管理監督者性の解像度を上げる(240717)

管理監督者性が認められるか否かは、割増賃金訴訟における結論を大きく左右します。

すなわち、管理監督者性が肯定されれば、深夜残業を除いて割増賃金の支払い義務がないことになるのに対して、これが否定されれば、割増賃金の支払い義務が生じることになるからです。

そして、企業では、管理監督者である(と思っていた)ことを前提に、割増賃金を支払っていないことが通常ですので、管理監督者性が否定された場合、1円も割増賃金を支払っていなかったことになります。

他方で、管理監督者性の判断は、裁判所が行うことになるため、常に紛争の潜在リスクを抱えていることになります(労基署から是正勧告を受けることもあります)。

そのため、管理監督者性に該当するかの判断は、事前に、各会社において、厳密に検討した上で、処遇を決定することが必要になります。

しかし、単に自社内で、管理者になったからとか、役職が付いたからということのみをもって、労基法上の管理監督者に該当することにはなりません。少なくとも、自社内での役職者が、そのまま、労基法上の管理監督者に該当するとは限らない、むしろ多くの場合は否定されることが多い、ことを明確に認識するべきです。

そこで、判断するための考慮要素を整理します。

管理監督者性を否定する要素に該当する場合、管理監督者として扱うことは避けた方が良いでしょう。


第1 通達

1 昭和22年9月13日付け発基第17号・昭和63 年3月14日付け基発第150号

定義

法第 41 条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、 工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。

適用除外の趣旨

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、 労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限つて管理監督者として法第 41 条による適用の除外が認められる趣旨であること

①職務内容、責任と権限

一般に、 企業においては、 職務の内容と権限等に応じた地位 (以下 「職位」という。 )と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。 )とによつて人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たつては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。

②勤務態様

③賃金等の待遇

管理監督者であるかの判定に当たつては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。


2 多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平成20 年9月9日付け基発第0909001号)


①職務内容、責任と権限

1 「職務内容、責任と権限」についての判断要素

店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。

(1) 採用

店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、 管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(2) 解雇

店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(3) 人事考課

人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(4) 労働時間の管理

店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

②勤務態様

2 「勤務態様」についての判断要素

管理監督者は 「現実の勤務態様も、 労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、 次のように判断されるものであること。

(1) 遅刻、早退等に関する取扱い

遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。

(2) 労働時間に関する裁量

営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

(3) 部下の勤務態様との相違

管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

③賃金等の待遇

3 「賃金等の待遇」についての判断要素

管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。

(1) 基本給、役職手当等の優遇措置

基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。

(2) 支払われた賃金の総額

一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

(3) 時間単価

実態として長時間労働を余儀なくされた結果、 時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

3  留意通達(平成20年10月3日付け基監発第1003001号)

省略

4  都市銀行等における「管理監督者」の範囲(昭和52年2月28日基発第104号の2)

省略


第2 文献(学説など)


①職務内容、責任と権限


裁判例をみると、管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち、「経営者と一体の立場にある者」、「事業主の経営に関する決定に参画し」については、これを企業全体の経営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが「経営に関する決定に参画し」にあたるとみるべきである。

菅野・山川「労働法13版」(弘文堂)417頁


労働者の経営者との一体性は、管理監督者性を判断するにあたって一つの重要な要素である。すなわち、経営者はもはや労働者ではないが、事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有しているなど、経営者と一体的な立場にあると評価できる者は、労働者性自体が希薄になりつつある面があり、このような者は、労基法上の労働時間等の規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職責を担うといえるからである。

そして、この点を更に具体化すると、裁判例は、おおむね①経営への参画状況、②労務管理上の指揮監督権、③実際の職務内容を考慮要素としているように解される。

類型別労働関係訴訟の実務Ⅰ[改訂版](青林書院)251頁

②勤務態様

実務上の審理対象は、当該労働者の始業終業時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたかが中心となる。特に,タイムカード等による出退勤の管理がされていたかとか、遅刻、早退、欠勤等の場合に賃金が控除されていたかなどが問題となる。もっとも、タイムカードの打刻が義務づけられていたとしても,その趣旨が出退勤時刻を厳格に管理するものではなく、出退勤の有無自体を確認するとか、健康管理等の目的であることもあり、タイムカードの打刻が義務づけられているとの事情だけで勤務時間に関する裁量がないと判断することは相当でないといえよう。

類型別労働関係訴訟の実務Ⅰ[改訂版](青林書院)253頁


判断要素B(労働時間の決定に関する自由裁量性)を構成する事情としては、①タイムカード等による出退勤・勤務時間の管理がされているか、②遅刻・早退による賃金減額ないし罰金が実施されているか、③職員との交替勤務や職員に対するバックアップを義務づけられているかといった事情が重視される。

「最新裁判実務大系7 労働関係訴訟Ⅰ」(山川・渡辺編著。青林書院)455頁

③賃金等の待遇

下級審裁判例でも、年棒1250万円に加え、賞与が支給される労働者について管理監督者性が否定された(東京地判平23・12・27労判1044号5頁〔HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド(貸金等請求)事件〕)一方で、月収45万円程度の理美容室総店長の管理監督者性が肯定された例もある(東京高判平20・11・11労判1000号10頁〔ことぶき事件〕)。

類型別労働関係訴訟の実務Ⅰ[改訂版](青林書院)254頁


判断要素C(賃金・手当上の優遇措置)を構成する事情としては、①社内における収入の順位、②平均収入の下位職種との比較、③金額そのものといった点に着目される。この中でとりわけ重要な事情は、③の「金額」であって、最終的には判断要素A(経営者との一体性)と同B(労働時間の決定の自由裁量性)の内容程度を踏まえたうえ、上記①と②の各事情すなわち平均収入の社内における順位や下位職種との比較を併せ考慮しつつ、「当該労働者に管理職手当や役職手当等の支給がされており,その手当の額が当該労働者の職務内容等からみて通常想定できる時間外労働に対する手当と遜色がない金額の手当等が支払われているといえるか否か」という観点から判断要素Cにいう「賃金等の優遇措置」の有無・程度について検討する必要がある。

「最新裁判実務大系7 労働関係訴訟Ⅰ」(山川・渡辺編著。青林書院)456頁

第3 裁判例


①職務内容、責任と権限


原告は、人事、人事考課、昇格、異動等について、最終決裁権限がないことを理由に管理監督者でないと主張するが、原告の主張のように解すると、通常の会社組織においては、人事部長や役員以外の者は、到底、管理監督者にはなり得ないこととなる。労働基準法が管理監者を設けた趣旨は、管理監督者は、その職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するため、自らの労働時間を含めた労働条件の決定等について相当程度の裁量権が与えられ、労働時間規制になじまないからであることからすると、必ずしも最終決定権限は必要ではないと解するのが相当である(セントラルスポーツ事件(京都地判平成24.4.17))。

②勤務態様

加筆予定

③賃金等の待遇

加筆予定


第4 検討のポイント

加筆予定。当該労働者の社内での序列(組織図)を念頭に置いた上で、当該労働者の担当業務の棚卸しをしていくことをイメージしています。少し具体化すると、当該労働者の業務を、対内的業務と対外的業務に分けた上で、①対内的業務=社内での担当業務は何か、例えば、従業員の採用・人事評価・解雇(退職)のプロセスにどこまで関与・決定権限を有しているか、②対外的業務=社外での担当業務は何か、例えば、取引先との間での契約締結権限がどこまであるか(支出権限など)を具体化していくことになると考えます(いずれも、一般従業員は行わない業務、できない業務かの視点で考えます)。


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