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東海大四-九州国際大付 2014年夏の甲子園1回戦

東海大四(現・東海大札幌)といえば、大柄な選手が揃ってガンガン打ち勝つ野球、でも細かい野球は苦手。守備力も高くない。
かつては代々そういう野球をやっていましたが、2011年頃の3年生を最後に180度・・・とまではいかなくても、145度くらい方針を転換します。

大柄な選手は少なく、打線は非力。その代わり細かい野球が得意で、守備から崩れることは少ない。
以前の東海大四の野球を好む方にとっては寂しい限りでしょうが、この野球で甲子園を沸かせるのですから、方針転換は成功だったと言えるでしょう。

2013年の春季大会、札幌支部予選決勝を見るために、また私は札幌円山球場に足を運んでいました。
カードは札幌日大-東海大四。全道大会の準決勝や決勝であっても、全く不思議ではない組み合わせです。

札幌日大の先発マウンドは、前年夏の準優勝も経験している3年生エース右腕・白崎塁。DeNA・オリックスで活躍した白崎浩之のいとこでもあります。
一方の東海大四の先発マウンドは、背番号18の2年生右腕・西嶋亮太。3日前の2回戦・札幌龍谷学園戦でも先発しており、大脇英徳監督の秘蔵っ子だったのかもしれません。

その西嶋、2回までに5四死球を与えるなど苦しみましたが、そこからは制球力も改善を見せて9安打6失点で完投しました。
4回表には、翌年話題になる超スローボールを2球ほど投げていました(スローカーブかもしれません)。ただし1本はヒットを打たれていましたけど。

東海大四打線は13安打を放ちながら2得点と打線がつながらず、試合は2-6で敗れました。
西嶋は2年生にしてはそこそこまとまった良い投手という感想は持ちましたけど、まさか翌年あれほど有名になるとは、全く思いませんでしたね。

夏は南北海道大会準々決勝で、3回からロングリリーフした西嶋が終盤につかまり、函館大柏稜に延長10回サヨナラ負けを喫しています。10回裏は同点で1アウト3塁の場面で満塁策を採用しましたが、結果的には裏目に出てしまいました。

秋は全道大会準決勝まで駒を進め、駒大苫小牧戦は背番号15の1年生右腕・伊藤大海(のちに日本ハム)との投手戦となりますが、延長12回裏にサヨナラヒットを浴びて0-1で惜敗しました。

西嶋が3年生になった2014年の春季大会は、札幌支部予選決勝で、前年敗れた札幌日大を相手に8-1で7回コールド勝ち。
そのまま全道大会決勝まで勝ち進みますが、西嶋を温存した決勝戦は北照に3-4で敗れ準優勝に終わりました。

しかし夏の本命は東海大四。春を含めると2001年センバツ以来、夏は大脇監督がキャプテンだった1993年以来甲子園出場がありませんが、久々に期待が持てるチームを作り上げてきました。

春優勝の北照は小樽支部予選で小樽潮陵に2-9で7回コールド負けを喫し、センバツで1勝を挙げた駒大苫小牧は準々決勝で札幌日大に1-5で敗れて姿を消しました。
東海大四の向かうところに敵はなく、決勝で小樽潮陵を1-0で下して21年ぶりの甲子園出場を決めました。この時点ですでに、超スローボールを投げるらしいということは全国でも知られるようになっていたはずです。

対戦相手は九州国際大付(福岡)。
この年で若生正広監督が退任することが発表されていました。若生監督は東北高校を指揮していた2003年夏に、ダルビッシュ有らを擁して甲子園準優勝を経験したほか、九州国際大付を率いた2011年センバツでは三好匠(のちに楽天・広島)や髙城俊人(のちにDeNA・オリックス)らを擁して準優勝しています。

東海大四は前回出場時の1993年も東福岡に勝っていますが、同じ8月14日に同じ福岡勢の対戦ということで、大脇監督にとっては浅からぬ縁を感じていたようです。
九州国際大付は、以下の4選手がその後プロに進んでいます。

3年生 清水優心(日本ハム)
3年生 古澤勝吾(ソフトバンク)
2年生 富山凌雅(オリックス)
2年生 山本武白志(DeNA)

プロ注目選手がズラリ、福岡県大会決勝では北筑に16-0の圧勝でした。
この試合でABCの解説を務めた吉田洸二氏(山梨学院大付=現・山梨学院監督)によれば、

「打線は全国トップクラスというのは、我々関係者の間でもよく出てくる話」

なのだとか。
ただ、投手力がさほどでもないと思っていたこと、打線は長打力はあるもののつながりの部分に課題があると考えており、戦力的には東海大四を上回っているとは思いつつも、決して勝てない相手とは思っていませんでした。

