自律プロジェクトは小さく始める
書籍『ヒューマノクラシー』の章立てに沿って、官僚主義的なエピソードや、本の記載内容の背景などを紹介しています。
第14章 <ミシュラン>最初のステップ
小さく始める
ミシュランの場合、従業員が「裁量権と説明責任」を持たない従来の官僚主義的な経営では、会社がもたないことを経営陣たちは薄々気付いていました。そんな折、この「権限移譲」のためのプロジェクトは、現地工場の1つのワークショップをきっかけに始まったのです。そのワークショップに参加したメンバーは、チームの目標を実現するためには、自分たちがもっと裁量権を持つ必要があるという結論に達しました。このボトムアップによるプロジェクトは、人事部を巻き込み、最初は17工場34チームという全従業員の1%にあたる規模で、試験的に始められました。ボトムアップの施策を小さく始めるというのは、管理職やリーダーといった層を過度に刺激しないというメリットもありました。
ある運送会社の例
私が以前かかわった取り組みで、ある運送会社の自律プロジェクトがあります。入社2年目の女性社員3名による会社をよくしていこうというプロジェクトでした。彼女たちが最初に取り組んだのは会社の自販機の価格交渉でした。確か、当時120円だった缶コーヒーの値段を100円にするというもので、その程度のものでした。社長に直談判することによって、福利厚生として認められるに至たり、すべての飲料自販機の値段が下がりました。
もともと、このプロジェクトのアイデアはこの会社の専務の声から始まりました。都市部から離れた地域の運送会社で、女性社員はほとんどが結婚と同時に退職しているという現実がありました。「彼女たちが長く働ける環境を作れないか」という専務の想いから、何かプロジェクト化できないかということになったのです。
彼女たちは最も身近の最も小さいことに取り組みました。しかし、その結果は、多くの社員にとても喜んでもらえるものとなったのです。そして、彼女たちは、自分たちの声は、経営層にもきちんと届くということを知りました。その後、彼女たちは、働きやすくなる環境について、どんどんアイデアを出していきました。もちろん、すべてが実現されたわけではありません。しかし、その運送会社は、3年後には、企業内保育園を持つに至りました。トップダウンでは想像さえできないようなことでした。