600名もの人員削減を行う近鉄グループHDの決算から考える鉄道会社が想像以上に苦しい理由
どうもコージです! 私は、毎日決算書を読んで企業の未来を妄想しています。 そんな私が決算書の中で面白かったポイント、未来への妄想ポイントを説明しています。
今回取り上げるのは近鉄グループホールディングス株式会社です。
もちろん鉄道事業を行っているあの近鉄です。
さて、こんなニュースがありました。
近鉄、人員削減600人 コロナ禍の事業悪化で8%削減
近鉄グループホールディングス(GHD)は26日、傘下の近畿日本鉄道で社員の8%にあたる600人の人員を削減すると発表した。希望退職を募り、新入社員の採用抑制やグループ内外への出向などにも取り組む。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて業績が悪化。削減時期は「経営状況に応じて速やかに」としている。
近鉄の社員数は7200人で、駅員や本社の総務、経理部門の社員などを減らし6600人にする。運転士は減らさない。希望退職は人数を定めず、45歳以上の社員を対象に3月24日まで募る。近鉄GHD(社員816人)でも人員削減を予定する。
どうやら近鉄グループホールディングス傘下の近畿日本鉄道で本社の総務、経理部門を中心に600人ほどの人員削減、さらにホールディングス側でも人員削減を行っていくようです。
鉄道事業が厳しい状況にいる事は想像がつきますが、それ以外にもバックオフィス系は今は本当に効率化が進んでいますので余剰人員が生まれていた事も考えられますね。
今回は近鉄の現状と今後、鉄道事業の今後についても考えていきましょう。
それではまずこちらの資料をご覧ください。
売上高は47%減の4833.5億円、営業利益は505.7億円の黒字→596.9億円の赤字、純利益は313.9億円の黒字→354.4億円の赤字となっており大幅な減収で赤字転落となってしまっている事が分かります。
売上はほぼ半減という非常に厳しい状況にいるようです。
続いてもう少し詳しく業績を見ていきましょう。
近鉄の事業セグメントは①運輸事業②不動産事業③流通事業(近鉄百貨店やスーパーなど)④ホテル・レジャー事業(都ホテルなど)と4つある事が分かります。
それぞれの事業の業績の推移は
①運輸事業:売上1101.6億円(35.8%減) 利益289.6億円の黒字→211.2億円の赤字
②不動産事業:売上845.8億円(12.0%減) 利益88.6億円(11.8%減)
③流通事業:売上2251.9億円(22.5%減) 利益33億円の黒字→50.5億円の赤字
④ホテル・レジャー事業:売上814.3億円(78.4%減) 利益62.0億円→429.4億円の赤字
となっておりホテル・レジャー事業の売上が8割減と凄い落ち込みで、運輸だけではなくホテルや旅行といった大きく業績が悪化してしまった産業へ事業を展開していたことも大きく業績が悪化した要因だと分かります。
売上の推移を改めて見てみると一番大きく業績が悪化したのがホテルレジャー事業で、2950億円の売上減少です、一方で運輸事業は614億円の減少と減少額としては規模が小さいです。
しかし利益に関しては運輸事業が500億円の減少、ホテルレジャー事業では491.5億円の減少と運輸事業の方が悪影響が大きい事が分かります。
ホテルなどの運営も、鉄道関係の事業も固定費が大きいので大幅な赤字とはなってしまっていますが、売上の変動と比較すると大きな差が出ていますね。
それがどうしてなのかというとやはり鉄道がインフラであるという点が大きいです。
ホテルなどでは固定費が大きいとはいえ客数が減って稼働率が下がれば当然かかるコストも減少します。
しかし鉄道では乗客が減ったとしてもインフラですから電車の本数も減らせませんので、運営コストはほとんど変わりません。
なので乗客が増えれば増えるほど、利益率は上がりますが減れば減るほど走らせれば走らせただけ赤字が拡大していってしまいます。
どれだけ乗客が減少し赤字続いても本数が減らせないという事で、企業努力によって赤字幅の縮小が難しいという事です。その点はインフラとなっているという事の厳しいところで今後も大きな赤字が続く可能性が高いところですね。
続いて流通事業ですが、こちらは百貨店のほかに、スーパーや飲食店をやっています。スーパー各社は巣ごもりで好調となっていましたがこのストア・飲食の売上も14.8%減と減少してしまっています。
ではどうして減少してしまったのかというと、スーパーでは売上が増加したものの駅ナカ店舗や飲食店舗の利用者が減少した影響があったとしています。
