三島由紀夫「小説とは何か」
文庫本『アポロの杯』の末尾の小説論を読んでいる。
原理論を展開する場面も、具体的な小説を解説する場面も面白いが、芥川賞の選考における心理描写のようなモノが辛辣だ。
「何という下手な書出しだろう。地理的関係も、人間関係も、何も分からぬではないか。」
「へえ、洗練された会話のつもりで田舎の洋裁学校のような会話を喋らせている。」
「侮蔑が足りない。プチ・ブゥルジョアを描くのに、片時も侮蔑のタッチを忘れてはだめだ。一体フロベエルを読んだことがあるのかしらん?」
「ははあ、今度は風景描写と来たな。海か。ちっとも潮の匂いがしないじゃないか。」
「おっと。この結末は完全な失敗。これでこの小説はオジャンだ」
三島節がお見事である。みずからがクソミソに言われたような気分になる。
早くこの論を読み終えて、稚拙な小説を書き始めなくてはならない。右ヒザを庇っているので、右腰が痛くなってきた。