なお、この年の東海大四のベンチ入りメンバーでプロ入りしたのは今川優馬(のちに日本ハム)1人。ただしこのときは背番号16の控え選手で、この九州国際大付戦は出番がなく、2回戦の山形中央戦で代打で出場、ヒットを放っています。


九州国際大付の先発マウンドは、背番号13の2年生左腕・富山凌雅。すでに書いたようにその後プロ入りしますが、この時点では2~3番手投手という位置づけです。
1回表の東海大四は三者凡退。

東海大四の先発マウンドはもちろん西嶋。
1回裏の九州国際大付、ショートゴロの捕球エラーにより先頭の1番中尾勇斗が出塁します。2番河口将の打席でエンドランを仕掛けたりバントを仕掛けたり動いてきますが、セーフティ気味のバントを空振り、これにより1塁ランナーの中尾が飛び出してしまいアウト!
このあたり、九州国際大付側からはまだ「いつでも点を取れるよ」という余裕も感じられますが、西嶋は高低・左右・緩急を幅広く生かし、その後の2打者はボール球を振らせて三振を奪いました。

2回表の東海大四は三者凡退。

2回裏の九州国際大付、先頭の4番清水優心が三遊間を破るヒットで出塁、中継が乱れる間に清水は2塁に進みます(記録はシングルヒットとレフトのエラー)。この清水はすでに書いたように、現在日本ハムで活躍している選手です。
5番疋田連太郎も三遊間を破るヒット、またしてもレフトがはじきますが、先ほど好走塁を見せた清水が今度はスピードを緩めてしまい3塁ストップ。無死1、3塁となりました。
「これは九州国際大付が先制点を奪って圧勝する」と思った高校野球ファンも多いことでしょう。

6番山本武白志もその後プロ入りする選手で、元ロッテ監督の山本功児氏を父に持ちます。しかしこの打席はボール球の変化球を振らされて空振り三振。
7番中谷幸介の打席でワンバウンド投球する間に、1塁ランナーのみ2塁へ進んで1死2、3塁となります(記録は暴投)。
中谷にはフルカウントから四球を与えます。
西嶋の立ち上がり、直球とカーブはうまく制球できていますが、スライダーだけは右打者の外角に大きく外れるシーンが目立っています。

8番富山はフルカウントから135キロの外角直球で空振り三振。スライダーでカウントが取れない中ですが、直球を2つ続けました。
9番小林大生の打席もフルカウント。2死満塁なのでランナーがスタートを切る場面ではありますが、ここで西嶋が2塁ランナーの疋田をけん制で挟んで刺しました。
疋田としては、けん制が来ないと決めつけすぎの早いスタートとなってしまいました。
九州国際大付は2イニング連続のけん制死で、波に乗り損ねてしまいます。

3回表の東海大四、1アウトから8番西嶋が131キロ外角直球をセンター前にはじき返します。東海大四は初めてのランナーです。
9番若原竣之介はバントの構えからヒッティング、127キロ直球をレフト前に運んで1死1、2塁のチャンスを作りました。
1番高橋厳己は低めに沈む105キロカーブをすくい上げ、レフト前に運ぶタイムリーヒットとなり、2塁ランナーのピッチャー西嶋もホームを突いて東海大四が先制しました。

3連打を浴びた富山はここで降板となり、背番号1の3年生左腕・安藤幸太郎がマウンドに上がります。最速140キロ以上の直球を持つプロ注目左腕として、全国的にも名前が知れていた好投手です。
南北海道大会で9番、好調のため甲子園では2番に打順を上げた大川原耀がスライダーを捉え、ショートの頭上を越えるタイムリーとなり東海大四が2点目!
1塁ランナーの高橋も3塁を陥れました。東海大四はレフトの弱肩を見抜いており、この後もレフト方向の打球については強気に次の塁を狙ってきています。

3番福田涼太は初球を打ってレフトへの犠牲フライ。高橋の好走塁が早くも生きる形となりました。
2死1塁となって4番大河内航もスライダーをすくい上げフェンスに達する二塁打・・・と思ったらレフトがクッションボールの処理を誤り、1塁ランナーの大川原は楽々ホームイン、大河内も3塁を陥れました(記録は三塁打)。
5番阿部佳志はセンターフライに倒れますが、東海大四が一挙に4点を先制しました。

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