誰もが楽しめる、温泉みたいな音楽フェスを、別府でつくりたい
2023年10月28日に、温泉の街、大分県別府市で、温泉みたいな音楽フェスを開催します。
会場は、別府駅前の繁華街にある4会場。戦後から続く歴史ある映画館や、数々のバンドを輩出する老舗のライブハウス、世界中から観光客が集まるゲストハウス、そして、幅広い世代を混ぜ続けるナイトクラブ。
自然溢れる森の中でも、綺麗な海が眺められるビーチでもなければ、数万人を収容できるドームでもない。別府市民の遊びの一丁目一番地。別府駅前の繁華街「別府北浜」が会場です。
たくさんの飲食店はもちろん、スナックもバーもあれば、地域の温泉もある。そんな街を、気になるアーティストの演奏を目指して、各会場を回遊し、疲れたら数百円握って地域の温泉に行く。そんなイベントです。
はじめまして。別府市在住の深川です。今は、別府でレコードバーを経営したり、音楽ライブの企画運営をやっています。「いい湯だな!」の代表を務めています。
今回は、これから始まる、別府の音楽フェスをきっかけに、「ユニバーサル観光を考える」ことや、聾者と音楽について考えるきっかけになったお話をしたいと思います。
どんな人も受け入れてきた温泉
温泉は、ぼくたち別府市民にとって、とても大切なものです。来年で100周年を迎える別府市よりも、はるか昔から、住民も、戦争で傷ついた人も、外国人も、障害を抱えた人も、多くの人々を、この土地で癒してきた歴史がある。
「湯の前に人は皆平等」どんなバックグラウンドを持つ人も、温泉に入る時は、皆平等に付き合える。人間、丸裸になってしまえば、何も変わらぬ者同士。そこには壁はなく、人と人の付き合いや、繋がりがある。
そんな、誰もが平等に楽しめるイベントこそが、ぼくたちが作り上げる「おんせん都市型音楽祭『いい湯だな!』」の目指す姿です。
価値観が180度変わった番組出演
そんな「いい湯だな!」の準備を進めていたある日、NHKの番組への出演依頼が来ました。その番組は、Eテレで放送の「ハートネットTV」。様々な社会問題について、福祉の視点から深掘る番組です。
ぼくが出演したのは、「ユニバーサル観光を考える」というテーマで、聾者(耳の聞こえない人)の方が、どうすれば別府を楽しめるのかを考える回。聾者を交えて、別府の観光についての話を、手話での通訳や、筆談を介して、コミュニケーションをとりながらの収録でした。
そんな中で、話題は「聾者は音楽をどのようにして楽しんでいるのか?」という話へ。聾者と音楽。それまで、勝手に音楽とは遠いところにいる人だと決め付けていた聾者の人たちも、音楽を楽しんでいることを知りました。
歌詞を楽しんだり、鳴り響く音の振動を感じたり、豪華な演出を視覚的に楽しんだりと、聾者の感じる音楽の楽しみ方を知ったぼくは、それまでの考え方を180度ひっくり返されました。それと同時に、偏った見方をしていた自分を、強く反省しました。
「いい湯だな!」を、聾者も楽しめるイベントへ
「『いい湯だな!』でも、何かできることはないか。」収録が続く中で、頭の中は、そのことでいっぱいでした。「温泉のようなイベント」を目指すのであれば、そこの壁も取り壊して、多くの人たちが楽しめるイベントを作りたい。
収録で感じたことを、そのままチームに共有して、聾者の課題解決に挑戦する企業さまへと連絡。そこから、複数社とのお話を通して、様々な知見を得ることでき、今回、とある企業さまとタッグを組んで、聾者の方も音楽を楽しめるデバイスの導入が決まりました。
しかし、ただデバイスを使えば解決できるほど、簡単なものではありません。視覚的に楽しめる演出や、音の振動を楽しむことはできても、その空間を、全員で同じ感覚を楽しめるようにするには、様々な壁がある。
曲と曲の間に入るMCや、モニターに歌詞を表示したり、悲しい歌なのか、楽しい歌なのかがわかるような工夫が必要だったりと、やると決めたはいいものの、正直、完璧を求めると、かなりハードルは高い。そこには、聴者(耳が聞こえる人)への配慮も、もちろん必要です。
そのバランスをどのように取るべきなのか、そう考えた時に、立ち戻ったのは「温泉」でした。
街中の温泉に行くと、地域の人たちのお風呂に、自分たちが遊びに来ているんだということがわかります。
温泉には、「水を入れすぎちゃダメ」とか、「湯船の縁にはお尻を置かない」とか、「身体を洗ってからお湯に浸かる」など、様々なルールがあります。そのルールを守りながら、みんなが配慮して、気持ちよく入れるのが、別府の温泉です。
これは運営側のエゴですが、そんな世界を、この「いい湯だな!」でも実現していきたいと考えています。
正直、お客様には不便をおかけする部分もあると思います。普通の音楽フェスでは体験したことがないことや、見たことのない光景を見ることもあるでしょう。でも、それも含めて、楽しんでもらえたら嬉しいです。
聾者と過ごす中で
聾者と会話をしたり、食事を共にする中で感じたことがあります。言葉が通じないというのは、外国語が通じないという感覚にとても近いということ。
彼らには、手話という独自の言語があるだけで、会話で使う言語が違うだけ。海外旅行をした際に、言語が通じなければ、紙に絵を書いたり、写真を見せたりした経験がある人もいるのではないでしょうか。本当に、その感覚にとても近いんです。
「手話が使えなければ、わからなければ」と思う人も多いはず。でも、そんなことは一切ありません。聾者は、繊細な口の動きで言葉を理解してくれるし、伝えたいことがあれば、文字起こしアプリや、筆談でも伝えられる。全然難しいことじゃありません。
先日、一緒に番組に出演した聾者の男性と、食事に行きました。その時に、彼がぼくたちに伝えたのは、「ぼくたちは普通に時間を共に過ごせるし、友人としての関係を築くことができる」ということ。
「言葉が通じないから」と、勝手に遠い存在として見るのではなく、互いの言語や、感覚を尊重しながら、共に過ごすことで、徐々に理解することができる。
それはまるで、別府の温泉のルールに従い、一緒に温泉を楽しむ人を尊重するような感覚。それが当たり前になれば、みんなが気持ちよく、その空間を楽しむことができると信じています。
とはいえ、まだまだ完璧ではありません。聾者との壁を取り払うことができても、多言語対応はもちろん、車椅子の方も参加できるような対応も不足しています。
第一回目から、どこまで作り上げることができるのか、10月28日までの、残りの期間を使って、最大限準備をしたいと思います。
それも楽しみに、「いい湯だな!」へ遊びにいらしてください!
10月28日は、別府でお待ちしております!
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