【実務担当者向け】雇止め法理の解像度を上げる(24/4/6)
(※この記事は2024年12月23日に更新されました)
労働契約法19条で規定されている雇止め法理の論点を整理するためには、同条の成り立ちに遡って理解することが重要です。
すなわち、労契法19条は判例法理を立法化したものですので、該当する最高裁判例がどのような判断をしているのか、そして立法に際しての行政解釈(通達)を理解することが出発点になります。
これらを理解した後に、労契法19条下の裁判でどのように判断されているかを考察していくことが重要です。
そうすることで、腹落ちしやすくなると思います。
そこで、まずは判例がどのような判示をしているかを見ていくことにします。
第1 判例法理の形成
1 東芝柳町工場事件(昭和49年7月22日)
⑴ 事案の概要
事案の概要は、次のとおりです。
項目などは執筆者にて適宜加筆修正しています。
ア 当事者
・上告会社は、電気機器等の製造販売を目的とする株式会社である
・従業員は、正規従業員(「本工」)と、臨時従業員(「臨時工」)の種類に分かれる
イ 基幹臨時工
・臨時従業員(臨時工)は、基幹作業に従事する「基幹臨時工」と、附随作業を行う「その他の臨時工」とに分かれている。
・基幹臨時工は、景気の変動による需給にあわせて雇傭量の調整をはかる必要から雇傭されたものである
・その採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱をされ、本工労働組合に加入しえず、労働協約の適用もないが、仕事の種類、内容の点においては本工と差異はない
・上告会社における基幹臨時工の数は、総工員数の平均30パーセントを占めていた。
ウ 基幹臨時工の契約更新状況
・基幹臨時工が2か月の期間満了によって傭止めされた事例は見当らない
・自ら希望して退職するものの外、そのほとんどが長期間にわたって継続雇傭されている
エ 被上告人(労働者)らの契約更新状況
・被上告人(労働者)らは、いずれも、上告会社と契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取りかわして入社した基幹臨時工であるが、その採用に際しては、上告会社側に、被上告人らに長期継続雇傭、本工への登用を期待させるような言動があり、被上告人らも、右期間の定めにかかわらず継続雇傭されるものと信じて前記契約書を取りかわしたのであり、また、本工に登用されることを強く希望していた
・上告会社と被上告人らとの間の契約は、5回ないし23回にわたって更新を重ねていた
・上告会社は、必ずしも契約期間満了の都度、直ちに新契約締結の手続をとっていたわけでもなかった
⑵ 判示内容
「原判決は、以上の事実関係からすれば、本件各労働契約においては、上告会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであつて、実質において、当事者双方とも、期間は一応二か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたつては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであつて、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。」
⑶ コメント
この事案では、有期契約の「期間は一応二か月と定められて」いたものの、「いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつた」と認定して、実質的には期間の定めのない契約と異ならないとしました。
そうすると、そのような契約を使用者から終了させることは、実質的には解雇であるとして、解雇権濫用法理を類推適用すべきとしました。
2 日立メディコ事件(最判昭和61年12月4日)
⑴ 事案の概要
ア 当事者
・(1)上告人(労働者)は、昭和45年12月1日から同月20日までの期間を定めて被上告人の柏工場に雇用され、同月21日以降、期間2か月の本件労働契約が五回更新されて昭和46年10月20日に至った臨時員である。
➡︎S45.12.1〜12.20
➡︎S45.12.21〜S46.2.20(①)
➡︎S46.2.21〜S46.4.20(②)
➡︎S46.4.21〜S46.6.20(③)
➡︎S46.6.21〜S46.8.20(④)
➡︎S46.8.21〜S46.10.20(⑤)
イ 臨時員制度
(2)
・柏工場の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたもの
・臨時員の採用に当たっては、学科試験とか技能試験とかは行わず、面接において健康状態、経歴、趣味、家族構成などを尋ねるのみで採用を決定するという簡易な方法をとっている
ウ 臨時員の契約更新状況
(3)被上告人が昭和45年8月から12月までの間に採用した柏工場の臨時員90名のうち、翌46年10月20日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除けば、上告人を含む14名である。
エ 臨時員の業務内容
(4)柏工場においては、臨時員に対し、例外はあるものの、一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針をとっており、上告人も比較的簡易な作業に従事していた
エ 契約更新の手続内容
(5)被上告人は、臨時員の契約更新に当たっては、更新期間の約1週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4雇用期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていた(もっとも、上告人が属する機械組においては、本人の意が確認されたときは、給料の受領のために預かってある印章を庶務係が本人に代わって押捺していた。)ものであり、上告人と被上告人との間の5回にわたる本件労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を締結する旨を合意することによってされてきたものである。
⑵ 判示内容
「原審の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法九〇条に違反するものということはできず、また、五回にわたる契約の更新によって、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいは上告人と被上告人との間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。」
「K工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、上告人との間においても五回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。」
⑶ コメント
本件事案では、更新手続が形骸化していた事実は認められないことなどから、東芝柳町事件のような実質無期型を否定しました。
