特集フィリピンヒップホップの最前線(2) ーなぜローカルヒップホップが見下されてきたのか

■概要
フィリピンのヒップホップ界で、最も革新的な 8 組について、Philippines Bilboard がインタビュー動画を公開。Hev Abi、Felip、Tus Brothers、O Side Mafia、Zae、PLAYERTWO、Illest Morena、Hellmerryがシーンの将来について語っている。

※ちなみに座り順は
Felip/Hellmerry/ Hev avi
PLAYERTWO/ tus brothers/
O Side Mafia/Illest Morena /Zae

筆者はタガログ語がぎりわかる程度で、音楽に至っては完全な門外漢ではあるが、需要あるところに届いて楽しんでいただくことを祈りつつ、この動画で紹介されている内容をざっくりまとめていく。

第二回目の今回は、インタビュー28分目からの内容です。

■ヒップホップは最も影響のあるジャンルであるにもかかわらず、フィリピンのローカルヒップホップは軽視される傾向にあります。なぜなのか、そしてどうすれば変えられると思いますか。

-Morena
「ほんの少しだけ政治的になりますが、ローカルヒップホップへの嫌悪は階級的差別の残りでもあると思います。ヒップホップは貧困層出身のアーティストも多いですから。基本的にフィリピンでは「洋楽」が好きな人は多いです。そういう人は、タガログ語ヒップホップを聴くと思ってしまう、単なるjejemon*だって。
ローカルヒップホップを嫌っている人は、心の奥底に少し自己嫌悪があってそれを取り除けないんだと思います。でもほんとは彼らだって、タガログの歌も聞いてるんですよ。他人に「こういう曲に共感を抱くってことはこのひとはこういう人なんだな」って先入観を持たれたくないからこっそり聞いてるんです」

*jejemon フィリピンの大衆文化現象で、もとはショートメッセージで使われる独特の略語を指していたが、スマホの普及で徐々に使われなくなり、徐々に定義が軽蔑的な意味に移行。もとは、独自の言語と文章だけでなく、独自のサブカルチャーとファッションを開発した新しいタイプのヒップスターというイメージだったが、いわゆるyoyoyo~と呼ばれるフィリピンの低所得者層を表す言葉にとってかわった。2017年代には偽造スケートボードやブランドを着用した若者の、2020年代には、黒いシャツ、茶色のパンツ、ジョガー、ギャングスタヒップホップをテーマにした服を着ているイメージが定着した。

-Zae
「コロニアルメンタリティ**も深く関係していると思いますね。フィリピンではみな英語を理解しますから。またそれ以上に、多くの人がタガログより英語を好んで聞きます。本当に聞いている人とのギャップがあると思います。タガログ語のラップが必要ですし、サポート体制も必要です。もっと年齢が上の世代にも、なぜそれが大事なのか、どのようなものなのか、なぜこういうトレンドがあるのか、知ってもらう必要があります。そうすれば地元のラップアーティストの支援にもなりますし、上の世代にも知ってもらえると思うので」
*植民地化を結果として押し付けられ内面化された民族的・言語的・文化的劣等感の複合体。

-Felip
「フィリピン人の頭の中でスタンダードなのは洋楽です。「これが音楽だ、私たちの音楽だ、あなたたちのは聞かない、だってフィリピン人じゃん」って。僕自身も西洋の音楽に大きく影響を受けていまし、昔はローカルは聞きませんでした。いまは本当にローカルなものに感謝してます。SNSでたくさんチェックできますしね。何でしょう、ここで使うべき専門用語は...フィリピン語で…フィリピンの音楽はもっと国際的なシーンを目指していけると思います。例えばスポーツでも。フィリピン人がもっとできるって証明できる。すみません個人的な意見ですが」

-Hellmerry
「我々は人間ですから違う意見があるのは当然です。でもそのルーツがなんなんか探すことはできます。フィリピンヒップホップって何なのか、それを知るためにほかの国のヒップホップ、例えば日本の人とかは「この音は何だ?」とか研究することもあるでしょうし、もうすでにそういうことは存在していると思います]

■グローバルな市場に展開するための一歩とは何か
-Illest Morena
「もっとユニークになるために自分たちのアイデンティティを探す必要があると思っています。私は有罪です。ここにいるみんなの多くもそうかもしれませんが、私たちのほとんどが西洋の影響をいまだに受けすぎているから。言語のことはいったん脇に置いといたとしても音楽性についてどう分離できるのかは難しいですよね。卓越して「これがフィリピンヒップホップか!」といわれるためには自分たちのアイデンティティを探してユニークでなければいけない。「あ~アジアのヒップホップっぽいね~」とかじゃなくて」



■小括(全く不要な個人的感想)

英語の普及率が高いフィリピンだからこそ精神的にも社会的にもローカルヒップホップを胸を張って「かっこいい」というには、SEAの国々の中でもハードルが高かったということがよくわかりました。

母語を自分たち自らが「ダサい」と思わざるを得ない状況が周りから固められてるのは相当きつくて、打ち破るには相当の認識ロックを外さないといけないわけですよね。


みんな分かっていることでも、それを言語化してみんなの前で分かりやすく説得力を持って伝えるってめちゃくちゃ難しいじゃないですか。

だからこそこんな大きなメディアでその状況をアーティスト本人たちがそれを「言語化」しているのはめちゃくちゃすごいことだと思いました。

彼女がローカルヒップホップ嫌悪を「自己嫌悪」に近いと聡明にかつ勇気をもって発言したあと、仲のいいZaeがそれにかぶせて「(単に若い世代だけで分かり合うのじゃなくて)タガログ語で歌う意味が上の世代にも正しく伝われば、彼ら自身もコロニアルメンタリティを越えられることにもなるかも、私たちはそういうことをやっているって理解してほしい」、と言っていて訳しながらぐっときました。差別したほうも救うつもりなんだ...sugoi

ワールドミュージックとかアジアンヒップホップとか言わせない、という意思がオリジナリティと長く向き合って戦ってきたフィリピンだからこそって感じでした。

インタビュー中にも日本や中国のHiphopの人たちからめちゃくちゃ連絡が来ると言っていて、2011年のころから現場ではもうつながりができているんだろうな、と思うと今後が楽しみで仕方ありませんね。

ひきつづきたま~に現地に潜伏しながら様子を見守り多と思います。

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