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【飯田線各駅紹介】64 下市田駅

高森町の下市田駅。国道沿いにありながらも、駅の入口はやや入り組んだ住宅地の中にある。
ホームは弓なりにカーブしている。待合室は近年、毛賀駅とほぼ同一形状の、ガラス張りで明るいものに建て替えられた。
国道から駅の入口へは、線路下の地下階段を経由して入場できる。

近くて遠い存在

 辺りは徐々に暗くなっていった。私はこの下市田駅から列車に乗車するため、駅へ向かって歩いていた。初めて行く駅なので、場所がよく分からず迷っていると列車に間に合わないかもしれないと感じ、少々走った。家の最寄りでもなければ学校の下車駅でもないのに、下市田から列車に乗るなんて、いったいどのような用事がこの駅近辺であったのだろうかと思われるかも知れない。いや、用事なんてない。「下市田駅に訪問すること」が目的なのである。
 駅が国道沿いにあるのはかねてよりの情報により認知していたが、ホームは線路をはさんで国道の向こう側にあるため、駅への入場口に関しては未だ未知であった。駅に近づくと、線路の下を通る歩道が現れた。ここを通って線路の向こう側に向かえば駅の入場口へたどり着けるのではないか? その感は当たっていた。私はこれほど鉄道に執念をおく者なのだから、当然といえば当然のことかもしれない(笑)。
 住宅地の路地の中に、ここが駅であることを示す小さな看板があったのだ。ようやくこの入口へたどり着けたのだ。思ったより遠かった。
 早速ホームへ上がり様子を調べる。人が数人いたので細かいところまで観察はできなかったが、夜中にぼんやりと浮かび上がるその存在はなかなか趣深いものがあった。程なくして列車が到着し、それに乗車して飯田駅へと向かう私だった。
 この日は夜間でよく分からなかったため、後日再訪することにした。しかし天気は生憎の雪。凍えるのではないかという寒さの中、この駅に到着した。天候こそ悪かったが前回とは違い周囲は明るかったため、新たな発見をすることができた。しかし今回は帰るときも歩きであるため、その時も寒さに長時間晒されるのは耐えきれないと考え、程無くして引き返すことにした。飯田駅から4駅、意外と遠いのだから、無理しないのが重要だろう。次はまた別の環境のときに行こう。天候も変われば、遠いと感じたこの駅だって近く感じるかもしれない。この「近くて遠い存在」は、私にとっては絶妙に良い距離感だ。これから何度行くことになるであろう? その度に新たな発見があると思うと、この駅への訪問も簡単にはやめられそうにない。


緑豊かな夏の下市田駅。季節ごとに違った雰囲気を感じさせてくれる。
弓なりに反ったホームに、真新しい待合室を持つ駅である。
列車の両サイドのドアとホームの間が広く開くので、可能なら車両中央のドアから乗り降りしたい。

再訪日記

 今回は夏休みの空いた時間を利用して訪れることにした。飯田駅14:07発の下り普通列車に乗った私は、定期券区間内の伊那上郷駅まで列車移動する。そこから先を歩いて行くことにし、元善光寺駅と下市田駅に行ってみようとしたわけである。
 この区間はとてもよく歩き慣れており、いわば私の“散歩コース”となっている。しかし、道を知っていることは良いことなのだが、何度も歩き慣れてしまうとつまらなくなってきてしまうものである。おまけにこの強い日差しの中を歩く私を横目に、そこらの高校生やらが自転車で颯爽と駆け抜けて行く。ふざけんなよぉ(私は自転車を持っていない)と半ば切れ気味になってきたのだが、それも暑さのせいだろうか。
 そこに前から、自転車に乗ったひとが、またやってきた。もうまたかよと思って目を逸らしたが…二度見した。彼は背中に、バイオリンを背負っているではないか!紛れもなく私の所属する部活、弦楽班のN先輩であった。「今からデートです♡飯田線と。」なんて意味不明な冗談をかまして、私はさらに先へと歩き進んでいった。(ちなみに私は、山岳班と弦楽班を兼部している。優雅なイメージの弦楽器🎻と、過酷な登山🏔。意味不明な組み合わせだ。)
 こうして座光寺地区へ入り、元善光寺駅にやってきた。

 しかし目的の1駅目である元善光寺駅は多くの人で賑わっており、なんじゃこりゃと思った。よくわからないので、無視。今回の駅訪問は、“下市田駅訪問旅”とすることにしよう。

 元善光寺駅を過ぎてから下市田駅まではあまり掛からなかった。半年前に来て以来となるが、その時と同じく、駅下の地下通路を通って入場した。そう、ちょっと涼しくなってきた夏の午後、この駅までは“意外と近く”感じたのである。
 さぁ、新たな発見を求めて駅探索を始めよ…いやいや、いきなりチャラいヤンキーどもが駅に屯ってやんじゃねぇか。んだテメェら、と思いながらも構わず突っ込んでいったところ、ヤツらはそそくさと逃げて行った。やはり私の鉄道愛を持ってすれば、ヤンキーなど相手ではないのである。これが、「デート」で、「カノジョ」をワルイヤツから守ってあげた感覚である(謎)。
 それにしても、駅の利用者か、若しくは私のような鉄道ファンでなければ、駅にデラデラと居られては困るのだが。ローカル線と言えど、一応公共交通機関である。電車使うわけでもないあんたらの居場所じゃねぇ。

 ここで私は、友人Aに連絡をとってみる。その友人というのは、この駅から徒歩2分ほどのところに住んでいる。かねてより彼の家の場所は知っていたので、行って見たら相当驚かれた。まぁ、いきなり市町境を越えて隣の市からクラスメイトが来たのだから、ビビるのも当たり前である。
 Aと共に再び下市田駅へ行ってみた…が、そこにはあのチャラいヤンキーどもが、また“復活”していた。もういいや。無視ろ。Aと別れて、家へ向かって歩き出した。
 決して良いことではないが、それでも新たな発見をすることができた。この駅には“ヤツら”がいるのだと。

 そんなこんなで気持ちも晴れなかったが、徐々に日も傾いてきた中 歩いていると、清々しい気分になってきた。下市田駅の所在する高森町と、飯田市の境目となる橋の上。真下に線路が見えるところで、自然と立ち止まっていた。心地よい微風のなか景色を見渡していると、やがて列車がやってきた。元善光寺駅で対向列車とすれ違う。あぁ、やっぱり私はこういう長閑な日常が見たい。たとえ変わり映えなくても、そこに良さを見出せればそれでいい。さぁ自宅まで、あと1時間ほど歩こう。気持ちも完全に晴れて、微風をめいいっぱいに吸い込み、再び歩きはじめた。

訪問日:
2023年12月05日
2023年12月21日
2024年08月16日

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