しかし、「その雇用関係はある程度の継続が期待されていた」場合にも解雇権濫用法理が適用されると判断しました。
雇止め法理が適用される場面を広げたと言って良いでしょう。
3 パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件(最判平成21年12月18日)
⑴ 事案の概要
本件は、違法な労働者派遣と黙示の労働契約の成否が争点となった事件として有名ですが、直接雇用として有期雇用契約を締結しており、その雇止めの適法性も争われていました。
そして、雇止め法理に関し、前述の2つの最高裁判例を次のように引用しました。
かっこ書きで引用されている最高裁の年月日は、東芝柳町事件と日立メディコ事件です。
⑵ 判示内容
「期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合,又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,当該雇用契約の雇止めは,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁,最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。」
⑶ コメント
この表現は、次の「有期労働契約の在り方について(建議)」で使用されています。
第2 有期労働契約の在り方について(建議)(平成23年12月26日労審発第641号)
3 「雇止め法理」の法定化
有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない雇止めについては、当該契約が更新されたものとして扱うものとした判例法理(いわゆる「雇止め法理」)について、これを、より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定法化し、明確化を図ることが適当である。
第3 労契法19条の内容(判例法理の立法化)
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
第4 労契法施行通達:平成24年8月10日付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」
5 有期労働契約の更新等(法第19条(改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は法第18条。以下同じ。)関係)
(1) 趣旨
有期労働契約は契約期間の満了によって終了するものであるが、契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであり、有期労働契約の更新等に関するルールをあらかじめ明らかにすること により、雇止めに際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要がある。
このため、法第19条において、最高裁判所判決で確立している雇止め に関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものであること。
(2) 内容
ア 法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合(同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合(同条第2号)に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件(契約期間を含 む。)で成立することとしたものであること。
イ 法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。
法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事 件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。
ウ 法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものであること。
なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。
エ 法第19条の「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。
また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。
オ 法第19条の「遅滞なく」は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。
第5 更新期待とは、どの「更新」に対する期待か
1 河合塾事件・東京地判令和3年8月5日
ところで,同号によって保護される合理的な理由のある期待の対象となる有期労働契約の「更新」に関し,被告は,労契法19条柱書は,同条の要件が認められた場合の効果として,「使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申し込みを承諾したものとみなす。」と規定していることから,同条2号は「同一の労働条件」を内容とする労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合に限って該当する旨主張する。
しかしながら,上記の最高裁判例を通じて形成された雇止め法理は,更新を期待することに合理的な理由がある有期労働契約について,期間の定めがあることで更新を拒絶されることにより労働者が雇用を喪失することを防止するための法理であると解されるところ,労働者が更新を期待することに合理的な理由があるかを判断するに当たっては,有期労働契約が従前から継続して更新されてきた事実がその重要な考慮要素の一つとして挙げられる。労働条件が変更の上で更新されることは通常の事態というべきであるから,更新の際に同一の労働条件で更新されたか否かは更新期待への合理性を基礎付ける本質的な要素ではないと解すべきである。そうすると,同条2号にいう「更新」は,当該労働者が締結していた当該有期労働契約と接続又は近接した時期に有期労働契約を再度締結することを意味するものであり,同一の契約期間や労働条件による契約の再締結を意味するものではないというべきである。他方,同条柱書は,一定の要件の下に使用者の意思表示を擬制した上で一種の法定更新を認めるものであるから,同条2号にいう「更新」とは場面を異にするものである。この点に関する被告の主張は,採用することができない。
2 「更新」期待が指すものは何か
労契法19条2号でいう「更新」期待の更新とは、何を指すのかを検討する際には、条文の構造を理解するとともに、二つの裁判例の考え方を比較することが重要です。
すなわち、19条柱書にも「更新」という文言があることから、①同条柱書と同条2号の「更新」の意味は同じか別か、②別の場合、同条2号の「更新」は何を指すのかが問題となります。
