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国会だョ!全員集合――子ども・子育て支援金制度はこうして始まった。#00 目次

はじめに

 2024年6月5日、子ども・子育て支援金制度を創設する法律案が成立した。
 2026年4月から、支援金の徴収が開始される。

 私は驚いた。
 こんな訳のわからない仕組みが認められるはずはない、と思っていたからだ。

 そして絶望した。
 選挙がないと多数決で何でもできてしまうのか、と。
 年金・医療・介護の保険料を他に流用する余地はない、と厚生労働大臣の加藤勝信が発言していたのは一年前のことだ。
 ところが翌年、それは〝新たな保険料〟という思いもよらない形で実現した。(岸田政権は「新しい資本主義」の実現を掲げていたが、実現したのは「新しい社会保険料」だった。)

 それから疑問が生じた。
① 政府はいかにして、この無理筋とも思える制度の導入を成し得たのか。
② 国会が私たちの集団的意思決定の場であるとするならば、私たちはどのような選択をしたことになるのか。

 これらの点を明らかにするために、国会における具体的な質疑と政府答弁を振り返りつつ、論点を体系的に整理してみたい。


総括

政府の説明・私たちの選択

補論

1 支援金はなぜ社会保険料になったか

2 社会保険ルートの活用はいつ仕込まれたか


国会質疑

(趣旨)
01 加速化プランを支える安定財源の確保策として、社会経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で広く拠出いただく仕組み
(目標)
02 結果として出生率が向上していくことを目指してまいります
04 あらゆる方々に影響するから、価値観等の押しつけには当たらない
(効果測定)
03 施策の効果は、それぞれの施策の目標や指標で判断する
(財源総論)
05 財源は、その時々の社会経済状況を踏まえ、適切に選択されるべきものである
06 徹底した歳出改革などにより確保することが国民の理解を得られるだろう
(徴収方法)
83 医療保険者に医療保険料と併せて徴収していただくこととしたのは……
84 賦課対象者の広さの点から医療保険制度とすることが考えられるとの御意見を頂戴しました
(負担配分)
07 総額を、医療保険者ごとに按分し、各医療保険制度ごとの賦課方法により算定する
08 個々人の拠出額は、加入する医療保険制度や所得によって異なる
09 令和三年度の医療保険料額の四から五%と見込まれる
(支援金と医療保険料との関係)
25 これはあくまでも保険料とは別のものであり……
26 医療保険と支援金は全く別のものであり、併せて徴収するということであって、医療保険料を流用するというものではない
30 義務的に明記する事項と定められているものではありませんが
31 内訳をどこまで示すかにつきましては事業主の判断に委ねられている
(支援金の性格)
10 支援金は保険料として整理される
23 社会保険制度は社会連帯の理念を基盤として共に支え合う仕組みでございまして
11 学習院大学長「あれは保険ではなく、あくまでも保険の徴収システムを使っている徴収制度だ」
12 保険という言葉を使うと、子供を持つことが、よくないことだととらわれないか
13 社会保険上の保険給付という構成ではございません
14 給付の在り方は時代に即して変わってきている
(保険料としての反対給付性)
15 様々な給付や事業に充てられる国民健康保険料について憲法八十四条(租税法律主義)が直接適用されないと示しておりまして、支援金もそれと異なるところではない
16 医療保険の保険料全体としての反対給付性が失われるものではない
17 最高裁が全体としての判断をされましたので、私どもも、全体で判断するということでよろしいかと
(保険料の使途の適切性)
18 健康保険制度の持続可能性を高めるといったような大きな意味での受益がある
20 例えば経済成長戦略は、医療保険制度の存立基盤にとって重要な受益に私はなると思いますよ
21 支援納付金を充てる事業は、医療保険制度を活用してお願いするということの意味の中で、吟味した
76 後期高齢者医療制度を持続的なものにしていくという御趣旨を何とか理解していただきまして……
22 危機的な状況にあるから、拙速であるというふうには考えておりません
(支援金と医療保険制度との関係)
27 完全に軒先を借りて徴収を代行していただくというものとは若干異なる
28 支援金は健康保険法の目的の範囲内であり、改正は不要である
(支援金と他の社会保険制度との関係)
24 社会保険料については、各制度の目的に沿った形で、それぞれの制度において徴収されていく
(子ども・子育て拠出金の位置づけ)
19 子ども・子育て拠出金は、税でも保険料でもございません
29 子ども・子育て拠出金を廃止することは考えておりません
(「若い世代の所得を増やす」手段)
41 子ども・子育て政策の範疇を超えた大きな社会経済政策として賃上げ等に取り組む
39 所得の向上については、こども庁単独で実現できるものではない
(所得向上と子ども・子育て支援の関係性)
32 賃上げなどで可処分所得の向上に取り組みつつ、子供、子育て政策の抜本的強化と両立を図っていくこと、これがより適切な対応である
40 子ども・子育てに対してどれだけ支援が充実しているのか、それをしっかり示すことが将来結婚する際の見通しにつながる
(負担構造の適切性)
86 支援金は、子供、子育て世帯にとって大きな給付の充実につながるものだから、少子化対策に反するとの指摘は当たらない
