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小説『ソイレント・グリーンの、あれ。』 安楽死施設の実現可能性を探る

井川夕慈のKindle電子書籍『ソイレント・グリーンの、あれ。』より一部を抜粋して紹介します。


01

 部屋の中が明るくなった。
 事務所兼宿泊所として使用しているホテルのデラックス・ツインの部屋。その大きな白い壁に、プロジェクターで投影されていた映像が静止した。
「これの実現方法を検討してほしい」
 オヤジの野太い声が響いた。
 先ほどまでプロジェクターで投影されていた映画のメディアのパッケージを手にとってみる。
 タイトルは『ソイレント・グリーン』。
 ジャケットの背景には、話の中に出て来た大型ダンプカーのショベルが、ちりめんじゃこのように小さく見える民衆をすくいあげているイラストが描かれている。
 製作は一九七三年。今年は令和一二年の二〇三〇年だから、今から五七年前の作品だ。随分と古い。

「要するに、高齢者の安楽死施設を実現する方法を探れと――。その理解でよいですか?」
「イエス」
 オヤジには、質問に対して短く「イエス」「ノー」で応える癖がある。以前、民間企業で働いていたときに米国に赴任した経験がそうさせるのだろう。慣れないと耳に冷たく響くが、明解この上ない点はありがたい。
「高齢者がふらりと立ち寄って、さっと安楽死させてくれる所?」
「イエス」
 オヤジの斜め後ろに控えて立っている公設秘書の藤木を見ると、兄貴分にあたる長身の男は、無言のまま両方の眉を軽く上げてみせた。
「期限は?」
「一一月いっぱい」
 今日が八月の二〇日だから、与えられた時間は三月ほどか。
「この映画の『ホーム』を実現する方法。法案要綱案まで出来ると、なおよい」
 ダメ押しするようにオヤジが言った。
 断るという選択肢は無い。


(続きはKindleでお楽しみください。)


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井川夕慈
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