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カレーの本の思い出

子供のころからカレーが大好きでした。私のカレー作りは母親の作るS&Bゴールデンカレーの玉ネギ炒めを手伝うところから始まりました。
高校生の時、初めてカレーのレシピ本を買いました。グラフ社の『カレーライス』(河野貞子著)です。銀座の「アショカ」をこの本で知り、油脂や生クリームをふんだんに使うレシピに驚き、作ってみようとしたら油脂の量を見た家族からストップをかけられました。ならば食べに行きたいと思いましたが、アショカは高級店でとても手が出ませんでした。著者オリジナル?だったひき肉とナスのカレーが気になり、夏休みのパジャマパーティーで友達にふるまいました。カレーにナスとひき肉を使うなんて、今では定番ですが、この時初めて知りました。

同じころ、なぜか父がカレーのお店がたくさん掲載された本を買ってくれました。それが『人生の気付け薬!!みんな大好き!!カレーライスの本』(全日本カレー愛好会著・双葉社)です。新書サイズの厚い本。この本を片手にいろんなお店に食べに行きました。お店紹介や著名人(阿佐田哲也さんや三遊亭楽太郎さん、遠藤賢司さん)のカレー作りが独特の話し言葉で書かれていて、文章はあまり好きになれませんでしたが、載っているお店はすごかった。当時まだ九段にあった「アジャンタ」、神保町の「共栄堂」や渋谷の「ムルギー」、上野の「デリー」、新宿の「モンスナック」あたりはみんなこの本で知りました。大学受験に失敗して涙目で食べた早稲田『夢民』のカレーは忘れられません。思えばこの本は、当時の”カレーカルチャー”を伝える本でした。

社会人になってから食べ歩きのお供になったのが『東京カレー食べつくしガイド104/380店』(小野員裕著・講談社)。この本にもずいぶんお世話になりました。小野員裕さんの当時のカレーについての考察もうなづきながら読める1冊でした。私は今でも一人でお店に入って“孤独のグルメ”するのに全く抵抗がないのですが、それはこれらの本のおかげです。

そして、当時流行っていたグルメマンガ『美味しんぼ24巻 カレー勝負』(雁屋哲原作・花咲アキラ画・小学館)の登場です。ここでインドやスリランカの現地のカレーについて知り、作品中に登場したレヌ・アロラさんのインド料理学院の門をたたくことになります。先生の企画するインドツアーにも参加して、マンガに登場するお店に実際に連れていっていただきました。ここで知り合った友人たちとは今でもインド料理を食べに行きます。私のカレー食べ歩きが“孤独のグルメ”から抜け出せたのはこの漫画のおかげともいえます。

アロラさんの教えるインド料理は先生が日本のインド料理教室の先駆者として工夫を重ねて作り上げた味です。アロラさんと出会うまで、豆のカレーは美味しくないと思っていましたが、インドの多彩な豆料理を教えていただき、大好きになりました。レシピ集は写真や装丁が美しく、当時インド料理のレシピ本はまだ数えるほどしかなかったこともあって貴重でした。

この頃、都内にインド料理店がどんどん増えてきて、いろんなお店に行きましたが、インドで食べたサンバルやラッサム、チャパティは日本のインド料理店では食べられない。というか、なんで日本のインド料理店は同じようなメニューばかりなんだろう・・・というもどかしさを抱えだしたところで出会ったのが、

『誰も知らないインド料理』(渡辺玲著・出帆新社)でした。こちらはほとんど写真のないレシピ本。字、また字。でもコツやスパイスを加えるタイミングや火加減が詳細に書かれていて、むしろ写真を見るより作りやすい。何より渡辺さんの日本のインド料理店論は、当時の私のもどかしさに光を当ててくれる内容で感激しました。友人たちと渡辺さんの料理のトリコになり、なんとか直に学びたいとお願いし、自分達で公共施設の調理実習室を予約して教えていただきました。今は南インド料理を食べられるお店が増えて隔世の感があります。が、そんなお店でもドーサやサンバルを無視してナンとバターチキン(両メニューを否定しているわけではありません)を注文している人をたくさん見かけるので、ついイラッとしてしまう自分がいます。

同時期にガイド本としてよく眺めていたのが『OYSYカレー』(柴田書店MOOK)。紹介されている店のカレー作りの段取りがチャート図で示されていてわかりやすい本でした。それから浅野哲哉さんの著作。『インドを食べる』が有名ですが私はこちらの『風来坊のカレー見聞録 アジャンタ九段店の調理場から』(早川書房)が大好きです。アジャンタの調理場の様子がイキイキと描かれていて、ここに登場する方々はインド料理界ではきっとそうそうたる方々なのですが、とにかく電車で読んでいると自然とニヤニヤしてしまうので困りました。

あとは『ネパール家庭料理入門』(山田英美著・農文協)。去年『ダルバートとネパール料理』が出版されるまで、私が知る限りでは一般書店で買えるネパール料理の専門書はこの本一択でした。スープの素を使ったり「?」と思う箇所がありますが、大好きなネパール料理を活字で伝えてくれる貴重な本でした。

まだまだ書ききれませんが、このあたりにしておきます。

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