33 全世代で支え合うという形をつくることができますので、現役世代にしわ寄せをしない
35 再分配効果というのはむしろ社会保険についてもきちんと図られている
36 支援金は、逆進性が強まるとの御指摘が当たるものではなく、適切に所得を再分配する仕組みだと考えております
37 全体として実質的な負担は生じないこととしております
(「若い世代の所得を増やす」との整合性)
38 支援金制度が賃上げを阻害する、こういったことにはならない
52 支援金の拠出によって非正規雇用を増加させるとは考えておりません(「実質的な負担は生じない」の意味)
46 歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で構築する
47 歳出改革と賃上げによってスペースをつくり、そこに支援金を構築する
51 千四百円分を頑張ったので、この千四百円を支援金として子育て支援に使えるようにする
54 これまで拠出をいただかないという形で国民の皆様に還元されていた歳出改革と賃上げによる軽減分の範囲内で子育て世帯のための新たな政策を実現をする
85 これまでの社会保障改革の果実とこれからの社会保障改革の果実は、使い方の思想が変わるのではないか
69 歳出改革の徹底はこれまで以上のものとなります
(社会保障負担率)
48 支援金制度の導入のために社会保障負担率が上昇することにはならない
50 高齢化等により社会保障関係費が年々増加していることに伴って、保険料負担が上昇することはあり得ます
53 賃上げの成否ですとか、あるいはその負担軽減の効果といったものを当てにしているというものではありません
(歳出改革)
55 歳出改革については、昨年末に閣議決定された改革工程に沿って進めることとしております
56 歳出改革の具体的な内容は毎年度の予算編成過程において積み上げていくこととしておりまして、現時点でお示しすることは難しい
57 具体的な項目はかなりきちんと整理されているわけであります
58 歳出改革が進まないという事態を想定しているものではございません
64 社会保障関係費以外の経費を対象とする歳出改革につきましては、防衛力強化のための財源として整理されている
(社会保険料以外の負担)
63 社会保障負担率を計算する際の分子には、医療や介護の窓口負担は含まれていない
59 歳出改革を通じて、一定の負担が増える世代層というのが特に高齢者層に出てくることは御指摘のとおり
60 若い世代だけに負担を増やすのではなくて……
61 メニューからどれを採用するか、これについては今後も議論を続けてまいります
62 必要な保障が欠けることがないように進めていかなければならない
(社会保険負担軽減効果の算定)
87 夏に示される概算要求基準の中で、いわゆる自然増につきましての額が示されまして……
65 報酬改定における賃上げ加算部分は、全体の賃上げによって雇用者報酬が増加することで、全体としては実質的な負担にはならない
66 雇用者報酬の増加率が上昇することを通じて生じる社会保険負担軽減効果も踏まえまして、控除することとした
67 今回は控除をさせていただいているところでございます
49 支援金と歳出改革は相殺され、そして、医療・介護従事者の賃上げと雇用者全体の伸び、これが相殺されて、かつ余力ができる
68 賃上げがあればそれも寄与いたします
(負担の公平性)
42 現行の医療保険制度に一定の合理性があるという前提でいえば、この支援金も一定の合理性がある
34 医療保険制度はこの三つ(保険料・公費・自己負担)のバランスから成り立っておりまして
43 私どもとしては、一定の範囲内に収まった四、五%であるという評価をしてございます
44 現時点で、市町村における支援金について一概に申し上げることはできません
45 負担能力がある方は軽減効果も大きくなるから、支援金によって格差が広がるという御指摘は当たらない
(事務コスト)
70 どのような経費がどの程度必要であるかを整理した上で、その手当てについて検討をしてまいります
(社会保険料控除による税の減収効果)
71 現在把握できている情報だけで試算をすることは困難であります
72 社会保険料控除等の増加による影響だけを取り出してお示しすることは適当ではない
(2029年度以降の支援金)
73 政府が支援金の総額や使途を勝手に増加させられるものではない
74 今後のことについてはもちろん決めているということではございません
75 子供の数が残念ながら当面増えていくということがちょっと考えにくいということがありますので……
(緊急声明・野党の反対討論)
77 経済団体、労働団体、医療保険者、学識経験者等にお集まりをいただいた大臣懇話会において御意見を頂戴した上で、政府案を取りまとめてございます
78 反対する最大の理由は、子ども・子育て支援金制度に関して、多くの重大な問題があるからです
79 少子化を加速させることは疑いようのないことです
(野党の財源案)
80 子ども・子育て支援金に代わる財源として、ETFの分配金収入の活用を提案いたします
81 国会議員の定数の削減、行政改革による支出の削減、国の不要な資産の売却等……
88 ETFの分配金収入については、国の一般財源として既に活用されているものでありますから、これをもって財源と考える余地はない
(法案成立後の動き)
82 子育て支援金の保険料の追加、1兆円は停止し、新たに捻出した財源で対応いたします


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井川夕慈
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