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「今日、授業やりたくないな」と思ったあなたに 第3回 教員も幸せを追求しよう

以下の記事はアルク『英語の先生応援メールマガジン』に掲載させていただいたものです。英語の先生向けの記事ですが、アルクさんのご厚意で、僕のnote.でお読みいただくことができるようになりました。英語の先生はぜひ以下のURLからメールマガジンに登録をしてみてください。
https://alc-nds.com/k-alc-magazine/2024/03/2403/


世界一幸せな島 カオハガン島

フィリピンにある「世界一幸せな島」をご存知ですか?フィリピンのセブ島から船に乗って1時間ほどのところにカオハガンという小さな島があります。珊瑚礁の環の中にあるこの島は、椰子の実が芽吹いてそこから島になったと言われています。そのため、島の大きさは歩いて20分ほどで回れるほど小さく、島民も700人ほどです。アイランドホッピングで訪問する観光客に島の男性は魚を、女性は作ったキルトやアクセサリーを売り、必要最低限の収入を得ています。そんな島に僕が初めて訪れたのは2019年の秋ころでした。

島を訪問して感動したのは、海の美しさでした。島の周りは遠浅の海が続いており、海の中を歩きながら水の中の生物を確認できるほど水の透明度も高いのです。島の人たちの姿も素敵です。島の人口の半分ほどは子どもということもあり、島を歩くと多くの子どもたちに出逢いました。彼らは英語を話すことができませんが、カメラを向けると恥ずかしそうに微笑んでくれました。気温は高いのですが、海から吹く涼しい風を感じ、ゆったりとした時間を過ごしていると、この島が大好きになっていました。そこで日帰りで帰る予定を急遽変更し、1泊させてもらうことにしました。


小さな島の中には約700人の人が生活をしている


恥ずかしそうにカメラを見る女の子

学校に行くために海の中を歩く

素敵な島なのですが、宿泊をすると不便も多くあることがわかりました。カオハガン島には電力装置がなく、太陽光発電に頼っています。曇りや雨の日が続くと、夜でも電気を使うことができません。一方で、水は雨水を使用するので、晴れの日が続くと水が使えなくなります。飲み水は他の島から購入し、船で運んでくる必要があります。料理で使用するガスも同様です。そのため料理の火は薪調理をすることも多く、時間もかかります。畑や田んぼもないので、野菜や米も他の島から購入する必要があります。海が荒れれば、船で他の島に行くこともできないため、ライフラインが自然に左右されてしまうのです。

島には、小学校がありますが、中学・高校に通うには別の島に行かなければいけません。朝は水位が低くなり船を使えないため、子どもたちは朝5時に起きて別の島の学校まで約2時間歩いて学校に通います。雨の日や嵐の日は、教科書や着替えをビニル袋に入れて、ずぶ濡れになりながら歩くのです。島の女の子に通学の話を聞いていたところ、その辛さを思い出し涙を流してしまうほど、通学の負担は大きいようです。

海を歩いて学校に通う子どもたち


不便な生活を続ける島民は、「島をもっと便利にしよう」とか、「島を出て便利な場所で生活しよう」と思わないのでしょうか。「将来島を出たい?」と島の子どもたちに聞いてみましたが、将来もこの不便な島に住み続けたいと言うの子がほとんどでした。お金があって便利な方がいいはずなのに、なぜカオハガン島を選ぶのでしょう。その秘訣は島民の生活と考え方にありました。

幸せを感じる瞬間

この島の人たちが最も大切にしている時間は夕方の時間です。僕が夕陽を見にビーチに行くと、子どもも大人も思い思いの時間を過ごしていました。追いかけっこをして砂に倒れ込む子ども、バレーを楽しむ女性、ギターを弾く青年の周りに仲間が集まり酒を飲み始める若者、海を眺めて風に吹かれてただただぼーっとする人たちもいます。太陽の光が弱くなってから陽が沈むまでの数時間は、この島の人たちにとって、決してお金に変えられない宝物のような時間なのです。