運輸事業では主要事業として、鉄道以外にバス、タクシーといった事業も行っており各事業とも前期比35パーセント前後の減少となっています、という事は単純に駅の利用者も35%減少しているという事です。
鉄道会社は基本的にに駅を中心に都市開発していましたからそのダメージが流通事業にもあったという事ですね。
そしてホテル事業ですがこちらではホテルの売上も61%ほど減少してしまっていますがそれ以上に大きいのが旅行事業で81.1%もの減少となってしまっています。
近鉄グループには旅行代理店もあったわけですが、インターネットの発達とともに情報がいくらでもあふれていますし、ネットでなんでも予約が完結できる時代になってからはこういった旅行代理店の主力はやはり、海外旅行です。
情報はあったとしてもやはり心配な人に向けて、安心を売るのがメインになっていたわけです。しかし海外旅行はもちろん完全に需要が無くなってしまいましたし、コロナの変異種も出ている中でまだまだ回復までは遠そうですのでこの事業は大きく売上が減少した状況が続きそうです。
そしてホテル事業に関しては、移動が止まってしまった影響がこちらにもあったわけですが、厳しい理由はそれだけではありません。
近鉄は都ホテルなど高価格帯のホテルを結構運営しています、この高価格帯のホテルは単価上昇のために顧客のインバウンドの比率を上げてきていたという事もありますし、こういった高価格帯のホテルはパーティや結婚式などのイベントでの利用や宴会などの売上が大きいところが多いです。
なので、インバウンドとイベントの売上が減少してしまった影響が大きいわけです。
ホテルはどこも厳しいですが、意外とビジネスホテルのような低価格帯のところの方が業績の悪化が小さかったりします。
そして月次を見てみるとホテル事業の稼働率は11月には58%まで回復していたようですが12月は36.2%1月は14.4%と非常に厳しい状況が続いています。
2月も緊急事態宣言が継続していましたから1月と同じような業績になっていてもおかしくないでしょうからまだまだ大きな赤字が続いていそうです。
また、不動産事業ですが不動産販売事業、不動産賃貸事業、不動産管理事業と3つの事業を行っています。その中で賃貸と管理に関しては減少幅が小さくそれぞれ6.2%、8.8%ほどですが不動産販売は21.5%減と苦しい状況です。
しかし不動産販売は前期から赤字の事業で今期に関しては、販売不振によってむしろ経費が削減されて赤字幅が縮小したとしています。
利益面に関しては販売不振はむしろプラスな要因があったようです、しかしこの不動産販売の不振はポジティブだとはいいがたい大きな要因があります。
それが財務状況への悪影響です、財務状況を確認していってみましょう。
流動資産は3186億円ほどある一方で流動負債は5519億円となっており、資金的には余裕がない事が分かります。
そして流動資産には販売土地及び建物という、不動産事業の販売事業用の不動産が1307億円ほどあります、前期から230億円ほど増加していますので販売不振の影響で在庫が増加してしまっている事が分かります。
財務的にも余裕がない中で流動資産の3分の1以上が不動産という事ですから、不動産が売れずに現金化できないと苦しいという事です。
なので不動産の販売不振でむしろ利益へはプラスのインパクトがあったとしても財務的に苦しくなってしまうのでポジティブな要因ではないんですね。
また借入や社債などの有利子負債を合計すると1兆1627億円となっており非常に有利子負債の負担が大きい事が分かります。
事業内容的に、鉄道やホテルといった初期投資の非常に大きな事業を行っていますからそういった投資を有利子負債によって行ってきたという事です。なので業績悪化が続くと財務的に非常につらい状況だという事も分かります。
という事で近鉄では、鉄道事業ではインフラとなってしまっていますから乗客数が減少する中でも本数を減らせずコストが変わらないので苦しいですし、さらにホテルや旅行事業では、ホテルはインバウンドや宴会などが回復しないと厳しい高価格帯のホテルが多い事、旅行代理店は現状海外旅行がメインと苦しい状況です。
そして業界としては好調なスーパーや、店舗によっては好調なところもある飲食店事業に関しても駅を起点に開発していたという事で、鉄道利用者が減少する中で業績の悪化が大きく、今後も苦しい状況が続くと予想します!!
また鉄道事業を行う会社全般として、各社とも駅を起点に都市開発を進めていた事で、鉄道利用者の減少とともに付随するサービスが大きな悪影響を受けています。
さらに鉄道事業自体もインフラなので、利用者減少の中でも本数を減らせず赤字の削減が難しいという事で鉄道会社は非常に苦しい状況にいます。
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