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“THEE MOVIE” -LAST HEAVEN 031011-』

追悼上映に行ってきた。

あの日から自分の中の空っぽがなくならない。底が抜けてしまったような喪失感の中で、ずっとThe Birthdayを聴いている。あの嗄れ声を流し込んでも流し込んでも埋まらない穴が空いている。

実はTMGEはリアルタイムでは追ってなかった。散々ロックやパンクを雑食で聴き漁ってたのに何故か手が伸びてなかった。はじめてまともに聴いたのは解散後だ。たまたま入った中古CD屋でCult Grass Starsを見つけて、ああそういや聴いたことなかったな、と手に入れて打ちのめされた。何で聴いてこなかったんだろう、その日から爆音エンドレスで聴き続けた。世界の終わりのMVを観て、ああここは多分俺が知ってる風車だ、廃墟になったあの風車だ、あそこでロケしたんだ、そう思うとあの風景が脳裏に甦った。そういえば幼馴染のお父さんがまだ営業していた頃のあの風車で働いていたのだった。その幼馴染ももういない。20年近く前のクリスマスイブに、今晩サンタさん来るかな、そう言って小さな子供と奥さんとベッドに入って、そしてひとりだけ目覚めなかった。過労だった。酷い話だ。

ROSSOが活動している頃、相次いで両親を見送った。後始末をして身の周りを整理して、拠点を大阪に移した時にはThe Birthdayの1stが出ていた。なのにここでも何故か手を伸ばし損ねた。この頃はずっとBlankeyばかりだった。新しく就いた仕事では社用車であちこちに出かけることが多くて、朝から晩までBlankeyをかけていた。同乗している同僚や後輩がうんざりしていても知ったことじゃなかった。だからずっとハンドルを離さなかった。

アベフトシの訃報を知ったのは仕事中だっただろうか。もうあまり覚えていない。ふと開いたネットニュースで見たのだと思う。近頃の訃報はいつでもネットの海からやって来る。その日は手持ちのCDを爆音で聴いて、多分いつもよりたくさんのビールを飲んで寝た。世界の終わり。リリィ。リボルバー・ジャンキーズ。ゲット・アップ・ルーシー。トカゲ。スモーキン・ビリー。そしてDo the Boogie。Do the Boogieのカッティングはいつでも鳥肌が立つ。臓腑を掻き毟られるような快感。

結局The Birthdayに行き着いたのはその頃だ。アルバムを重ねるごとに鋭利に尖っていた嗄れ声は少しだけ角が取れて、佇まいに貫禄と枯れた余裕が生まれて、樽の中で熟成していくスコッチみたいだな、と思った。こんなにカッコよく歳を重ねていく日本人ロッカーを今まで知らなかった。2つ歳上のロックスター。同じ国で同じ時代を生きている同世代がこんなにカッコよくいられるということが堪らなく嬉しかった。アルバムを買い揃えていくうちにギターが代わって、少しキャッチーでメロウな曲が増えて、でもそれがますます堪らなくて心臓を鷲掴みにされていった。映画のワンシーンみたいな詩。時に荒々しくシンプルで、時に死ぬほど美しいメロディ。その上に乗せられる嗄れたあの声。耳の奥で、心臓の中でずっと鳴り響いているロックンロール。ROKA。くそったれの世界。青空。涙がこぼれそう。アリシア。さよなら最終兵器。レボルバー。FLOWER。OH BABY!。愛で塗りつぶせ。オルゴール。大好きな曲ばかりだ。でももう新しい音は聴けない。新しいメロディは生まれない。寂しいけれど。

結局一度もライブに行けなかったなあ。



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