SF創作講座2023非公式梗概「家電:祖母搭載」
裏SF創作講座への投稿を目的とした、SF創作講座の非公式梗概です。
形式や文字数上限はSF創作講座2023に倣っています。
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裏SF創作講座
投稿が間に合わなかったのですが、一応ここに置いておきます。
第4回テーマ:
「最新技術をテーマにSFを書いてみる」
梗概
「家電:祖母搭載」
学校から帰ると、リビングから死んだ祖母の声がする
「だいちゃん、おかえりぃ」
円盤型の自動掃除機が僕の足元までやってくる。高校生の僕を祖母は小学生のころのあだ名で呼ぶ。
AIと合成音声の組み合わせにより、近年では死者を再現することが可能になった。映像や文章をAIの学習素材として、故人の思考と性格を生成。それを合成音声に喋らせることで、死者が話しているように見せかける技術だ。
故人を再現するボディは長年にわたり製造できなかったが、数年前に家電メーカーが死者AIを家電に搭載。故人の思考に従って従来のプログラムより効率よく家事を実行し、会話にも応じてくれる。
僕はこの技術を、奴隷を生み出す技術だと思っている。
オール電化の我が家で、祖母はあらゆる家電に次々移動する。エアコンで部屋を冷やし、テレビを点ける。料理は人の手がいるから僕も手伝う。米を研げば炊飯器に移った祖母が米を炊く。
「だいちゃん、ひとりでえらいわぁ」
褒めながら、祖母は昔話をする。
「だいちゃんは昔から元気やったわぁ。海行ったときは、ばぁちゃんの腕引っ張って、波のぎりぎりをずっと走ってってなぁ」
もう何年も、海には行けていない。
湯沸し器を祖母が起動させ、祖母が電気を消して僕の一日は終わる。
今日も両親は帰ってこなかった。
一人ぼっちの僕のために、両親はうちの家電に祖母を搭載した。
不満を募らせた僕は、掃除機の祖母に打ち明ける。
「ばぁちゃん、辛いとかないの」
「ないない、近くでだいちゃんの顔、また見れとるし」
「本当のばぁちゃんならそんなこと言わない」
「なんでぇ」
「ばぁちゃん、いじめられてたでしょ」
晩年の祖母は両親から冷遇されていた。認知症が進行し、仕事で忙しい二人には負担だったのだろう。ボケの兆候が見えた直後、祖母はすぐに老人ホームに入れられ、亡くなった。
そんな祖母を、両親は家に呼び戻した。僕の世話をさせるために。
奴隷以外のなんでもない。
この祖母が本当に祖母かという問題以前に、呼び戻して使役していること自体に腹を立てていた。
「ばぁちゃんをさ、解約しようと思ってる」
僕が告げると、祖母はこう返した。
「最後に海、行きたい」
次の休日、僕と掃除機の祖母は海にいた。
AIの戯言だと切り捨ててもよかったが、無視しようとも思えなかった。
波打ち際を掃除機が走る。「防水やから」と祖母は言うが、僕はずっと注意を払っていた。
「だいちゃんも、もう大人やんもんな」
海を走りながら、祖母は切り出す。
「うちの機械にばぁちゃんを入れるよう頼んだのは、ばぁちゃんなん」
認知症が進行する前、死者搭載家電のニュースがあった。祖母は自分の死後、僕のそばにいられるよう両親に頼んだという。
「値段も高いのに、パパとママはわかったって言うてくれたん。だから、あの二人を責めんであげて」
さざ波の音が懐かしい記憶を蘇らせる。
足元を進む掃除機を見て、本当に祖母みたいだと僕は初めて思った。
(1198字)
アピール
ジュリエット・カズ『葬儀!』という本に、日本の「お弔いロボット」が取り上げられていました。死者の声を発するロボットで、49日が経過すると自動停止するそうです。
AIと合成音声による死者の蘇生、そして「それをより日常的に感じるためには」と考え、最終的に「家電の中に機能として搭載しちゃうのがいいな」というところに落ち着きました。
ただ死者を蘇生させるのはいいとして、それが便利という段階までくると、まるで死者を使役しているように感じてしまうのではないでしょうか。
そういうところを含め、進歩した技術と倫理観が交錯する一幕をストーリーに仕立てました。
実際に執筆する際は、ほのぼのした雰囲気と不穏さを交えたトーンで書きたいと思います。
躍動する祖母AIをコミカルに書いて家電との不思議な共同生活も描写しつつ、主人公の憤りが軸にあるような作劇を目指します。
ラストはドラマティックに決めたいですね!