The Lady Vanishes
これは現実的なサスペンスものなのだ。ファンタジーでもなく、SFでもなく、リアルな世界にきちんと根を下ろして描かれている。
でも、本当に?
ヒッチコックの映画は観る人を(というか私を)そんな不安に駆り立てる。これは現実なのか、夢なのか、幻想なのか、もしくはパラレルワールド?
彼女は汽車に乗っていた家庭教師のおばちゃんの存在を確信している。あの人は確実にいた。でも他の乗客はそんな人は初めからいなかったと言い張る。
あのおばちゃんは、彼女の幻想なのか、それとも本当に存在していたのか。見ている私も分からない。だからドキドキさせられる。引き込まれる。リアルと夢の割れ目の間でうろうろする。
前半のミステリアスなモードに比べて、後半はいささか陳腐な感じもある。いい風に捉えればコミカル。
最後はバンバンとピストルでやりあって、男と女が結ばれて、おばちゃんは無事だった。ちゃんちゃん。
でもその定番感も、どたばたエンドも、なんだかんだ愛おしく感じてしまうのは、これもヒッチコックの魔法なのかしら。