラインドロップアウトで再開することに変わった。トライラインは遠のく。これにより攻撃側は安易にインゴールに突っ込めなくなった。とりあえず突っ込んで、もしヘルドアップに終わったら、もう一度スクラムから突撃するチャンスが与えられる、ということがなくなるからだ。
ところが、ならばこの新規則によって、攻撃側が無理に突っ込むことを回避するようになったかと言えば、あまりそのようには見えない。従来通り突っ込んで行ってヘルドアップになってゴールラインドロップアウトになる、というシーンが珍しくない。

b. An attacking kick, other than a kick-off, restart kick following a score, drop goal, drop-out or penalty attempt, is grounded or made dead in in-goal by the defending team.

攻撃側のキックが相手インゴールにおいて防御側チームによって①グラウンディングされる、②デッドにされる。この場合、ゴールラインドロップアウトにより再開する。ただし、キックオフ、リスタートキック、ドロップアウト、ドロップゴールを狙ったキック、ペナルティゴールを狙ったキックを除く
要するに、オープンプレーでキックを蹴り過ぎた場合である。この場合、かつては22メートルからのドロップアウトで再開したのではないかと思われるが、ゴールラインドロップアウトに変更されている。つまり、相手が蹴り過ぎたボールが自陣インゴールに到達したとしても、防御側にはそれを拾い上げてプレーを継続するよう促されているということだ。安易にタッチダウンしてプレーを切ることをさせないためか。見ている分には楽しいが、プレーする選手は大変だろう。

c. An attacking player knocks on in the opponents’ in-goal.

敵陣インゴールでノックオンした場合だ。かつては相手ボールの5メートルスクラムで再開していたが、ゴールラインドロップアウトに変わった。故意にノックオンする選手はいないだろうが、前項と同じく、インプレーの時間を長くする意図があると思われる。

以上の通り、ゴールラインドロップアウトになる場合には3つある。噛み砕いて言えば、
(a)攻撃側がインゴールにボールを持ち込んだがグラウンディングできずにヘルドアップ等に終わった場合
(b)相手が蹴り過ぎたボールをタッチダウンした場合
(c)攻撃側がインゴールでノックオンした場合

では、22メートルから行う従来のドロップアウトになるのは、どのような場合か?

Other restart kicks (drop-outs)
11. Play is restarted with a 22-metre drop-out when an unsuccessful penalty goal or dropped goal attempt is grounded or made dead in in-goal by the defending team, or the ball goes dead through in-goal from one these attempts.

簡潔に言えば、ゴールを狙ったキックが成功しなかった場合である。
すなわち①ペナルティゴールを狙って成功しなかったキックの、あるいは②ドロップゴールを狙って成功しなかったキックの(1)ボールを自陣インゴールにタッチダウンした場合、(2)ボールを自陣インゴールでデッドにした場合、(3)ボールが自陣インゴールを通過してデッドになった場合である。これらの場合は22メートルラインの地点からドロップアウトすることができる。

なお、オープンプレーで蹴り過ぎて相手インゴールを通過してボールがデッドになった場合、通常は蹴った地点に戻されて、蹴らなかったチームボールのスクラムで再開する。通常はこの選択がなされる。しかしこの場合、蹴らなかったチームは22メートルドロップアウトで再開するという選択も規則上は可能なことを書き添えておこう(「21 インゴール」の11項a)。

以上を理解すれば、W杯の残りの試合を、よりスッキリした気持ちで観戦できるだろう。

(参考)


関連する記事

いいなと思ったら応援しよう!

井川夕慈
いつもありがとうございます。賜りましたサポートは、活動継続のために大切に使わせていただきます。