お金がなくても夕陽があればいいのでしょうか。実際、お金がないと食べ物に困るのではないかと疑問に思い、島民に尋ねてみると「お金がなくても、海に潜り魚を獲ればいい」とあっけらかんとしていました。なるほど、ここでは魚の獲り方さえ知っていれば、飢え死ぬことはないわけです。もし魚が獲れず食べ物に困ったら、近隣の人から食べ物を分けてもらうそうです。このようにカオハガン島には相互扶助のコミュニティーもあり、子育ても協力して行います。自分の子どもが親の知らないところで、別の家でご飯を食べたり、数日泊まったりすることもあるそうです。お金がなくても、食べていける、支え合って生活していける安心感はこの島独自の幸せの秘訣かもしれません。

自分たちの手の届く範囲のものを愛する

ある日、カオハガン島の男の子が、鶏肉が好きだという理由で他の友達にバカにされていました。よく聞くと、島では「鶏肉よりも魚を食べる男性の方が強くなれる」と言い伝えられているのです。ご存知の通り、鶏肉の方が同量当たりのタンパク質量は多いので、この島の言い伝えは科学的に誤っています。島の人は正しい知識を得ることもできるはずなのに、なぜそのような迷信を信じているのでしょう。この迷信は、島民が今自分たちが手に入れられるもので満足するための言い伝えなのだと僕は考えています。つまり、島の周りの海で魚をいくらでも獲れるのに対して、鶏肉を食べるためには別の島からひよこを買って育てなければいけない。時間も費用もかかってしまう。自分たちが簡単に手に入れられない鶏肉をどこかに求めるよりも、自分たちの手の届く範囲にある魚を食べるのが一番健康に良いと信じることは、幸せに生きる賢い手段とも言えます。もちろん、これは非科学的で、根拠もありません。しかし、幸せには科学的な根拠はなくてもいい。自分たちが幸せに生きるために、自分たちの手の届く範囲のものを愛すればいいのだ。そんなことをカオハガン島の人たちは僕に教えてくれました。


毎日の夕陽、手に届く範囲にある食べ物で人は幸せになれる


教員も幸せを追求していい

先生方は、今幸せでしょうか。教員になった時に抱いていた理想をまだ持てていますか。教員や生徒を評価する数字は多くあります。授業評価、テストの平均点、偏差値、覚えた英単語の数。それら数字を教員や生徒を評価する根拠のあるものとして認識し、信じ込み、一喜一憂する日々を送っているかもしれません。しかし、僕らはどこかでそんな数字は無意味なものだともわかっています。わかりやすい数字よりも、生徒の笑顔、悔し涙、共に流す汗の方が数倍、いや数百倍の価値があると僕らは知っています。少なくとも、僕はそういったものを求めて教員になりました。いつからか数字に振り回されて、自分の授業や生徒への振る舞い方を変えざるを得なくなってしまった方もいるはずです。しかし、僕ら教員が幸せに生きること、生徒と共に感情を共有すること、あなたがあなたらしく生きること、そんな理想に手を伸ばしながら教師生活を歩んで良いのです。そういった先生方を見て、生徒たちも「自分もあのような大人になりたい」と思えるかもしれません。

3回に渡る連載で、世界の教育現場や幸せの形を紹介させていただきました。ネパール、レバノン、フィリピンの3カ国とご紹介できる国は少なかったのですが、少しでも先生方の世界が広がり、旅をしたくなったり、教室の子どもたちに早く会いたくなったならば、僕としては嬉しい限りです。

旅の話を通して、僕が伝えたかったもう一つのことは、授業の内容、教員としてのあり方、生き方でした。現在は教員の成り手が少なく、教員不足のニュースをよく見ます。教員は大変な仕事ですが、それ以上にやりがいがあり、日々変化がある子どもたちと触れ合える素晴らしい職業だと思っています。先生方が子どもたちに伝えたいと思える内容で授業を行い、先生方のありのままで学校でいることができ、先生も生徒も一人ひとりが数字に踊らされることなく幸せに生きられる教育の場が作られることを願っております

今後とも先生方の応援を続けていきます。何かご意見や感想があれば、ぜひ iizukanaoki@gmail.com に連絡をお待ちしています。

アルクで12月1日に先生向けのセミナーをやらせていただくことになりました。

申し込み: https://ndsnet.com/alc-event/20241201/


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