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トルストイ『戦争と平和』第一部第一篇 感想文

難しい小説だった。冒頭から、帝政ロシアの貴族たちのパーティでの会話がずーっと続き、そのうえカタカナ文字の新しい人物がどんどん登場してくる。巻頭の「『戦争と平和』の系図」と「登場人物紹介」を何度確認したかわからない。たぶん仕事が忙しい状態だと私は読めなかっただろうと思う。しかし、読み進めていくうちに、時代背景、人物が置かれている状況と彼ら(特にピエールとアンドレイ)の思想が徐々に理解できるようになってきた。 世界史の授業で必ず習うフランス革命とナポレオンだが、教科書に書いてあ

    • スタインベック『怒りの葡萄(下)』感想

      この作品は労働問題と家族という二つの層を持っている。そしてこれらを束ねているのが、「団結」というテーマである。 作中で説明があったように、大農園主・銀行・会社などを持つ資本家は労働者を搾取してきた。果物の価格を操作し中小の農園主から農地を手放させ、どんどん規模を拡大した。そしてアメリカ中央部にビラを撒き何万もの失業者を西部に移動させることで、季節労働者の労働価格を大きく下落させた。当時はこのような搾取から労働者を守る法律はなかった。できることは労働者同士で団結することだけな

      • スタインベック『怒りの葡萄(上)』感想文

        まず、率直にとても面白かったです。トムが出所してトラックに便乗するところまでは何の話かわからずちょっと退屈でしたが、第5章でいきなり視点がかわって小作人がトラクタに逐われるエピソードから一気に作品の世界へ引き込まれました。この小説はジョード一家の物語がメインですが、当時のアメリカの情勢がわかるようにこのような視点変更が入っているおかげで飽きずに読めたように思います。 私の印象に残っているのは、土地から追い出された何万もの人々が車で66号線で西部に向かう際に、自然と集団での野営

        • 井伏鱒二『黒い雨』感想文

          井伏鱒二『黒い雨』感想 この小説は重松が原爆投下から終戦までに体験したことを記した「被爆日記」のパートと、矢須子の闘病を描いたパートからなる。「日記」では原爆による被害が事細かに書かれているのに対して、もう一つの部分では矢須子という一人の女性を丁寧に描写している。前者だけでは人間描写が足りず、後者だけでは原爆の悲惨さが伝わりきらない。これらがとてもバランスよく配置されるおかげで、これだけ長い間多くの人々に読まれ続けているのだと思った。 私の印象に残ったのは、重松が会社に着

          小林多喜二『党生活者』感想文

          あらすじ共産党の党員である佐々木はプロレタリアート解放という大義名分のために、須山と伊藤などの仲間とともに工場で党活動を行っている。当時は共産党の活動が危険視され、警察に見つかれば牢屋で拷問が待っているという厳しい時代だった。労働者は工場で長時間にわたって低賃金で働かされ、そして資本家の都合でいつでも首にできるという弱い立場に置かれていた。労働者の団結を試みようとしても、大っぴらにやると警察に見つかるし、隠れてやれば今度は体制派の活動家に邪魔をされる。だが、工場で大量解雇が行

          小林多喜二『党生活者』感想文