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お別れしたうさぎさんのお話〜飼い主さんの宅急便

 最近、ペットのうさぎさんがお月さまに帰りました。うさぎがいた生活は最高でした。そんなうさぎさんのいた暮らしを懐かしんで、お話を書くようになりました。読んでいただけたら、とても嬉しいです。


【飼い主さんの宅急便】

 私はうーたんです。かわいいかわいいうさぎさんです。今は地球での役目を終えて、お月さまで暮らしています。

 お月様は良いところです。きれいなお水が流れていて、柔らかい牧草が一面に生えています。私はきれいなお水をごくごく飲んで、柔らかい草をむしゃむしゃ食べます。
 それだけではなく、月に住む仲間たちと一緒に野菜や果物を育てています。収穫した野菜や果物はデザートにしたり、お茶の時間のおやつにしたりしてみんなで仲良く食べています。

 月の食べ物は美味しいですが、実はみんなと別なご飯を食べることもあります。お月さまには飼い主さんからの宅急便が届くのです。

 宅急便には地球のお水と体に良いチモシーと私の好きな銘柄の干し草が入っています。時々、おやつのりんごも入っています。りんごはうさぎさんの形に切ってあります。飼い主さんは私が月に帰った後も、毎日ケージに新鮮なご飯とお水をお供えしてくれるのです。
月にはそのお供え物が宅急便でとして届くのです。

 正直言って地球の食べ物はお月さまの食べ物と比べるとそれほど美味しいわけではありせん。でも、私は飼い主さんが送ってくれた食べ物をむしゃむしゃ食べます。なぜなら、いつか宅急便が届かなくなるのを知っているからです。

 飼い主さんが私を飼い始めた頃、飼い主さんはまだ学生さんでした。飼い主さんのお家には時々、飼い主さんのお母さんから宅急便が届きました。そこには飼い主さんが好きなレトルト食品やお菓子が詰まっていました。

「もう、お母さんったら。こういうものは東京でも買えるのに」

 そう言いながら飼い主さんは、レトルト食品やお菓子を美味しそうに食べていました。嬉しそうな飼い主さんを見ると、うーたんも嬉しくなりました。

 そうこうしているうちに、飼い主さんは学校を卒業して、社会人になりました。その時も宅急便は届いていましたが、飼い主さんは少し迷惑そうにしていました。
飼い主さんがお母さんと住んでいた頃と比べると、食べ物の好みが変わってしまったのです。飼い主さんは子供の頃に好きだった食べ物よりもずっと高級なものが買えるようになっていました。

 お母さんからの仕送りは、余るようになりました。飼い主さんは、まだ食べられるにもかかわらず、お母さんから届いた食べ物を捨てることさえありました。
 飼い主さんは強い口調でお母さんに「もういらない」と伝えていました。最初は遠慮しているだけだと思っていたお母さんも、少しずつ状況を理解していったようです。
宅急便が来ることは少なくなり、やがて全く届かなくなりました。

 実は、うーたんも飼い主さんの宅急便は要りません。月にはたくさんご馳走があります。そして、本当のことを言うと、月に帰ったうさぎさんには食べ物やお水は必要ないのです。

 お月さまに届いたご飯なら、私は何とか食べることができるけど、地球に残ったご飯とお水は捨てられてしまいます。捨てられてしまうご飯とお水のことを考えると、うーたんは悲しい気持ちになります。

 それでも、飼い主さんは毎日毎日、新しいご飯とお水をうーたんに送ってくれます。私はうれしいけれど、ちょっとだけ淋しい気持ちになります。

 だから、宅急便が届くうちは、うーたんは飼い主さんのお水をごくごく飲んで、ごはんをむしゃむしゃ食べるのです。いつか届かなくなるその日まで、うーたんは飼い主さんのことを決して忘れません。

以上

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