見出し画像

「大腿骨頸部骨折の『理学療法』」なるものはそもそも存在したのか

最近Facebookで「大腿骨頸部骨折の理学療法は難しいのか?」という投稿を見た。

私も少しコメントさせていただいたが、話の大筋としては昔、セメントの有無や術式などによって荷重開始時期が違っていた、「全荷重になるのに1ヶ月かかる」ことなどに起因する理学療法としての専門性の話であった。

さて私は理学療法士6年目になるが、はじめの4年間、2次救急の総合病院で働いてきて、大腿骨頸部骨折を担当することも多かった。(以下頸部骨折と略す。)

確かに私が経験してきた頸部骨折は「人工骨頭」「ハンソンピン」「ガンマネイル」などの受傷具合による選択される術式の違いはあるにせよ、翌日から疼痛に合わせて全荷重である場合がほとんどであった。

そんな感じなので、「頸部骨折の理学療法は難しいのか?」質問にまず誤解を恐れず私の回答をしておくと「理学療法自体を難しいと感じたことはない」である。

1年目入職し大腿骨頸部骨折を担当するのは初めての経験だった。

実習では超急性期病院(大学病院)で「重症内部障害」「人工関節」を担当し、クリニックで「保存症例」「スポーツ整形」を主に見させてもらい疾患としての頸部骨折ははじめてであった。

もちろん新人なりに頸部骨折の情報収集、勉強をした。学生のときにケースレポートでやったことをなぞるように、レントゲンの読み方、術式の違いによる理学療法展開の仕方を勉強した。

院内の勉強会で私の指導についてくれていた先輩が「頸部骨折に対する理学療法」を開催してもらったのを今でも記憶している。

スクリーンショット 2021-07-15 18.56.25

(その当時お世話になった参考書たち)

だがその理学療法展開もピンとこなくなるのにそう時間はかからなかった。

理由は思い出せるのでもこんなところ。

・介入するのにベッドサイドに行って挨拶代わりの「リハビリ拒否」

・認知症などの様々な理由で「会話困難」「昼夜逆転」

・リハビリ以外の時間、病棟では「不動」

・併存疾患(内部疾患)でリハビリ室にいくのがやっと。

などなど。

そもそも上記のような条件に該当しないような人は本当に受傷シーンも不運なだけでさっさと退院していってしまう。(ここに本当はもっと関わらないといけないという問題は今回の投稿では置いておこう。)

先程あげたような人に必要なのは「理学療法」ではなく

・「リハビリ」というワードを使わなくても患者を連れ出せる、病棟ADLレベルをあげる「トーク力」、「タイミング」

・看護師と昼夜のタイミングを好転させてるための介入時間の打ち合わせ。病棟ADLをあげる。睡眠導入剤をいつ、どれくらい夜間使ったかなどを把握する「チーム医療」

・内部障害に代表される「リスク管理」やいわゆる「リハビリテーション栄養」の知識。

こんなところであろうか。

私の4年ごときの少ない経験で語るのは生意気なのは承知してるが、「頸部骨折」における必要なのはどちらかというと上記のスキルであろう。

(そんなこともあり1年目の冬にはNSTに入ることになった。)

もちろん忘れていけないのは「退院調整」だ。

急性期病院などせいぜい長くて2,3週間が入院の限度。

その期間を終えて、「老健におくるのか」「在宅に戻すのか」はたまた「施設」などを考えるのか。

在宅に戻すのであれば「同居人がいるから」「フリーハンド・杖だけ」で戻せるのか「独居で」「介護保険フルコース」が必要なのかを早期に判断しなければならない。介護保険がでる時期を見込んでやはり「老健を経由する」などの判断をするのか。

何にせよ早急に「患者のADL、予後を把握」「患者のバックグラウンドを把握し」「ソーシャルワーカーに動いてもらう」ことは必要となる。

ここで私がNSTに入ったころのことに話を戻したい。正確には入る前だ。

理学療法士として頸部骨折を経験したときの一番最初のショックは今でも忘れない。言葉をあえて直接的に言うなら「本当に骨と皮しかない」と。

理学療法士とはざっくり「関節可動域(ROM)の拡大」と「筋力(MMT)の回復」を扱い、ADLにつなげていくと1年目が考えるのは概ね同意いただけると思う。

だがしかし、「戻すもとの筋肉がそもそもないじゃないか」と当時の私は思った。

高校大学までラグビーをやっていた関係もあり、「筋肉=プロテイン」くらいの知識しかなかったが、「さすがにプロテインはのんでないだろうが、それくらいのことはしてるんだろうか」と興味を持った。

看護記録を見てみても、たいてい喫食料さえまともな数字でない。

食事をほとんど食べてないなんてことはざらだ。

そこで血液データの読み方、栄養方法の種類(経口、経鼻、胃ろう、高カロリー輸液)を学んだ。

「痛い」、「歩容」より先に、平行棒歩いてても「疲れてしまう。」

体力とはなんぞやと「呼吸」「循環器」はじめとした内部障害、「リスク管理」を学んだ。

そんなわけで私の臨床内容が栄養管理をベースとした運動負荷、食事をとにかく食べれる環境整備が主となっていった。

それに加え先に挙げた、「トーク力」「チーム医療」「退院調整をすすめてもらう」などのスキルが「大腿骨頸部骨折の理学療法」では必要だったと今では振り返る。

正確には「大腿骨頸部骨折におけるリハビリテーション」のほうが言葉としては正しい。

もちろんベテランの理学療法士であれば「リスク管理」「病棟ADL管理」「退院調整」を進めながら「理学療法」が展開できるのであろう。自分でも今現在であればまた違ったアプローチができるのかもしれないが、これらの類の話はいいだしたらきりがない。

さて。

あくまで患者の、というか病院としての目標は「退院」だ。

「理学療法が行われること」ではない。

先程も言ったように「もとのようなADLになって自宅に帰っていく」のも退院だし、「老健でもう少しリハビリ。」なのも退院である。

はじめに「理学療法を難しいと思ったことはない」と生意気にもいったが、正確には若手の理学療法士ということもあり「大腿骨頸部骨折において理学療法を実施するスキすら(余裕すら)なかった」というのが正直なところだ。

今現在6年目になり、クリニックに籍を移し、デイサービスなどでの業務もあり、様々なバックグラウンドの方々と接する。大腿骨頸部骨折後の人もいる。

大腿骨頸部骨折のバックグラウンド、サルコペニア・フレイルに代表されるもはや社会的問題と言っていいこの疾患をまた別角度から感じることとなった。

はじめのほうに、「頸部骨折でもすぐ退院していく人もいる」「そこに対する介入もまた必要」と述べたのは問題が一つまたマクロになるからだ。今の職場でそれを感じるが、それはまた機会があったら書くこととしたい。

本日は以上になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

皆さんは「大腿骨頸部骨折術後理学療法」はどのようにお感じになりますか?

様々なご意見、見方に触れらたら幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!