(有期労働契約の更新等)第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合・・・であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 略
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
この点については、近時、「更新」に関する解釈を判示した裁判例2つを比較することで理解が深まります。
一つは、前掲の河合塾事件であり、もう一つは、東光高岳事件の地裁判決です。
ただし、東光高岳事件の高裁判決は、河合塾事件と同様の判示をするに至っている点に注意が必要です)。
両事件を比較したイメージ図は、次のとおりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1734960698-4ev9XpnyVNgUhbI2OD05JATt.png?width=1200)
東光高岳事件(東京地判令和6年4月25日)
労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。
なぜならば、労契法19条2号は、期間満了により終了するのが原則である有期労働契約において、雇止めに客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約を成立させるという法的効果を生じさせるものであるから(同条柱書)、その要件としての「更新」の合理的期待は、法的効果に見合う内容であることを要すると解されるからである。
また、労契法19条2号は、最高裁判所昭和61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁(以下「日立メディコ最高裁判決」という。)の判例法理を実定法としたものであるところ、同判決は、雇用関係の継続が期待されていた場合には、雇止めに解雇権濫用法理が類推され、解雇無効となるような事実関係の下に雇止めがされたときは、「期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる。」としており、これが条文化されたものであるから、ここでいう「更新」は、従前の契約の労働条件と同一の契約を締結することをいうと解しているものと理解できる。
さらに、更新は、民法の概念としては、契約当事者間において従前の契約と同一の条件で新たな契約を締結することをいうと解されるところ(雇用契約につき民法629条1項、賃貸借契約につき同法603条、604条、619条1項、ただし、期間については従前の契約と同一ではないと解されている。)、労働契約(労契法6条)と雇用契約(民法623条)とは同義のものと解されるから、労働契約において民法の概念と異なる解釈をとる理由はない。
日立メディコ最高裁判決が、更新の期待の合理的な理由を肯定するに当たり、有期労働契約が従前の契約に至るまで継続して締結されてきたことを考慮要素とする一方、これが同一の労働条件によるものであったかは重視していないこと、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないことから、過去の契約関係において賃金などの労働条件に若干の変動がある場合であっても従前(直近)の労働契約と同一の労働条件で更新されると期待することに合理的な理由があるといえる場合があると考えられる。そして、ここで検討している労契法19条2号の「更新」とは何かという問題は、期待の合理的理由の考慮要素としての過去の労働条件変動を伴う契約締結が「更新」に当たるかという問題ではなく、雇止めに解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めに客観的合理的な理由がなく社会通念上相当性がない場合には従前と同一の労働条件で契約の成立を認めるという法的効果を生じさせるための要件として、どのような労働条件の契約締結について合理的期待を要求するかという問題である。したがって、日立メディコ最高裁判決が、「更新」の期待の合理的な理由を肯定するに当たり過去の有期労働契約が同一の労働条件によるものであったことを重視しておらず、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないからといって、労働者が解雇権濫用法理を類推適用されるための要件としての期待の合理性の対象となる「更新」について、従前の(直近の)労働契約と同一の労働条件ではなくてよいという帰結に直ちになるものではない。
そして、仮に、労契法19条2号の「更新」を同一の当事者間の労働契約の締結と解し、労働条件を問わず同一の当事者間において労働契約が締結されると期待することについて合理的理由があれば解雇権濫用法理の類推適用がされるとした場合、使用者が、従前(直近)と同一の労働条件による労働契約の締結を拒否し、従前の労働契約より不利な労働条件での労働契約を提案し、労働者がこれを承知しなかった場合には、使用者の労働条件変更の提案に合理性があったとしても、雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性があるといえない限り、従前(直近)の労働契約と同じ労働条件による労働契約が成立する結果となり、有期労働契約の期間満了の都度、就業の実態に応じて均衡を考慮して労働条件について交渉すること(労契法3条1項、2項)は困難となるから、労働契約における契約自由の原則(労契法1条、3条1項、2項)に反する帰結となる。そして、このような場合において、原告主張のように、労契法19条柱書の雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性の審査において、使用者の労働条件の変更提案の合理性が斟酌され、使用者の労働条件の変更提案の合理性が肯定されるときには雇止めに客観的合理的な理由、社会通念上相当性があることが肯定され、雇止めが有効となるといった解釈をとる場合、雇止めについての解雇権濫用法理の類推適用を法制化した労契法19条柱書の適用において、その由来及び文言とは異なって、使用者による労働条件の変更提案の合理性といった考慮要素を新たに取入れる結果となるが、そうすべき根拠は必ずしも明らかではない。無期労働契約においては、使用者が労働者に対し労働条件の変更提案を行い労働者がこれを拒否した場合に解雇するという変更解約告知について、解雇権濫用法理(労契法16条)の下、使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば解雇を有効とするという解釈は未だ定着しておらず、使用者による労働条件の変更提案の合理性審査基準が確立していない今日において、有期労働契約において使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば雇止めを有効とするという解釈を採用することは、有期労働契約における当事者の予測可能性を著しく害する結果となる。
以上から、労契法19条2号にいう「更新」は、従前の労働契約と同一の労働条件で有期労働契約が締結されることをいうと解するのが相当である。