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【小説】田舎暮らし案内人奮闘記 第15話

こんにちは、移住専門FP「移住プランナー」の仲西といいます。
ここでは、これまでの17年間の活動、2500組以上の移住相談対応から
皆さんに役立つ情報を書いています。
今回は、これまで受けた移住相談を小説風に書いてみました。
気に入った方は、フォローをしていただけると嬉しいです。


第15話 最悪!汚部屋にする非常識男


私の朝の日課。

5㎞のジョギングとシャワー、梅干しと卵かけご飯、そしてスマホで為替相場をチェック。
やがて、遠くから小学校のベルが聞こえてくると、私も子供たちと同じ様に、書斎に向かいデスクに向き合う。
そして、教科書の代わりに、PCを開けて電源を入れる。

まずは、メールチェックが仕事のスタート。
本日も受信トレイには50件の未読メッセージ。
移住に夢見る人からの熱いメッセージが届いている。

相談メールをフォルダー移動し、着信の古いものから内容を確認。
子供のようにワクワクした気分でメールを開く。

本日の相談

曽我部と言います。
東京で個人事業をしています。
私のことは、次のアドレスをご確認ください。

そちらの移住体験住宅を利用したいです。
ペット可の部屋は空いていますか?
期間は〇月〇日から1か月間です。

私は市が運営する移住体験住宅の案内も委託を受けている。
早速、空き状況を確認をすると、ペット可の部屋は空いていなかった。

近年は、ペットを飼っている移住希望者も多く、「ペットがいることで長期の移住体験ができない」といった意見をよく聞くことから、ペット可の部屋を1室だけ用意をしていた。

そして、メールに記入されていたアドレスをクリックすると、曽我部さんの経歴が掲載されている。
「政治団体」の文字もあるが、あまりピンとくるものがなかった。

この時私は、「移住と言うよりも、テレワークやリモートワークとして、体験住宅の利用を希望しているのだろう」と考えていた。
そして、おそらく立派な方なのだろうと思っていた。

早速、メールを返信し、市役所の職員とも情報を共有する。

曽我部さん
メールありがとうございます。
大変申し訳ございませんが、ペット可の部屋は、ご希望の日程での利用できません。ペット不可の通常の体験住宅なら利用できますが如何いたしますか。

大丈夫です。
通常の部屋を利用させてください。

早速返事が届いた。

数週間後、約束の日に彼はやってきた。
錆びついたワゴン車に荷物を満載している。
東京からフェリーで来たそうだ。
そして彼の風貌を見て驚く。
短パン姿に、ボサボサノ頭。
「個人事業主「社長」「政治団体」の文字から、とても固そうなイメージをしていたのだが・・・

取り急ぎ、私は市の職員と一緒に、彼を移住体験住宅に案内をする。

2,3日後、私は偶然、移住体験住宅の前を通ると、住宅の庭で犬を戯れる彼の姿を発見する。

私は慌てて、彼に事情を聞く。
「やはり、だめですか」
軽い返事である。
私は市の職員とも相談をし、犬を預かってもらえるペットショップを紹介する。

それから数日後、もう一度移住体験住宅に行くと、また犬と戯れる彼の姿を目にする。

再度、詰問をする。
「あそこの、ペットショップは対応がダメだから引き取ってきた」
彼の回答である。

私は再度市の職員と相談をし、隣町のペットショップに預けるのか、部屋を退去するのかを迫った。

結局、隣町のペットショップに預けることで話は落ち着いた。

前代未聞の事件であった。

それからは、平穏な日々が過ぎ、いよいよ退去の日がやってくる。

出発の朝、彼から一通のメールが届く。

急ぐので、部屋は退去しました。
カギはテーブルに置いてあります。

犬を見られたくなかったのか。
私たちに会いたくなかったのか。
最後まで、勝手な訪問者であった。

私は彼からのメールを市の職員に転送した。
移住体験住宅の管理は市の職員が行っているからである。

1時間後、市の職員から私の携帯に連絡が入る。

大変なことになっています。
体験住宅が汚部屋になっています。

市の職員の慌てた声に、私もすぐに移住体験住宅に向かった。

部屋に入った私は愕然とする。
果たして、1か月でここまで汚すことが出来るのだろうか。

これは故意に汚したとしか思えない状態である。
冷蔵庫、電子レンジなど家電製品の中はどれも油まみれになっている。
ごみが散乱。
部屋中に異臭が漂っていた。
トイレも詰まらせている。

その後、市役所では緊急会議が開かれ、賠償問題について話しあわれた。
結果、今回は大事にしないことで話はついた。
その結論に、私は何も言う権限はない。



一期一会

しかし、常識のない人間とは、お会いしたくないものである。

(終わり)


#創作大賞2024 #お仕事小説部門


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移住プランナー| 田舎暮らし|プロ|
移住専門FP「移住プランナー」として活動をしています。これまで18年間2500組以上の移住相談に対応をしてきました。ここでは、私の経験からお役に立てる情報を日常的に綴っていきます。「移住」という夢の実現にお役に立てればうれしいです。大阪出身、北海道と鹿児島の3拠点生活中。